第5話 レリック

 魅惑の森に一週間後に向かうことにした四人は、それまで別の依頼や私生活に時間を費やすことにしていた。街の外に出ることも可能で、付近は危険な場所も多く立ち寄れる場所が沢山あるわけではなかったが、気分を晴らすための環境は整っている方だった。ダバスドもたまに外へ出かけ、自然や他の街に心を馳せることを行っていた。最も、この辺りは財団の保有地で、他の街に行くには相当な時間が掛かっててしまうのが難点だったが。

 アボーブ討伐に向かう二日前に、コープルはダバスドに合う約束を取り付けた。他の依頼は個別に行うことも多く、普段は依頼の後などにどこかへ連れ出すことが多かった。

 だが、この日はあくまで友人として呼び出したかった思いがあり、コープルはダバスドだけを呼び出していた。商店街を待ち合わせ場所とし、そこにダバスドも到着した。

「どうしたんだ?今回は飲みじゃないのか?」

 ダバスドはコープルの肩を叩き、笑って挨拶をした。酒場に共に入ることはしばしばあったが、呼び出されたのは昼間であった。

「うん。ショッピングを楽しみたくてね。まあ依頼に関係あるんだけど。」

 コープルはそれだけ言うと詳細は語らず、ダバスドを引き連れて歩き出した。そのまま街角まで行き、一軒の店の前で足を止めた。

「ああ、なるほど。確かに必要だな。」

 ダバスドはコープルの目的を察して笑みを浮かべた。彼らの目の前に合ったのは「レリックハウス」という名称のレリックショップだった。ここではレリックと言われる討伐者の役に立ってくれる装飾品が売られている。レリックというのは様々な形で存在している。というより定まった形というものがない。レリックはネックレスだったりブレスレットだったり、はたまただだの石や宝石に見えるものだったりする。これらを本来の使用用途を守らなくても身に付けるだけで、少しだが確実に、能力を一時的に上げてくれることが証明されており、狩りに磨きがかかった討伐者は必ず通る道であるのだ。

 今までは小型、中型のアポカルしか相手にしていなかったため必要としなかったが、アボーブ討伐となればこの機会に他は無かった。ダバスドも勿論知っていた。この街に来た時に知ったし、彼が趣味としている情報収集の際、文献などを読み漁った時も何度も目にしていた。しかし、実際にそれを手に取って見てみたことは無かったため、この街に来て久しぶりの興奮が呼び起されたのだ。

 店の中は雑貨店の様であり、大きな棚が中央に置かれ、壁には首掛けの類が掛けられていた。ここはレリック専門の店ではあったが、その性質上商品の数々は種類が豊富で彩がある場所だった。店はそれ程広くなく、棚の周りを一周すれば置かれている全ての商品を見ることができる程度だった。

 ダバスドたちは棚に所狭しと並んだレリックたちを見物し、その効力に目を通す。レリックそれぞれには値札の様に短く効力が掛かれたタグがつけられていた。例えば基本的な所で言えば「攻撃力が上がる」「毒への耐性が上がる」「足が少し早くなる」というような感じだ。そしてレリックは数を持てばいいわけではなく、一つしか効力を発揮してくれないもので、複数持てばどれも効力を失ってしまう。なので、ダバスドたちも自分たちに一番適したレリックを探すことになる。

 世には絶大な効力を発揮するレリックがあると文献で知っていたダバスドだったが、ここにそんな優れたものは置かれてなかった。それらも人選ぶと耳にしていたし、期待をしていたわけでもなかった。しかし知っていたからこそ、ここのレリックが優れたものではないということも同時に知れたのだ。

「これいいな。僕はこれにしよう。」

 ダバスドが思い悩んでいるとコープルが自分のレリックを選び出しそれを手に取った。それは両手に収まる程の大きさの単眼鏡だった。ダバスドは自分も参考にするためそのレリックのタグを覗き込んでみた。それには「飛び道具の射撃距離が少し伸びる」と書いていた。確かにコープルに適してお誂え向きのものだった。戦闘が一新されるようなものを探していたダバスドだったが、ここの物でその期待に応えてくれるものはないと改めて思い、微妙な変化で有用なものに思考を絞って選んだ。

「俺はこれにするよ。」

 店の中を一巡し直し、ダバスドは自分のレリックを選び抜いた。それは身に着けられるように加工された何かの羽毛で、タグには「機敏性が上昇する」と書いていた。狩りに慣れてからは鉄の盾に変え、装備も最初より重くなっていたため、このレリックはダバスドにとって少しありがたい代物だった。今までそれに大きな不自由を感じていたわけではなく、支障がでるような悩みではなかったが、戦闘は幾ばくか楽になるものだった。

「いいじゃないか。それにしてもあんなに鉄を身に着けてアタッカーが務まるよな。」

 コープルもダバスドの取ったレリックの効果を見て感心する。実際、アタッカーは普通、装甲が厚くなく、素早く動けるために防御を捨てるのだが、ダバスドは甲冑とはいかないものの、全身の所々に鉄を当てた装備を愛用した上で俊敏に動き回ることができていた。

「まあ、こう見えて昔から力仕事には自信があるんだ。」

 ダバスドも自分が戦闘におけるセンスが人一倍高いことは薄々気づいていた。それでも彼は未熟で、成長し続ける必要があったのは確かだ。ダバスドたちはレリックを店のカウンターまで持って行ってそれらを購入し、新たな付加価値に小さな希望を寄せた。街を歩いて解散した後はそれぞれで過ごし、来るべき時を待つことにした。

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