第132話 上級ポーション


「リンジー、右に向かって。一体目は、進行方向にある木の後ろだよ。」


「了解だ。」


 剣を抜いたリンジーが魔物の方に向かって走る。角ウサギが木の後ろから飛び出してきたが、リンジーに一撃で倒された。ウサギ肉がドロップして外れだ。


「次は、真直ぐ、茂みの中に多分ボア。」


「了解。」


「ちゃんと、気配を探って!魔術の無駄撃ちをしないでよ。」


「頑張る。」


「進行方向を少し左にずらして、右側の茂みだよ。必ず利き手側に魔物が来るようにしないと危ないからね。」


 ロジャーとの訓練で何度も言われたことだ。


「分かってるって。ロックバレット!」


 今回は、ちゃんと気配を確認して魔術を撃ち込んだようだ。数発の石が命中し、ボアは肉に変わった。


「また、外れだ。」


「凛、次は?」


「10時方向の岩陰2体。中くらい魔力量だよ。ボアかな?」


「岩陰に二体か…。ちょっと厄介だな。風刃のスクロールの準備を頼む。」


「了解。」


 僕は、岩陰の方向に移動しながらスクロールを取り出し、直ぐに撃ち出せるように、岩陰の方に向けた。リンジーと射線が重ならないように位置取りをする。


「リンジー、魔物は、岩の実が側に隠れているよ。」


「わかった。一旦、岩の左側に迂回して後方から攻撃できるように進路を取る。凜は、岩の右側に回って俺の攻撃を避けようとする魔物を打ち取ってくれ。」


「了解だ。」


 リンジーが先に岩の左側から迂回して、後方に潜んでいる魔物に初撃を与える。ロックバレットが岩に当たりカンカンと甲高い音を立てている。


「凛、そっちに回ってきたぞ!」


 僕は、スクロールに魔力を流し込んで風刃を撃ちこんだ。同時に数十発のエアカッターがスクロールから撃ち出される。


 岩陰から出てきたゴブリンは、切り刻まれて魔石と薬草をドロップした。半分当たりだ。ゴブリンを倒して直ぐスクロールに魔力を流し込むのを止めたつもりだったけど、止めた後数秒エアカッターは、止まらなかった。


「凛、魔力を加減しないと、ドロップ品まで刻んじまうぞ。」


「ごめん。慌てた。次はもう少し加減できるようにする。」


 スクロールは、魔力を流すのを止めると埃になって風に飛ばされた。これでようやく2個目。


「先は、長いな。次は?」


 僕たちは、薬草の材料を20回分集めるのに2時間以上かかった。でも、僕たちが集合場所に戻っても誰も戻っていなかった。


「俺たちが一番早いか?」


「そうみたいだね。」


 20分位待ったかな、第2位はサラとフロル。第3位がリニとマルコだった。二組は、5分も差がなかった。


「ここで集めた素材を発表しようか。」


「サラたちから発表しますわ。まず、薬草、120本、これは20回中、12回でドロップした数ですわ。ボアの魔石が8個。以上ですわ。でも、ボアの皮は20枚。ボア肉5個、ウサギ肉15個、毛皮が10枚ですわ。」


「俺たちは、薬草が100本5回分だ。魔石が15個だな。」


「僕たちは、薬草が109本で14回分。魔石は6個だ。」


「では、リニたちがトップ、サラたちが2位ですわ。」


「俺たちが一番早かったのに…。」


「リンジー、気にするな。勝負は時の運。お目当ての次の階層に移動しようか。」


「そうですわ。時の運ですわ。」


 リンジーは、しょんぼりしていたけど、別にそんなに気にすることじゃい。


「リンジー次の階層は、高級ポーションのドロップ獲得競争だからね。数で勝負するしかないんだよ。」


「分かっている。次は、必ず一番たくさん拾ってやる。」


 3階層には、10分もかからず降りることができた。マウンテンバイクで移動したからだけど、普通に歩いて行ったら2時間はかかるんじゃないかな。


「この階層の魔物は、ボアなどじゃないからな。Dランクの魔物が殆どだ。」


「それで、スクロールを使っても大丈夫そうか?」


「少なくとも、ダンジョンに吸収されやすい粘着網のスクロールと酸攻撃のスクロールは、使わない方が良いと思う。」


「じゃあ、使うとしたら風刃のスクロールだね。上の階層で使ったけど、魔物の現れ方に変化はなかったみたいだから、大丈夫だよ。」


「まあ、宜しく頼む。ここの魔物は、フォレストウルフと上位ゴブリン、オークなどがいる。フォレストブルやブラッドホースなども出ることがあるらしい。」


「シロッコは?」


「流石にこの浅い階層では出ることはないのではないか?」


「それでは、初会敵までは全員で動くか?」


「そうだね。フォレストウルフよりもフォレストブル、ブラッドホースを探してみるね。フォレストウルフの魔力は、戦ったことがあるから分かるよ。」


「いや、かえってフォレストウルフの方が安心だと思うぞ。シロッコが出ないのなら、戦い方は分かっている。」


「サーチ…。向こうの方、500m位の所にフォレストウルフが4体いる。大丈夫だと思うかい?」


「やってみるぞ。俺たちは、前にもフォレストウルフを片付けているんだぞ。」


「サラはその時には居ませんでしたが、4体くらいなら何てことはないと思いますわ。」


「俺が、先頭、リンジーが殿しんがりだ。俺の後ろが、マルコ。その後ろがサラ、中に凛で、殿前しんがりまえがフロルだ。フロルは移動しながら射線を確保して投擲攻撃を頼むぞ。リンジーは、戦闘に参加することよりも後ろの守りを頼む。」


「了解。前は、フォレストウルフの群れが襲ってきていたからな。今回は俺たちが魔物の方に近づいて行くことになるからあの時とは、少し戦い方が違うと思うぞ。先頭のリニこそしっかり魔物の動きを止めてくれ。」


「任せておけ。前衛の俺が、しっかり止めてやる。後方からしっかり止めを刺してくれよ。」


「フォレストウルフくらいだったら魔術で何とかなるかもしれないけど、魔術耐性が高い魔物や表面が硬い魔物は、魔術が通らないかもしれないからね。物理攻撃力も上げないよ。」


「凛、俺たちがどれだけ剣術の訓練に時間をかけてきたと思ってるんだ?フォレストウルフでもブラッドホースでも後れを取ることなどないと思うぞ。」


「その努力は見てきたつもりだけど、油断しないようにね。命は、一つしかないんだよ。」


「痛いのも死ぬのもまっぴらごめんだってんだ。さあ、マルコいくぜ。」


「了解。」


 気配を消して、身をかがめて、フォレストウルフが潜んでいる方に進んでいく。


「初撃は、俺のロックバレットだ。後は、フロル、お前に任せる。できれば、クナイで一体だけでも倒してくれ。」


「任せておくんだぞ。」


「飛び出してきたフォレストウルフの迎撃は、サラのファイヤーボールも使ってくれ。」


「分かっていますわ。でも、ロックバレットも十分効果があると思いますわ。」


「俺とマルコのロックバレットだけで仕留められれば楽勝なんだけどな。」


 もうすぐロックバレットの射程内だ。リニが右手をフォレストウルフが潜んでいる茂みに向けた。


「ロックバレット!」


 フォレストウルフは、何発か六バレットを体に受けていたけど致命傷にはならなかった。一体のウルフはその場にうずくまって動かなかったが残りの3体は、茂みから飛び出して、僕たちの方に飛びかかってきた。


「ロックバレット。」


 リニの盾の陰でフォレストウルフの死角に入っていたマルコがロックバレットをリニの盾に向かってきているフォレストウルフに放った。収束したロックバレットがフォレストウルフに当たり、吹き飛ばした。


 その後ろのフォレストウルフは、大きく向きを変えて中衛のフロルの方に向かっていったが、眉間にクナイを突き立てられ、ダンジョンに吸収されていった。


 残り一体は、僕たちの方に向かうのを止めて、茂みに身を隠そうと方向を変えた。


「ファイヤーボール!」


 潜んでいたフォレストウルフは高温の火の玉に茂みごと焼かれてダンジョンに吸収されていった。草原の茂みはプスプスと燃えてたが、その火は、直ぐに消え、後に瓶に入ったポーションが現れた。


「残念、中級ポーションだ。」


「リニ、気を付けるのですわ。最初の茂みに一体フォレストウルフが残っていますわ。」


「了解。止めを刺してくる。」


 剣を構えたリニが茂みに近づいて行き、姿を確認するとロックバレットで止めを刺した。


「やったぞ!1本目の上級ポーションだ。」


 他の2体は、毛皮と魔石を落としていた。


「一本上級ポーションが手に入れば良いんだ。後は、粘土を探さないといけないけど、サーチで見つかるかな。」

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