第135話 怪我の治療
「シモンやフースとルカスの借金返済がまだ終わっていないから、マウンテンバイクのことは知られたくないね。」
「そうですわ。シモンさんは、テラ姉の後に連れに行くはずでしたわ。」
「私は、疲れても早急に脱出しないといけない理由もない。一度、冒険者ギルドに戻って作戦を建てなすことにした方が良いな。」
「そうだね。敵意の気配は、王門の外にあるから町中で襲ってくるようなことはないと思う。」
「でも、おかしいな。」
「何が?」
「私が、借金を支払い、契約を解除したことに対して、敵意を向けられることがだ。損をしたのは、私たちで、ヴィルケス商会は、金銭的には得しかなかったのだぞ。」
「じゃあ、ヴィルケス商会が本当に欲しい物は、金銭ではなかったのかな?」
「お金以外に商会が欲しがるものなどないはずですわ。」
「それじゃあ、テラがあのまま借金を支払えなかったらもっとたくさんのお金が手に入ったはずなのかな?」
「それはそうだろうが、かなりの年月がかかるはずだ。そんな手間をかけずに私が借りた数倍の金額が、わずかな期間で手に入ったのだぞ。あんな金額を手に入れようとしたら数年はかかったはずだ。一番期間が短かったエミーリアでさえ1年と6ヶ月は、最初の職場で働いたのだから、少なくとも、1年以上は、借金奴隷や闇奴隷に落とされることはないと思うのだがな。」
僕たちは、冒険者ギルドに向かいながら、何故、敵意を向けられるのかを考えたけど、考えつくことはできなかった。まあ、金銭的なこと以外にもヴィルケス商会には得る物があるのかもしれない。
「凛、敵意の気配はおってきているか?」
「いないみたい。」
「それなら、冒険者ギルドには入らず、衛兵訓練所に行くぞ。そこにシモンを迎えに行こう。」
「今すぐ?」
「そうだ。いくら考えても分からないなら、敵意を向けている奴らに聞くしかないと思ってな。」
「テラ姉、それって対人戦を経験するって言うことですわね。」
「その通り。だから、対人訓練をしているシモンに居てもらった方が安心だろう。」
「分かりましたわ。今すぐシモンを迎えに参りましょう。」
冒険者ギルドに入らず、傭兵訓練所に向かった。まだ、シモンは訓練中だと思うけど、退団するなら呼んでもらえるだろう。
「傭兵訓練所の管理事務所はここか?」
テラが入り口の左奥にある事務所の方に向かって話しかけたが、返事がない。人がいない訳ではないが…。何故か、中が慌ただしいようだ。
「ヒーラーの手配はできたのか。何?できていないだと。」
「では、回復ポーションは、中級以上のポーションは手に入らぬのか。」
「今、調剤ギルドに使いを出しています。」
事務所の前にいる僕たちにそんな話が聞こえてきた。怪我人が出たのか…。そうだ、僕たちは、まだ、回復ポーションを持っている。
「ぼ、僕たち、回復ポーションを持っています。」
「何?お前たちは何者なのだ?」
「我々は、冒険者パーティー、シルバーダウンスターだ。ダンジョン産の高級ポーションを持っている。」
「本当か?しかし、高級ポーションか…。怪我人にそのようなポーションを使っても、お前たちに代金を支払うことができるのか分からぬのだが…。中級ポーションは持っておらぬのか?」
「凛、手持ちに中級ポーションはあるか?」
「あっ、うん。確か、2~3本あったと思う。」
僕は、他の人に聞こえないように小さな声で呟いた。
「アルケミー・中級ポーション瓶・10。アルケミー・中級ポーション・2ℓ。」
アイテムボックスの中で出来上がった中級ポーションを瓶に移し入れた。
「それで、その怪我人はどこにいる?」
「今、運んできている。」
「それで、状況は?」
「足に大怪我をしているらしい。下手をすれば、切断せねばならんだろうな。」
「中級ポーションではなく、上級ポーションでもか?」
「俺たちも怪我人を見たわけではないからな。しかし、大怪我というからには、中級では、難しいかもしれぬ。上級ポーションなら完治するだろうが、その代金を支払うことができないと思うぞ。上級なら金貨20枚は下るまい。」
外が騒がしくなり、訓練所に怪我人が、運ばれてきた。
「シモン!」
僕たちの目の前に運ばれてきたのは、シモンに付き添われた青年だった。
「シモン、どうしたの?その人は何故けがをしたの。」
「襲ってきた盗賊にやられたんでやす。」
「訓練中に盗賊に襲われたっていうのか?」
「そうでやす。あっしは持っていた中級ポーションで怪我を治すことができんたんでやすが、こいつの分は、なくて…。」
シモンが付き添ってきた青年はかなり深い傷を負っていた。右手と左足は殆どちぎれかけていたけど、出血は止まっている。
「シモンが持っていたポーションを使ったの?」
「一番最初に貰った初級ポーションを使って、出血を止めた。」
「冒険者になって直ぐに、貰った物でやすよ。」
「わかった。それじゃあ、中級ポーションでも完治するかもしれないね。」
僕は、アイテムボックスからポーションを出すと怪我の場所に振りかけた。淡い光が怪我の場所を包み、少しずつ怪我が癒されていく。一般では足りないかもしれない。怪我の場所が二カ所あるからな。でも、この効き目だったら、切断するようなことにはならないだろう。
「オネスト、中級ポーションで完治できるようだ。良かったな。」
「うう…、すまない。しかし、代金を支払うことができるか…。」
「心配いらないよ。中級ポーションだから、銀貨1枚だよ。」
「やっぱり、そんなにするのか。」
「えっ?銀貨1枚じゃ高すぎる?」
「そんなことはない。しかし、そんな蓄えはない。」
それじゃあ、もう一本ポーションを使うのはまずいか…。でも、もう一本は使わないと完治は難しいか…、こっそり、アイテムボックスから空になったポーション瓶にポーションを移した。
「さあ、残っているポーションを使うよ。」
僕は、手の怪我にポーションを振りかけて治療の仕上げをした。2カ所の怪我は完治できるようだ。
「あっ、それから代金だけど、毎月、銅貨1枚ずつなら支払える?」
「今、手持ちは、鉄貨5枚しかない。今月は、これで良いか?」
「今月の支払いは大丈夫だよ。怪我が治ったばかりだし、栄養のあるものをしっかり食べて、体力を回復させて。」
「良いのか。来月になれば、訓練が終わって給金も少しはもらえるようになるんだ。来月からなら銅貨1枚支払うことができる。」
「じゃあ、冒険者ギルドで支払ってもらったらいいよ。」
「いつまで支払ったら良いんだ?」
「来月からだから、10月までだよ。」
「えっ?分割で支払うんだよ。」
「うん。そうだよ。だから10回ね。」
「利子は?利子が必要だろう。」
「なんで?お金を貸しているわけじゃないから、利子なんていらないよ。」
「でも、本当にそれで良いのか?」
「でも?あっ、冒険者ギルドを使ってお金を支払うなら、手数料が必要なのか?」
「いや、冒険者ギルドなら手数料はいらないぞ。冒険者カードの力を使うからな。」
「そうなのか。じゃあ、10月まで冒険者ギルド経由で支払って欲しい。支払先は、シルバーダウンスターだよ。」
「あっ、ありがとう。」
「あっ、
「えっ?あっしでやすか?」
「うん。ダンジョンに潜って上級ポーションを拾ったんだ。だから、迎えに来た。」
「おいおい。シモンの借金を返済できるくらい稼いだって言うのか?」
「多分ですが…。シモンはいくら位借金があるの?」
「あっ氏の、借金でやすか?ここに来た時は金貨…ええっと、俺は、金貨4枚だったんですが…。」
「ここの管理の係の方はどなたですか?」
「ここの管理は俺が任されている。シモンは、ヴィルケス商会に借金があるからな。借金の返済が終わるまでは、ここを辞めることはできぬぞ。」
「はい。先に商会に返済しないといけないのですか?」
「そうだな。それと、商会が金を貸す形で装備もそろえているからな。その分の返済も必要になる。」
「その装備費はいくらになるのでしょうか。」
「衛兵訓練性は、一律の装備だ。金貨1枚で揃えておる。」
「その契約書はありますか?」
「あるぞ。持ってこよう。」
見せてもらった契約書には怪しい所はなかった。ここには違約金の記載はなかったけど、怪我などで働けなくなった時の引き取り保証人が、ヴィルケス商会になっていた。借金については、給金を貰い始めたら、給金の20分の1以下で本人が申し出た金額を借金を完済するまで支払うことになっていた。この文章では、全額がいくらなのかは分からない。
「借金を完済したいのですが、ヴィルケス商会に一緒に行ってもらうってことできますか?」
「俺じゃないとダメか?そのような役目は、会計係のヒルダが担当しているのだが。」
「いや。ヒルダさんにお願いできれば、大丈夫です。よろしくお願いします。」
僕とテラ、ヒルダさんの三人でヴィルケス商会に行って借金を返済した。合計額が金貨5枚と銀貨1枚になっていた。利子はそんなに多くない。日数も少ないからだろうけど、手数料を含めて銀貨1枚だけだ。
ヒルダさんと衛兵訓練所に戻って退所手続きを行った。食費代として銅貨2枚を支払わされたけど順当な金額だ。
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