第7話  高み

 ダバスドたちに転換期が訪れるのにそう長い年月は掛からなかった。彼らは明らかに才能があり、戦闘を得意としていた。前に苦戦したトレントさえも赤子の手をひねるかのような強さまで、およそ2年で辿り着いており、アボーブ討伐も日常になっていた。ダバスドたちは天才的なものを持ち合わせているわけではなかったが、確かに他より優れている点が多かったのだ。

「お前の所にも来てるだろ?アボーブ討伐の依頼が。」

 飲みの席で一息がつき、ダバスドはコープルに話しかけた。この一年、ダバスドとコープルは前の言葉通り、ほとんどの依頼を一緒にこなして来ていた。その間、様々なメンバーとの協働もあったが、彼らほどに成長の速いものは居なかった。この街でも今回提示された依頼をこなせるのは数人しかいない。

「もちろんさ。ダバスドに後れを取るなんて御免だからね。」

 コープルはニヤリと笑ってジョッキを持ちあげて答えた。その顔には自信と慣れの表情が現れていた。

「今回の相手は比べ物にならない程強いらしいな。「ニードトキス」っていうでっかいサソリだ。何か知っている情報はあるか?」

 ダバスドもジョッキを持ち上げ、質問する。彼は財団が管理する公開情報を読み漁るのが好きだったが、このアボーブに対しては情報が足りなかった。

「聞いた話によると、村一つを滅ぼしたらしいね。」

 そんな相手と戦うことがわかっても、この二人は落ち着いていた。財団側は災害に応じて功績を与えていたが、村を一つ滅ぼす程の敵を倒すということはそれを上回る人材を派遣することになることは間違いなかった。今までの敵はせいぜい放っておけば被害が悪化する危険分子だったが、ニードトキスは危険そのものだった。

「後二人は俺らの先輩だ。明日顔合わせをして、簡単な依頼で連携を整えようという話になっている。コープルが良ければ後で話を着けにいくが?」

 ダバスドは一度、一緒にその一名と依頼に出かけたことがあった。ここに長らく居るもので、その強さは本物だったが、数々の躍進に注目されるダバスドたちには一目置いていた。

「僕は構わないよ。じゃあ、明日その人たちと打ち合わせをして、討伐のお日柄を決めようよ。」

 コープルは答えると酒を飲み干し、席を立った。ダバスドもその後店を出て、例の先輩たちに話を着けにいき、明日の予定が埋まることとなった。

 翌日の定時に待機室に新たな四人が集まった。ダバスドとコープル以外の二人はどちらも男で、野郎だけのパーティが完成した。タンクとヒーラーが補填され、バランスのよいパーティだった。

「おう、才ある若いの。吾輩は「ラーク」だ。見ての通りだがタンクをしている。」

 ダバスドたちの到着に気づいた一人が、コープルに挨拶をした。この男が以前、ダバスドと依頼に行った男であった。準備は既に終えられており、膨らみのある重い甲冑を全身に纏い、大きな兜を抱え、斧槍を得物にしていた。顔には眼帯があり、目の鋭い屈強な中年の戦士であった。

「こんにちは。僕はコープルです。そちらは?」

 自己紹介をし、もう一人のヒーラーに向き直った。

「私か?私は「エンサント」である。貴殿たちとは初めてであるな。以後、お見知りおきを。」

 もう一人はしゃべり方が独特の、落ち着きのある男だった。ダバスドたちよりは年上だが、十分に若かった。エンサントはヒーラーらしく、革で出来た軽装に大きなバックパックを背負っており、武器に刺突剣を使っていた。髪をオールバックにし、さわやかな微笑みが特徴的な清潔感のある男だった。騎士のような話し方の半面このような風合いだが、妙にしっくりきていた。

 ダバスドたちも自己紹介を終え、準備を済ませ、メンバーが結成された。いくら戦場を共に生き残った身でも、一時的なものが多いことに慣れている彼らにとってはこれで固定されることはないだろうが。

 連携のための依頼は取るに足らないアボーブの討伐だった。以前にも倒したことがある個体で、この四人には肩慣らしのようなものだった。ラークは大剣を豪快に振り回し、圧倒的な力で敵を潰すことを得意としており、味方への援護も怠らないが、殲滅においても引けを取らなかった。エンサントは奇跡の様なものは使わず、バックパックから霧状にポーションを振りまき、回復を任されていた。普通にポーションを飲むよりも回復効果は薄いものの、エンサント自体が戦闘に積極的に加わることでその弱点は補われていた。

 相手は「オムトーン」という獣だった。手慣れた敵ではあるが、トレントよりは強敵と言えた。オムトーンは熊の様な体に、骨が露出したような硬質な棘を全身に生やした見た目をしており、顔も骨が形作っているような頑丈なものだった。棘を飛ばして攻撃したり、骨のお陰で刃が届きづらかったりと耐久の高さを誇っていた。非常に獰猛で、生態系が崩れてしまう程のものなので、討伐の対象となっていた。

 それと彼らが対峙したのは炭鉱だった場所であった。炭鉱の奥はそこそこの広さがあったが、四人が広がって戦うには狭い場所だった。トロッコの廃棄された線路が所々にしかれた暗い場所だ。コープルが松明をもち、照明をそれに頼っていたが連携が崩れる要因にはなり得なかった。

 戦闘はあっという間に終えられた。暗がりから急に飛び出してきたオムトーンだったが、ラークの大剣で薙がれ、体の棘が半分程剥がれて怯まされることとなった。形成を立て直し、棘を拡散させて飛ばしたものの、ダバスドたちは顔色一つ変えることなくそれらを弾いたり、避けたりして防いだ。その次にコープルがバフやデバフを与えることもなく、ダバスドが背中に飛び乗るように上から剣をオムトーンの棘の隙間から深々と刺し、引き裂いて致命傷を与えた。いくら獰猛でもこんなにもあっさり死んでしまうのは同情の一つでも与えたくなるものだ。

「ただの獣だな、こいつも。」

 剣の血を払いながら、ダバスドは呟いた。ラークたちの活躍も殆どなく、戦闘は終わった。

「まあ、いい練習にはなったさ。連携も十分にとれるだろう。」

 ラークはそれに対して答えた。後は何倍も今までのどの敵よりも強いそれと対峙する準備をするだけだった。

「回復の必要も無かったが、ニードトキス戦では全力で貴殿たちをサポートしよう。」

 エンサントも異論はなく、来るべき時のことを頭に浮かべていたのだ。これで彼らたちの間に仲間意識が生まれ、作戦を遂行する準備をするために街に帰ることとなった。

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