第3話 視線。 

 10年ほど前の話だ。

 息子の部屋の居心地が悪かった。

 誰かに見られているような気がしてならなかった。

 

 ある日、息子の部屋に行き、ベッドの上の壁をじっと見つめた。

 どうしても視線が気になったのだ。

 すると、壁からぬぅ~っと、若い女の顔が浮かんできた。 


 綺麗な少女だ。

 ただ、念が強い。

 執念深くて、関わってはいけないタイプだと思った。

 生霊を飛ばすタイプは、かなり危ない。


 その後、息子に訊ねた。

「髪がこの辺の長さで、目が大きくて綺麗な女の子知らん?」

「……えっ?」

「もしかして、彼女?」

「う~ん、別れたというか、なんというか」


 息子の答えは、どうにも歯切れが悪い。

「その女の子、あんまり関わらない方がいいよ。ちょっとヤバいと思う」


 驚いた顔の息子。

 ここまで来ると、正直に打ち明けるしかないと思ったのか

「実は、今、トラブってる……。 俺の悪口ネットに書き込みされて」

 と、教えてくれた。


 そういうことか。ようやく合点がいった。

「そう。腹が立っても、何もしない方がいい。とにかく、その子に関わらないようにして」


 息子は私に言われた通り、どんな書き込みをされてもスルーしてやり過ごしたようだった。


 しばらくして、息子の部屋から視線は消えた……気がした。

 



          完


 

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