第134話 一攫千金で借金返済

 調剤ギルドの査定に出したのは、僕が作った高級ポーションだけだ。10分程で査定がおわって、受付に呼ばれた。


「今回お持ちいただいたポーションは、金貨13枚で引き取らせていただきますが、調剤ギルドでは、10本以上が買い取りの最低本数になっております。何本卸していただけますか?」


「今回は、23本お願いしたいのですが、現金で買い取っていただけますか?」


 今回は、現金で買い取ってもらう必要がある。


「勿論です。では、23本をお持ちいただけますか?」


「ここにお出ししてよろしいのですか?」


「ここに?」


「はい。ここで宜しいのでしょうか?」


「いいえ。検品も致しますので、奥の商談室の方にいらして下さい。ご案内します。」


 僕とサラは目を見合わせて頷いた。


「はい。」


 大きなテーブルが備え付けられている商談室という部屋に通されて、フカフカの椅子を案内された。僕たちが、椅子に座ると案内してきた受付のお姉さんが部屋を出て行った。


「誰かを呼びに行ったのかな?」


 サラと話をしていると受付のお姉さんが、多分、偉い人だな。二人の年配の男の人を付けてきた。


「今日は、調剤ギルドのギルマスを承っております。エデュアルト・アルフレット・ファン・ダルセンと申します。上級鑑定士のランメルトです。この度は、上級回復ポーションを23本も卸して頂けるということでございますね。」


「はい。ここに出して宜しいですか?」


「出すと仰いますと?凜様?でございましたか。」


 僕は、頷いた。


「凜様は、ストレージのスキルをお持ちなのですか?」


「はい。似たスキルを持っています。それで、出して宜しいですか?」


「はい。テーブルの上にお願いします。」


「はい。」


 僕がテーブルの上に23本のポーションを出すと、さっそく鑑定士のランメルトさんが鑑定を始めた。全ての鑑定を終え、ギルマスに報告した。


「間違いなく、上級ポーション23本です。お約束通り、一本金貨13枚ですから、金貨299枚になります。ところで、この後も、ポーションを手に入れることができるのでございますか?」


「そうですね。運が良ければ、手に入るかもしれません。」


「もしも、1本でも手に入れたら、うちに卸すお約束をして頂けませんか?もしも、約束して頂ければ、そして、もしも同じ品質であれば、金貨15枚をお支払いいたします。」


 上級ポーションはかなり希少価値があるのか、そんな申し出を受けた。ずっと王都で活動するつもりはないけど、資金不足になる可能性も0ではない。


「分かりました。運よく、手に入れることができれば、お持ちいたしますので、宜しくお願いします。」


 金貨299枚を手に入れて、テラの所に向かった。


「今日は。テラを迎えに来ました。」


 テラが働いている商会に行くとまずそう伝えた。


「お前たち、何を夢のようなことを言っているんだ?テラは、うちとヴィルケス商会にいくら借金があると思っているんだ。いくら冒険者だと言っても、お前らが少々依頼を多くこなしても何とかなるような額ではないのだぞ。」


「でも、ダンジョンで運よく大金を手に入れることができたんです。いくら支払えば、テラは冒険者に戻ることができるのか教えてもらえませんか?」


「家だけではないからな。一体いくら位、手に入れたんだ?」


「だから大金ですって。じゃあ、この商会にいくら位借金があるんですか?」


「うむ…。それなら、直ぐにわかる。それを支払ってくれるというのか?」


「はい。資金が間に合えばですが…。」


「では、しばらく待ってくれ。直ぐに調べさせる。」


 僕たちの相手をしてくれたおじさんは、奥に入って行ってテラの借金を調べてくれた。


「待たせたな。うちの商会には、金貨5枚の借金があった。そんな大金お前たちに準備できるのか?」


「金貨5枚ですね。良かった何とかなります。大金が手に入ったんです。ヴィルケス商会の借金もその位ですよね。それなら、金貨10枚をお支払いしますから、テラを連れて帰ってよろしいですよね。もしも、お釣りがあれば、手数料として差し上げますから。」


「待て待て。今すぐヴィルケス商会に使いを出して確認してくるからな。」


「では、この商会の借金だけでも清算しておきたいのですが宜しいですか?」


「うむ。まあ、かまわんぞ。ただ、ヴィルケス商会への借金が残っていれば、ここを辞めることはできぬぞ。」


 1時間近く待たされた。使いに出た店の者と一緒にヴィルケス商会の若い男の商会員が付いてきた。


「ただいま戻りました。テラの借金のことで尋ねたら、商会の人が一緒に来てくれました。」


今日こんにちは。ダンジョンで大金を手に入れることができんで、テラを迎えに来たんですけど、テラの借金はいくらでしょうか?」


「商会長に確認してきた。あの娘の借金は、金貨4枚だが、利子がついているからな。金貨4枚と銀貨2枚だ。しかし、ここで働いているテラがここを辞めた場合、この商会からうちの商会に金貨5枚の違約金を支払ってもらうことになる。これは、うちの商会が、世話をした者が無下に職を失うことを防ぐためのお金だ。本来なら、そのお金は、雇われたものが次の職を見つけるまでの資金になるのだがな。娘が我が商会との契約を解約してこの商会を辞めたのなら我が商会に支払われることになる。」


「おいおい。確かに、その契約の文言は書いてあるが、お主が言ったように、違法解雇を防ぐための文言ではないか。借金を全て支払って辞めるのであれば、その契約の文言は、意味をなさないのではないか?だいたい、お前の所の借金も清算して辞めるのであるから良いであろうが。」


「契約に従っていただきたい。我が商会から、そちらに申さねばならないことはそれだけだ。」


「分かりました。では、まず、ヴィルケス商会に金貨4枚と銀貨2枚をお支払いします。これで、テラの借金は無くなりましたね。」


「まむ…。テラの借金は確かに返済して頂いた。」


「では、証文を頂きます。」


「う…、うむ。これが、証文になる。確認してくれ。」


「おじさん。一緒に確認してもらって良いですか?」


「おじさん?俺のことか?おいおい。俺は、この商会の商会長だぞ。」


「あっ、失礼しました。では、商会長、貰った証文を確認してもらって宜しいでしょうか?」


「うむ。確かに金貨4枚と利子の銀貨2枚が返済されて、借金が完済されたことになっている。」


「では、次です。まず、テラを呼んできてもらって良いですか?」


「うむ。ちょっと待ってくれ。テラは、今、商談中だが、もうすぐ終わるはずだ。」


 商会長が言ったように。20分ほどしてテラがやってきた。


「凛、サラ、どうしたの?」


「うん。ダンジョンで大金が手に入ったから、迎えに来た。」


「えっ?もう、そんなにお金が貯まったの?」


「今聞いた金額と違約金は支払うことができる。商会長、違約金まで支払えば、問題ないでしょう。」


 そう言うと僕は、金貨10枚を取り出した。テラにかかった資金は金貨14枚と銀貨2枚だ。まだ余裕がある。


「じゃあ、テラは、連れて帰ります。テラ、荷物は直ぐに持ってこれる?」


「うん。大丈夫よ。じゃあ、荷物を取ってくる。」


 やっぱり、雇い主に違約金を請求することで、簡単にやめさせることができないことになっているんだ。


10分もかからずテラはやってきた。


「商会長、ここで購入させていただいた、道具や服は、部屋にまとめて置いています。もしも、できたらで良いんです。お金がない新人には、しばらくそれを使わせてもらえないでしょうか。」


「ん?服にはサイズがあるしな。道具もそれぞれ必要な物が違う。まあ、使うことができる者が入った折には考えよう。」


「それでも良いです。よろしくお願いします。」


 僕たちは商会から出ると王都の外に向かって歩いた。かなりの早歩きだ。後をついてきている者は居ないようだ。それでも用心して早歩きを続け門の外に出た。


 敵意を抱く気配が門の外に確認できた。

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