第4話 情報収集2
私の決意も虚しく、一月ほど経過してしまいました。
敗因は結婚のお披露目会。結婚式したし、全て終わった気がしていました。まだ始まってすらいなかったのでしたねと遠い目をしますよ。
招待客の総チェックと返信の有無の確認、席次から始まって、会場であるロン家の掃除やら当日の料理の手配。それだけでなく遠方からのお客様への宿泊についての確認などなど。
親族の手を借りながら結婚前に婚約者同士で頑張って乗り越える壁なんですが。
我々、結婚済みなので表立って親族の手伝いは出来ない、ということらしいですよ。それ、後で聞いたのですけど。
我が実家で八割がた終わらせてある手配ですが、最終確認と言う名の責任は負わされております。
その結果、私の独断で決められないことは旦那様にご相談となっています。その旦那様が暇になるのは元々の業務終了後の夕食後。必然的に夜更かしとなっております。いつもより三時間押しの就寝時間に旦那様も寝坊も増えているそうです。
私はいつも寝坊派なのでいまさらですが。朝日は寝ないで見ることのほうが多いですし。
「……旦那様。今日は、もう寝ましょう」
「そう言って、君は寝ないのだろう?」
「旦那様より大人なので徹夜耐性がありますし、昼間爆睡します」
「寝ようか」
という会話ののちに、本日は同衾しております。
旦那様の寝台もかなり広く大きいものでしたので窮屈ではありません。
「あの、もっと真ん中に寄られては?」
「ここで、いい」
落ちそうな端っこに寝られるとそれもまた微妙な気持ちになります。眠たげな声なのでさらにおすすめはしておきませんが、寝た後に真ん中の方に転がしておきましょう。落下されるのも痛そうですから。
そんなことを考えている間に旦那様はすーすーと寝息を立てていました。
頭まで毛布に入れ込んで丸くなって寝ています。寝苦しそうな気もしますが、お好みの寝方は人それぞれです。
「……さてと」
いそいそと枕元のテーブルの明かりをつけます。
本日の夜のお供は、領地の視察結果です。私が動けない分、他の人に頑張ってもらいました。報告書が届いたのは三日ほど前。読む気力とか体力が残ってなかったんですよ。
財政状態は元々よろしくないのは知っていたんです。
原因は10年ほど前の水害。地域一帯が水没したそうです。元々、低い土地でしたしかなり昔に湿地だったのを農地に開拓したようです。
水没しやすい地域なので昔から治水に労力を費やしてきたのですが、それが悪いほうに作用しました。水害を出さないように未然に防ぎ過ぎたのがよくなかったのでしょう。
あれ? 水害なくね? と勘違いしちゃったんです。
というのが二代前、つまりは旦那様の祖父の代から始まってまして。地味に資金を削られその結果、10年前にどーんと水害がやってきちゃったんです。
元々の設計だとここまでの被害は出ないはずだなんだそうで。
「油断大敵。未然に防ぐと存在すら認識しなくなるのは問題ですねぇ」
この土地、広く平なんです。つまりは農業向きでもありました。王都やら周辺の町の食糧庫でもあったんです。
ですが、水没しました。
結果、飢饉まではいきませんでしたが食料危機に陥りました。
王家は相当怒り狂ったそうですが、テコ入れしてなんとかすると取り潰しのところを延命していたのです。そりゃあ、私の獲得に必死になるでしょう。
で、必死に捕まえた婚約者を置いて、駆け落ちとかされるとか義父には同情いたします。そりゃあ、寝込むでしょうよ。
さて、ここまでが私も知っていることです。
うわぁと思いましたが、心底貧乏というわけでもなく、巻き返しも途中でしたし、実家も手を入れているという話でしたからそんなに心配はしていなかったんです。
「……賄賂、癒着、横領は役人のたしなみとして」
問題は額と被害ですね。完全に防ぐのは無理ですので、ある程度で処理しておくことも必要です。
領主館のあるここは領地の中心であるために、それなりに数があるのは仕方ないことでしょう。扱っている人の数が多い。
地方もそれなりに。悪辣なものは手を打てるように対処法も書いてあるので処理はしやすいでしょう。まあ、旦那様がどこまで把握してどこまで譲歩してくれるかは別として。
「ん-」
義父が気弱になって、そこに付け込むように現れた人たちがいるようなんですよね。商人の姿をして最初現れたようですが、不幸を退けるツボとか売りつけてますね……。
うん? 金運のネックレス? 体調をよくする水!?
い、いまどき、霊感商法にひっかかってるっ!?
「……」
……義父が、霊感商法に引っかかって、領内のあれこれにも口を出されて、それが王都にも伝わり、その結果隠居と。
そっと旦那様を見ました。うぐぐとでも言いそうに眉間に皺が寄っています。あら、歯ぎしり。
「不憫な」
ちなみに旦那様の母、つまり私の姑にあたる方は既に亡くなっております。この家に嫁ぐ女性皆短命だったりするんですよね。
旦那様は一人ぼっちなわけです。
頼りになる親族はいませんが、頼りになるはずの大人はそれなりにそろっているはずです。
私は、頼りがいのある姉ポジションでしょうか。やはり、この年頃の男の子を夫として扱うのは難しいですし。相手もきっとそうでしょう。
さて、残りの報告も読んでしまいましょう。それから、ゆっくり惰眠をむさぼって……。
睡魔に襲われ意識が……。
翌日、ばったーんとベッドから落下した旦那様の音で目が覚めました。
「だいじょーぶですかー?」
寝ぼけた頭ですが、一応、下の様子を見ます。
「……な、なんでいるの」
「え? 昨日、旦那様が一緒に寝ようって言ったんですよ」
「え、そ、そうだった? そうだったっ!」
反応早いなとぼんやりと見ているとみるみるうちに旦那様の顔が赤くなっていきます。
「僕はもう出るけど、ゆっくりしてていいよ」
早口でまくし立てると旦那さまはさっさと部屋を出ていきました。好都合とは思いますけどね。報告書隠し損ねてました。
聞かれたら答えますけど、一応、黙ってやっているので気まずくはあります。
「残りを読んで惰眠を」
と思ったんですけどね。
一時間もしないうちに侍女が朝食をもってやってきました。先日より正式に私付きになったレイラはわくわくした顔を隠しもしません。
「そこに置いといて。着替えは、青のワンピースね。町に出るから、馬車も用意してくれる?」
「……承知いたしました。
あの、男装しないですか?」
「今日は、私の仕事の話をしにいくの。お忍びはまた今度ね。
それから、おいしいお菓子の店を教えて欲しいのだけど皆にお勧めきいてきてくれる?」
「わかりましたっ!」
元気よくレイラは出ていった。追っ払われたとも気がついていないのでしょうね。
単純さというべきか、素直さというべきか。
とりあえずは、ごはんを食べましょう。焼いたパンにバターをぬりぬり。オムレツも程よく半熟。サラダだけお皿に山盛り。
「ごはんは、おいしいのよね」
あるいは居心地は、というべきでしょうか。仕事も状況もよくない。暇もない。けれど、気を使われているのはわかるのですよ。
奥方として扱われている、という感じでもないのですけどね。
「それなりにがんばりますか」
私はわがままな奥方ですからね!
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