Controlled Hope
aki
第1話 新たな世界
まだ、火薬なども殆ど行き渡っていないそんな頃、多国では「アポカル」と名付けられた怪物たちが蔓延っていた。様々な脅威を引き起こすそれらは、世界的な災害に成りうると考えるものたちによって結成された財団により抑圧されている。その一つが「掃討奮起」という財団である。ここでは狩人となる「討伐者」によって部隊編成が組まれ、アポカルへの対処が日々行われている。討伐者に選ばれるものは財団によって何らかの特異性を確認されたものがほとんどで、必要に応じて招集が行われ、生活を共にし、そこでの活躍が期待される。中には断る者もいるが、最近では財団の密かだった活躍も注目を浴び始め、憧れの職業としての立ち位置も考えようによってはあった。(アポカルに関わる財団はここだけではないが、今回は掃討奮起に焦点を当てて話していこう。)
「ダバスド」というこの男も掃討奮旗に選ばれ、アポカルの排除を行う世界に足を踏み入れることとなった。選定に疑問を呈すダバスドだったが、仕事が見つかったことへの喜びもあり、それも悪くないと考えた。
ダバスドは財団の統括するエリアにある街の門を叩く。選定が行われたことを手紙で知らされたダバスドだったが、その手紙に場所の詳細も載っていたというわけである。今、ダバスドが叩いた門の先にあるのは「オートヴェム」という街である。一応この様に名称はあるものの、街一帯は財団の管理下にあり、財団が保有するこれらの街は総称して「プランニングサイト」という名称がある。
オートヴェムの門はゆっくりと開き、中から数人の団体が現れダバスドを迎え入れる態勢をとる。ダバスドが手紙を見せると先頭のデンガロンハットを被った男が妙に低い声で挨拶をした。
「ようこそ我が財団へ。オートヴェムを管轄としている「アーケン」だ。よろしく。手取り足取り教えたいが、忙しい。施設の紹介だけは済ませる。なあに、直ぐに慣れるさ。」
他の人々はダバスドの顔を見て、礼や挨拶をすると方々へ散っていった。アーケンはこの街のマネージャーらしいが、時間は多く割いてくれそうになかった。ダバスドは不安な気持ちも抱えていたが、距離を置かれているようで気軽に色々教えてもらうことはできなかった。
実際、このアーケンという男は曲者で、仕事以外では滅多に街に顔は出さず、統括を行っているに過ぎなかった。仕事は十分にできるのだが、反面それにしか能が無いような男だった。
アーケンはダバスドに街の随所を案内して周り、要件を済ませていった。基本的にプランニングサイトでは「装備屋」「薬屋」「レリックショップ」などからなり、狩りをより快適にさせる工夫を凝らしたものがほとんどである。その他食料品店や宿屋などもあるが、多彩だとは言えぬものだ。ダバスドは急な展開に驚きもあったものの、生活が進展する期待の方が大きかった。
ダバスドが最後に連れて行かれたのは屋外に設置された簡易的な舞台のある演説会場といったところだった。舞台の前には既に何十人もの人だかりができていて、どうも演説が始まるのを待っている風だった。ダバスドは舞台の前に待機させられた。自分と似たような風合いの者たちが数名そこにはいて、後からやってきては待機させられるものも居た。
ダバスドがそれらの新人の風を感じて数分、壇上に男が上がり、演説を始めた。男はフォーマルなスーツを着た老人であった。財団職員は、何処に行ってもスーツを身にまとい、業務を行うというのが常だったのだ。つまり、彼らの正装だ。その男は、腰の高さほどの杖に寄りかかるように立っていたが、腰が曲がっているわけではなかった。
「わしは「エド」だ。このエリア一帯の統括マネージャーをしている。今日は「派遣日」じゃ。我々財団が戦力に値する者たちをここに招きいれた。今、前に立っている者たちがそうだ。全部で5名。そして、新たに加わる君たちは精鋭じゃ。自分の腕に誇りを持って戦ってくれ。依頼をこなすためにはパーティを組む必要がある。普段は好きに組んでくれてもいいのじゃが、勝手が分からぬ君たちのために予め編隊を行ったから最初はそれに従ってくれ。慣れてきたら編成を自由に組んでくれ。だがなるべく固定メンバーは減らすことを推奨する。詳細についてはゆくゆく分かる。以上だ。」
統括マネージャーが二人も出たが、エドは財団が管理する範囲はこの辺りの森や村なども含み、アーケンよりも立場は上だった。エドは一気に話し、壇上を直ぐに降りた。新人の自己紹介も行われず、次に質疑応答が始まった。そこで聞かれたのは依頼や施設についての質問が多かった。依頼は基本的にあちらから提示され、それに従うという旨だった。そこに拒否権も存在し、命の危機に陥る可能性を自身で管理すれば、身の安全は確保されていた。施設もダバスドにとって申し分のないもので、ここでの暮らしも文句なくできる内容だった。最も、ダバスドは家族も居ないので雨風がしのげれば帰る場所などどこでも良かったのだが。
質疑応答の後はそのまま解散となり、新人歓迎会の様な催しも行われることは無かった。しかし、財団が決めた各班では新人を歓迎する動きがあり、数名の加入だったが賑やかしい雰囲気が街を包んでくれていた。ダバスドはアーケンに一枚の紙を貰い、こう言われた。
「君の班はこちらに居る。今日、一名は居ないが他は居る。仕事などはそいつらから学んでくれ。では。」
受け取った紙はこの街の地図だった。地図の「酒場」には赤い丸印が付けられ、その横に四角の中に数個の四角がある図が付け加えられて並んでおり、その一つにまた赤い印がついていた。自分が行くべき場所が酒場にあることは分かったものの、その横の記号について理解が追いつかなかったダバスドだったが、アーケンも言うだけ言うとすぐにその場を離れていった。
やむなくダバスドは酒場に向かい、その扉を開けた。個々に新人を祝う声で盛り上がる会場を見渡していると、先ほどの四角の記号が席順であることにダバスドは気づけた。酒場は広く、往来する人で見えにくかったが、印をつけられた席に男女が向かい合って座っているのが見えた。
ダバスドは早速そこに向かい、地図の記号で間違いが無いことを確認してから声を掛けた。
「こんばんは。ダバスドと言います。指定されたメンバーということで声を掛けさせていただきました。訓練を共にさせて貰えますか?」
ダバスドは畏まって言うことにした。男女は何やら話していたが、嫌煙することなく迎い入れた。
「よろしくダバスド。僕は「コープル」だ。「サポーター」をやっている。」
「私は「ウェナイ」よ。「ヒーラー」をやらせてもらってるわ。」
男女は気さくにダバスドに自己紹介をした。外見は軽装で、戦うことを考慮すれば普通だし、特に気になる点は無かったが、聞き慣れない単語にダバスドは困惑することとなった。
「無知ですまない。そのサポーターやヒーラーっていうのはなんだ?」
ダバスドは相手の年頃が同じで、わざわざ敬語を使わないことを悟り、言葉遣いを変えて質問した。
「そうか。そこからか。いいかい?ここでは役職を決めてパーティを編成するんだ。
攻撃を積極的に行う「アタッカー」、相手の注意を引いて攻撃を受ける「タンク」、味方にバフ、敵にデバフをかけての支援を行う「サポーター」、味方の傷を癒す「ヒーラー」、この四つが基本形。例外もあったりするけどほぼないから…ああ、混乱するよね、なんでもない。強いアポカルだと、攻撃に連携を持たせないと太刀打ちできない。隙を作らなければ倒せないし、回復できなければ攻撃をくらったらそこで終わるし、そもそも人間以上の相手だからバフも必須というわけだ。今日は来てないけど「タラック」てやつがタンクをしている。ということで君はアタッカーに位置するわけだな。」
コープルの話は分かりやすかった。彼は指を折り、役職が設けられていることを丁寧に説明した。そのバランスが取れていることが重要だということも伝わったダバスドは、自分に役職が与えられたことも納得できた。
「ありがとう。それで、どうすればいい?」
だがわからないことだらけなのに変わりはない。どうやって訓練を受けるのか、そもそも今から依頼を受けられるかも知らなかった。今度はウェナイが応答してくれた。
「訓練を受けよう。慣れたら依頼。普段は決まったパーティメンバーっていうのは無いけど、初期は固定して進めることが推薦されるの。明日の朝、定時にここに集合ね。訓練は私たちが受けたものに参加すればいいわ。」
その後彼らは少し飲んで過ごしていた。ダバスドを歓迎し、街の様子についても教えていた。ここでは気楽にやっていけそうだ。とダバスドは思えた。パーティメンバーに固定は無いという話に引っかかりを感じたが、他に考えることもあったためそこには触れることは無かった。
ひと段落着き、コープルたちにお休みの挨拶を済ませたダバスドは生活を整える相談を街の窓口まで取り付けに言った。そもそも手紙にも衣食住を約束する旨の文節があり、地図にもその契約をするのに該当する場所があることが記されていたからだ。
「では、書類にサインしてくださいね。」
窓口で幾つかの書類をダバスドは書き、この街での保護を約束された。家は賃貸で、狭い街を行き来するにはもってこいの立地だった。そうしてダバスドはここの住民となり、財団の庇護者となり、そして討伐者となった。
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