第4話 ボス討伐の依頼

 訓練は日をかけて何度も繰り返され、小さな依頼もこなせるように成長しながら時は流れた。財団の、パーティメンバーを固定しないことを推奨する旨を強調するためにメンバーは違うことが何度もあった。その場合、依頼を確認し、それに見合ったメンバーをあちらが提示し、その中からパーティ編成を行うというのが主流で、財団がそうするように推しているものだった。勿論、あちらが提示していないものをメンバーにするのは自由だが、ダバスドも一人で依頼を確認し、選ばれたものから編成を決め、同意してもらうというのを何度か行ってきた。

 しかし、大きな目標が立つまでは共に上を目指そうということになり、最初の訓練を行った四人が集まる時間が圧倒的に多く、後からここに来たダバスドも彼らとの成長も足並みを揃えていった。街への貢献度は高く、普通の討伐者よりは少し優れていた。

 その四人で過ごす中で、タラックとウェナイが思いを寄せ合っていることにダバスドは気づいた。前々からコープルはなんとくではあったがその雰囲気を感じていた。その男女二人は訓練や狩りでは一メンバーとして接し合い、特に支障がでることはなかったが、それ以外ではくっついていたので必然的にダバスドとコープルが一緒にいる時間も増え、こちらの二人の間にも友情が芽生えていた。

 その関係性のまま、何カ月も経って手を焼く狩りも少なくなっていき、とっくに訓練は必要なくなっていた。戦績も素晴らしく、頼りがいのある討伐者となっていた。そんなある日、ダバスドは招集を受け、例の酒場に向かう事となった。席には既にコープルがおり、後からウェナイたちも到着し、この日もあの四人が揃った。全員が席に着くとコープルが話し始めた。

「わざわざ呼び出してごめんね。皆に吉報だ。ついに「アボーブ」の依頼がきた。これは栄えある僕たちの躍進となるよ。」

 アボーブ。というのもアポカルの一つである。アボーブはアポカルに浸食されているエリアにいる長や、より驚異的な存在になると考えられている、いわゆるその場所のボスのことである。本来、財団が個別に能力を判断し、それぞれの討伐者に依頼などを出すのだが、今回はたまたま四人が認められたということと、依頼をこの四人で複数こなしていたことを把握されていたため、まとめて依頼を出すということを財団側が施したということだった。

 そしてこのアボーブ討伐は討伐者にとっての登竜門でもあった。これに成功すれば多額の報酬と共に討伐者としての素質を本格的に認められることになる。よってこの街に居る並みの討伐者が簡単に受けれるようなものではなく、死の危険がより濃く伴うものでもあった。だが、その依頼に手が届いたのは十分に早い功績と言えた。

「ついに来たんだな。場所はどこだ。」

 ダバスドは聞いた。この数か月間、ダバスドも色々と学んだこともある。財団は機密事項が多く、深く知ることができないが、狩りやそれに付随する知識は前とは比べ物にならないくらいについていた。他の者たちも同様で逞しく戦士らしい顔つきになっており、今回の件で物怖じするものはここにはいない。

「「魅惑の森」だ。僕は初めてだがみんなは?」

 危険度が高まっていることから、そこに立ち寄る依頼は彼らの元には届いていなかったが、一応コープルは三人に聞いた。

「私は行ったことあるわよ。深くは潜ったことはないけど。」

 コープルが聞いたのも甲斐があり、ウェナイが既知の場所であることを明言した。ただ赴いたことがあるだけでも情報材料としてはありがたかった。

「それは頼もしい。何か役に立つようなものはあるかい?」

 興味深そうにコープルが聞く。いつも作戦は基本的にコープルが立てていた。それでも、より詳しい情報が持っている者がいればその者が作戦を決める傾向が彼らの中にはできていた。

「薬草とかは沢山ありそうだったわね。私は詳しくないから使えるか分からないけど。道はわかりやすかったわ。特に迷うようなこともないかも。」

 予想以上に有力な情報をウェナイが提示した。これにより、ウェナイが行動基準を決めることが決定し、それを図る段階へ入った。

「では、詳細に移るね。ターゲットは「トレント」だ。巨木の怪物だね。魅惑の森深層にいて、その位置までは掴めているそうだ。地図はこれね。日が上っている時は活発だから夜に奇襲する。魅惑の森自体は規模が狭いから、昼に入れば夜には着くということらしい。ただ問題は普通のアポカルも生息するということで、そう簡単に事が運ばないことも考慮しないといけないね。」

(余談だがトレントは本来、木の妖精だが、財団が皮肉の意味でそう名付けたという由来がある。)コープルは作戦を建てることに才があり、綿密に練られたそれらは数々の小さな勝利を与えてきた。今回も、ウェナイの意思決定権に必要な情報を盛り込んで話した。

「提案なんだが、キャンプを行うのはどうだ?途中で戦闘があるにしろないにしろ、一度休んで襲撃に備えるというのは?」

 コープルの話を聞いて深く考えていたウェナイを尻目に今度はタラックが助言をした。

「いいわね。それで行きましょう。じゃあ、私の結論を出すね。一泊二日を過ごせる装備を調達して魅惑の森に向かう。トレントのいる場所まで地図に従って行き、ポイントまで十分程度の距離がある所でキャンプを設立し、一日目か二日目の夜に備える。異論はない?」

 それを聞き、ウェナイも結論を出せた。その答えに満場一致で顔が縦に振られ、アボーブ討伐の進路が決まった。

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