第3話 狩り
数時間の訓練と一時間ほどの昼休憩が行われた後、いよいよ実施訓練を取り行うこととなった。といっても立派な狩りで、弱いものの、列記としたアポカルとの初戦闘である。
草原から茂みの濃い方へ進んでいくと、既に廃屋となった板小屋がポツリとある場所へと繋がった。かつてここが別荘のようであったというのは、場所と大きさから予想の着くものだった。距離はあったが、何者かの気配がその奥から漂っている。
「ここから先は掃討エリアだ。先に進めば、今のお前らでは太刀打ちできない者もいるが、ここの奴らは残党だ。手に余るものたちだろう。しかし、狩らねばならない。」
トレスが小屋の前で止まり、気配のする方に目をやりながらダバスドに説明した。アポカルの討伐には様々な理由があったが、その一つは人の住まう所の奪還である。
「ここから先はお前らだけで討伐するんだ。タラックたちはダバスドに注意を向けながら戦え。」
続けてトレスが奥の小屋に指を指して言った。タラックたちは今まで、アタッカーなしで訓練をしたため、彼らにとっては初のフルメンバーとなっていた。
四人は陣形を崩すことなく小屋の中を進む、小屋の中は明るかったが、意外に広く、アポカルの居場所までは特定できなかった。歩いて程なくして、荒い息と板を踏む音が聞こえてくる部屋の前に着いた。
合図と共に四人はその部屋で突入し、ダバスドにとって初のアポカルと遭遇することとなった。そのアポカルは全部で三体おり、人の高さほどの体躯で薄灰色の細い四つ足と長い首があり、頭はマントを被せたかのような膜とアリジゴクのような強靭な顎を持ち合わせた見た目をしていた。アポカルは動物が変化したような見た目をしたものが多いが、そうでない場合も往々にしてあった。
「「ネイリオン」だ。結構素早いから気を付けろ。」
タラックは目の前の敵を教えつつ、ダバスドに注意する。アポカルというは総称で、様々な個体があり、それぞれにも名称が定められている。ダバスドも敵を警戒しながら頷く。ネイリオンもこちらに気づき、直ぐに攻撃態勢を取った。アポカルの共通点は人間に対して敵対的で、好戦的であるというところにある。
「始めよう。行くぞ。」
練習の時と違い、コープルがフラスコ瓶を取り出し、その場で床に叩きつけて割った。軽快な瓶の割れる音とともに、ダバスドたちの周りに臭気が立ち込める。これがバフ、というものだ。パーティメンバーの能力値を一時的に上昇させることにより、戦闘を優位に進めることができるというものだ。不思議なことにダバスドたちはそれを吸うことで、いつもより軽やかに動いたり、攻撃力が増したりする。デバフも同様で、ポーションなどを敵に使うことで、弱体化させるというものだ。
それを合図にしたように戦闘が開始された。勢いよくネイリオンは四人に飛び掛かろうとするが、タラックが大きな盾で一体の進路を塞ぎ、もう一体をマチェットで切りつけて怯ませる。すかさず後ろのコープルが怯んだ一体に弓を撃ちこみ、倒した。残りの一匹はダバスドの方に飛び掛かったが、ダバスドが軽々と躱し、連撃で絶命させた。盾で進行を阻まれたネイリオンはタラックに圧し掛かったがタラックに盾で抑え込まれ、コープルがそれに毒瓶を投げつけて弱らせ、タラックが止めを刺して戦闘は終了した。ウェナイは後方で臨戦態勢をとっていたが、回復の必要もなかったので今回出番はなかった。
こうしてダバスドにとっての最初の訓練兼狩猟が完了した。そこに生まれた返り血も、ネイリオンの断末魔もダバスドを動揺させる要素にはならなかった。それらを前にしても慌てふためくことなく、命のやり取りを行う戦場に彼は悠々と立っていた。
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