第2話 武器を手に

 ダバスドは翌日、訓練を受けるために「オートヴェム作戦本部」へと向かった。ここは財団が討伐者に訓練や依頼を斡旋する場所で、財団もしくは作戦会議ならび討伐者が依頼を受けに行く場所となっていた。

 建物内は大広間と待機室、作戦会議室からなり、討伐者は大広間へ集まって与えれた依頼に応じて各々で作戦や行動方針を決める。作戦会議室は基本的に財団職員が使う場所であるので、大掛かりな討伐依頼にならない場合は、広間での打ち合わせが行われる。本日は何をするかも知らされていなかったため、ダバスドは言われるがままここに来た。大広間はテーブル席とベンチが交互に並べられた少し変わった構造の場所だった。大広間に入ってすぐに、奥のベンチに昨日の御一行が見えた。ダバスドはそこに駆け寄り声を掛ける。

「おはよう。今日はよろしく。君がタラックか?」

 コープルとウェナイの他にもう一人男がいた。その男はダバスドの呼びかけに答えた。

「おうよ。俺がタラックだ。機敏に動けそうで安心したぜ。」

 タラックは如何にも守りに自信があるとでも言いたげな、大柄で筋肉が発達した男であった。一見むさくるしいこの男だが、頼りがいがあり、このパーティでも浮いた存在ではなかった。

「よろしく。タラック。それで、訓練とやらは?」

 自己紹介も終え、ダバスドは質問する。ダバスドは冒険の匂いに胸を高鳴らせ、気持ちも急いていた。

「それよりもまずは装備だな。丸腰じゃアポカルには勝ないよ。乙なものではないけどね。」

 コープルは笑って言った。装備に関しては、討伐者自らが購入、装備し依頼に挑む。よって個性も出、全く同じものが支給されるわけでもないのだ。ダバスドはこれを聞いて自分で装備を調達するという事にも興味を持った。というわけでダバスド率いる一行は武器、防具屋に赴いた。

 武器屋、防具屋はそれぞれ違う建物だったが、どちらも規模が大きく栄えているといって差支えなかった。どれも武器庫の様に武具、防具が陳列し、それを買うというもので、財政的な問題が解決すれば発注もできるという事だった。討伐者の役割に応じた武具たちが置かれているために、中も相当大きな空間ができている。鉄と木の匂いが鼻を柔らかく撫でる。

「それで、俺に合うのはどれだろうか。」

 ダバスドに武器の知識は無かった。いい意味でどれを見ても同じで、戦えそうな気がしていた。

「最初だからな。剣は振りやすいものがいい。盾も重すぎないように、木の物を選ぼう。」

 タラックは武器に詳しいらしく、それぞれの武器の利点や欠点を、聞かれれば教えた。結局自分では決めきれず、ダバスドは三人の意見のもと買うことにした。

 選ばれた剣は直剣だった。膝の高さほどある刀身に、両手で握れるほどの柄がついていた。短めだったがずっしりと重いものだ。盾は木の厚い板を二枚合わせて鉄の留め具で固定された無骨な四角い盾だった。これも同様に重く、これらを持ち、更に防具を着て機敏に動くにはかなりの鍛錬が必要だと予想された。しかし、ダバスドにはそれを乗り越えるだけの気力があった。かねてからの憧れもあったが、自分の人生を栄えあるものにしたいという願いが大きかったからだ。

 防具は軽装だった。コープルやウェナイが着ているような革をベースにしたものに、所々鉄と鎖を当てているようなもので、重くはあったものの、武具などに比べれば機動性を落とすことはなさそうだった。新人らしい装備が完成し、清算した。財団からの援助で、新人への負担は軽くなっており、最初の装備の8割ほどの値段は補填されるという事だった。

 そしてついに最初の訓練を受けることとなる。本部へ戻り、待機室で訓練の受注を行う。待機室は受付のカウンターと、着替えのための個室、街の外に繋がる幾つもの門が併設されている場所だ。ここでパーティ編成の申請を行い、受けるべき訓練や依頼を受諾する。また、訓練も依頼も両方、討伐者自らが選べるわけではなく、パーティのレベルに合ったそれらが提示される。最終的な準備を終え依頼に向かっていくのもこの場所だ。(ここからだけでなく、街の正門からも依頼された場所に向かうこともあるが。)

 受付で訓練の手配をコープルが終わらせ、装備を整える段階に入った。受付カウンターの横には大きな台座がある受付があり、普段はここに自分たちの装備を預け、依頼の度にそれらを引き出し、身に着けられるようになっていた。コープルたちはそれぞれ自分の装備を引き出し、個室に入って着替えて出た。

 コープルは鎖帷子の上に幾つものポーチが縫い付けられたポンチョのような布を羽織った軽装をし、武器は鉄の弓を持っていた。ウェナイは鉄をあしらった革の鎧の上にローブを纏っており、メイスと丸い盾を装備していた。タラックは薄手の甲冑に身を包み、顔も兜で覆われ、半身が隠せるほどの大きな盾にどっしりとしたマチェットを得物にしていた。どれもこれも色があり、華があった。このように個性的で、自分の意思が反映される装備品は、少し楽しげでもあるとダバスドは感じた。ただ敷かれたレールを進むだけだとしてもそこにある冒険には価値があった。

 待機室の一つの門からダバスドたちは出て行く。その先には馬車があり、目的の場所まで運んでくれる。訓練の場所は馬車で移動して数分、弱いアポカルが生息する比較的のどかな草原だった。訓練の場合監督官を付けることができ、この日ダバスドたちはその者と共に向かう事となった。

 ダバスドたちが馬車の荷台に乗り込もうとすると、一人の男が既に乗っていた。例の監督官だ。

「よお。コープル、ウェナイ、タラック。それと新入りだな?我はトレスだ。よろしくな。」

 トレスは財団らしくスーツを着ているため、戦いには参加しないことが見て取れた。監督官としての威厳はあり、強面でもあったが積極的な交流を好む姿勢からその人柄は評価されていた。ダバスドは初めてだったが、過去の数回、コープルたちの訓練に参加していたのでその者たちとは面識があった。

「よろしくお願いします。ダバスドと申します。」

 ダバスドが自己紹介をし、それにトレスが答え、手を打ち鳴らすと馬車が走り出し草原へと向かった。

 特に会話もなく目的地には着いた。馬車の前は草原で、足を取られるものも無かったので、訓練にはもってこいの場所であった。切り株などが幾つもあり、視界の妨げにもなるので連携を保つための訓練にも適していた。

「ここは「微侵の自然区域」と呼ばれている。まあ草原で構わない。ここも我々が保有する区域だ。」

 馬車から降りると、初めてのダバスドのためにトレスは語った。アポカルの浸食が見られた区域は財団により確保され、そこでの討伐が行われることになっている。財団は掃討奮起以外にも存在するが、微妙に目的が違ったり、規模も違ったりする。この財団はその中でも最も規模が大きいものだった。

「お前らはいつも通り編隊を組め。訓練が終わればすぐに狩りに出るぞ。」

 トレスが真面目で威圧感のある声に変わり訓練が開始された。広々とした草原にコープルたちが一定の距離を保ちながら広がった。

「よし。ダバスド、お前は基本的に俺の横につけ。この陣形の場合常に距離に気を付けながら戦うんだ。」

 位置についたタラックがダバスドに呼び掛ける。全員が真剣な表情で、狩りをする身にあるという事を弁えている風だった。ダバスドも直ぐに合流し、距離を取る。

「こうか?」

 位置についたダバスドはタラックに聞いた。

「そうだ。なかなかいいぞ。そしてこれからが重要だ。常に俺らは後衛の二人に攻撃が届かないように気を配ることを覚えておけ。トレスが笛を鳴らしたらここから二股に分かれろ。」

 この時ダバスドたちは逆ハの字になるように陣形を組んでいた。前二人がダバスド、タラック。後ろ二人がコープルとウェナイだった。

次にタラックの言う笛が鳴る。また素早く分かれ、その場の雰囲気に従ってダバスドは全員と距離を取る。

「これが囲むときの陣形だ。敵が暴れまわる時やリスクを分散しなければならない時に使う。また、こうならざるを得ない時も、距離感を忘れるな。」

 ダバスドたちが広がった後は、ハの字から綺麗な四角ができていた。右に倣えでやっていた割にはダバスドもかなり正確に動けていた。後は重い装備でこの動きがどれだけ俊敏に行えるかという問題だけだった。

「他にも応用が幾つもあるが、それは追い追いやる。」

 トレスが口を挟み、訓練の熟練度の向上に適した指示を出した。その後は今の陣形を、障害物を挟んでしてみたり、一人が戦えない状況を想定してされたりといった感じに訓練が続けられた。途中、武器の扱い方や、それぞれの役職の役割補完などもダバスドは学んでいった。初めて剣を握り、陣形を組むのにダバスドは機敏に動き、瞬く間に適応できた。だが、それは当然の理であった。なぜなら財団が彼を選出し、招き入れた理由がそこにあるからである。

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