第7話 近づいてくる

 ここ数年、近所でお葬式が相次いでいる。

「なんだか、葬儀が続いていて怖いわ」

 母が呟く。


『次は、我が家の番かも……』

 私は思わずそう言いかけた。


「ねぇ、お母さん。引っ越ししようよ。もう少し、広い所がいいなぁ」

明るく話をしてみたけれど、

「……そのうちね」

とはぐらかされる。


 そうだよね。

 引っ越しするには、お金がかかるもんね。

 でも、なんか、お葬式を出している家が近づいて来ている気がするんだ。お母さん、このままだと、お父さんが危ない気がするよ。


 心の中に、そんな不安を抱えながら半年が過ぎた頃、父が倒れた。

 肺癌だった。

 入院して三か月で亡くなった。


 母は父が亡くなった後、霊能者を訪ねた。

 すると、今住んでいる場所は沼を埋め立てていて多くの霊が集まっているという。お祓いはできないから、直ぐに引っ越しをした方がいいと言われた。


 母は直ぐに市営住宅に申し込んで、運よく引っ越しが決まった。 

引っ越しの挨拶をしに隣の部屋を訪ねると、佐々木さんが青白い顔で部屋から出て来た。


「佐々木さん、今までお世話になりました」

母がそう言ってタオルを渡そうとすると、佐々木さんが母の手をガシっと掴んだ。

 

「佐藤さん、引っ越しなんかしないで下さいよ。僕は一人暮らしなんです。佐藤さんの部屋が開いたら、次は僕の番かもしれないじゃないですか! 僕、死にたくないですよ。佐藤さんお願いです、引っ越ししないで下さい‼」


 佐々木さんの目が血走っている。次は自分が死ぬ番だと思い込んでしまっているのだ。その様子に危険を感じた私は、思いっきり佐々木さんの股間を蹴り上げた。

 

「うっ!」

 佐々木さんが母の手を離した瞬間、二人で走って逃げた。


 その後、佐々木さんがどうなったのか知らない。

 ただあの時、お葬式が近づいてくる恐怖より、血走った眼をした佐々木さんの方がずっとずっと怖かったのを覚えている。


            完



   

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