第5話 敵討ち
女房と子どもを熊に喰われた料理人の三太郎は、熊狩りの仲間に加わった。
憎い敵を、どうしても自分の手で殺してやりたいと鉄砲の撃ち方を教えてもらい山へと入って行った。
暫くすると「熊だ!」という声が聞こえて来た。声のする方に走っていくと、二郎が熊に襲われている。まだ三太郎には、熊だけを狙う腕はない。
しかし、女房と子どもの敵を見た瞬間、冷静でいられなくなった三太郎は『許せ、二郎』と小さく呟くと弾を発射した。
幸いにも弾は、熊の眉間に当たった。
こうして、女房と子どもの敵をとった三太郎は、死んだ熊を見下ろし「こいつを熊鍋にして喰ってやる!」と、皮を剝ぎ始めた。
「三太郎、その熊は喰っちゃならねぇ!」
二郎が叫ぶ。
「なんでじゃ?」
「アイヌの人間から聞いたことがあるんじゃ。人食い熊は、決して喰っちゃならんと。悪い神に祟られるとな」
「そんなことあるもんかい。俺はな、俺は、こいつが憎くて憎くてたまらんのよ。このまま、土に還してたまるかってんだ!」
二郎の制止も聞かず、三太郎は熊鍋を作り他の仲間にも振舞った。熊鍋を食べず、山を下りたのは二郎一人であった。
さて、その晩のこと。
熊鍋を食べた男たちが、何やら苦しみだした。喉を掻きむしり、食べたものを吐き出す。最初は食あたりかと思った。しかしやがて、鉄砲やら斧を手にお互いを殺し合った。
翌日、なかなか村に戻らない熊狩りたちに不安を覚えた二郎は、村の者を何人か引き連れて山へと入った。
そこで見たものは、他人の臓物を口に咥えたまま亡くなった男や、頭が割られ脳みそが出ている男の死体やら、そう、地獄のような光景であった。
しかし、どんなに探しても三太郎だけがいなかったという。
完
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