第8話 称号

 街で狩りの目途を建て、お互いに行ける日を絞った四人はオートヴェム作戦本部の待機室で、依頼を遂行する旨を報告した。すると少し待ってくれ。と言われ待っていると、作戦会議室に招かれることになった。普段は依頼を受諾しても招かれるようなことは無かったので、今回は特別だった。ほとんど財団側の人間が利用する場所でもあったため、彼らには新鮮な場所だった。

 会議室は狭い一室で、大きなクリップボードが前にあり、木の四角いテーブルを囲うように椅子が並べられた場所であった。照明には蝋燭を使っているため、薄暗く、乏しい場所に見えた。

 四人が座って待たされていると2人の男がその扉から入って来た。一人はアーケンで、もう一人は補佐のようにも見えた。

「よく集まってくれた。今回呼び出したのは他でもない、君たちが受けたのが重要な依頼だからだ。」

 アーケンは全員に話しやすい位置にドサッと座り、その横に補佐がついた。補佐はわざわざ自己紹介することもなく、先ほどから抱えていた資料の束をテーブルに置いた。明らかにいつもと違う依頼に四人は少し緊張していた。

「まず、ニードトキスについての情報だが、あまり多くは語れない。危険性は伝えられるが。知っての通り相当な大きさのサソリだ。名前でトキシックという言葉が彷彿とされるが、毒はない。」

 財団はいつも、どういうアポカルかは予め伝えるが、危険指数の高い敵になれば細部の情報までは提示しないことがざらであった。情報の収集が難しいのか、機密情報であるからそうするのかは謎だった。だから、見た目までを語ってくれるとは誰も期待していなかった。

「あの、規模は?」

 既に知っている情報だったので、せめてもう少し良いものが欲しいと思ったコープルが質問をした。

「滅ぼされたのは「ケトナ村」だ。ここから馬車で二時間ほどある所だ。まあ、それを滅ぼす程度と思ってくれ。」

 その場所を四人は知っていた。かなり有名な村で、もう見る影もないが、以前までは街にまで発展する勢いのある場所だった。

「重要な依頼だという理由はここからだ。この依頼は難解なものでもあるが、試験でもある。もし、君たちがニードトキスの討伐に成功したなら我々財団は君たちをもっと上のレベルに引き上げ、雇用することになる。だから綿密な作戦と入念な準備が必要だ。それだけ今回の敵は簡単には行かないと心していてくれ。」

 アーケンがそう言ってテーブルを軽く叩くと、補佐が資料の束から紙を四枚取り出してそれぞれを四人の前に置いた。

「これは?」

 見慣れない紙にラークは聞いた。他三人も同様だった。

「一種の契約書だ。行くことを覚悟したならそこにサインしてくれ。重要な情報はサインした後でないと提示はできない。決まりなんでね。」

 中には契約した舌の根の乾かぬ内に敵の情報を知り、拒むの者もいるが、この四人は違った。(そういうものは特殊な薬で記憶を操作されたりもするがその心配は無かった。)四人が契約書、と言っても、契約文が書かれているわけでもない紙に名前を書いて提出し終えると、またアーケンが補佐に紙を要求し、話し始める。

「此処からは一般には知られていない情報だ。軽々しく口には出さないように。まずはニードトキスのデータだ。」

もう一度テーブルを叩くと、ニードトキスについて言及している資料が提示された。とはいうものの、やはり見た目などは記載されておらず、全てを開示してくれるわけではなかった。そこには戦闘パターンや弱点などのデータが記載されており、その中の一つに気になることが書かれていた。

「5メートルから7メートル?とんでもないな。急所に回るにはかなりの苦難が強いられる。弱点が分かっているのは幸いだが。」

 ダバスドが気づき、口にした。腹が軟質で、弱点になることが分かっていたが、村を滅ぼしたという事実も納得のいく巨体を持ち合わせている敵だったのだ。

「いや、暴れまわられたら厄介なのは確かだが、拘束することができれば何とかなるかもしれない。」

 エンサントは希望を見出した。今の彼らには、巨体であろうともそれを倒す自身が無いわけではなかった。しかし、これ以上は行ってみないわけには分からなかった。財団の提示する情報に限りがあるし、敵も近くで研究できるような安易なものではないと把握していたからである。

「そうだね。十分さ。後はどう対策するかを考えるだけだね。大型のサソリというのは分かっているんだから。」

 コープルは今回のことを前向きに考え、狩りの準備をする提案をした。情報をもっと詳細に知ることはできないことは他も理解を示していたので、事は滞ることなく進んだ。アーケンは配った紙を大事そうに回収し

「そう言ってくれるなら心強い。我々も出来得る限りはサポートすることは約束する。くれぐれも気を付けてくれ。詳細はここで話してくれて構わない。終わったら受付に報告してくれ。」

 と腰を上げながら皆に言った。横に居た補佐も黙ってお辞儀をし、会議室から出て行くアーケンの後をついていった。その後は皆で作戦を練り、栄冠となる敵について考察を施して時間を過ごした。

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