第131話 緑の洞窟ダンジョン

 今日の夕食は、お好み焼きのマヨネーズ無しとハンバーグにした。錬金術で作った料理だけど、みんな喜んでくれた。ここ数日は、干し肉や硬いパンだけで過ごしていたそうだ。特にベンテさんは野営中なのに暖かい料理が食べられたといって、大喜びだった。


 ヴィルマは、別の意味で涙を流して喜んでいた。魔力病の症状の為ここ数カ月は、食事の味はしないし、食事自体が苦しかったのだそうだ。それがなくなって、味がするようになったから嬉しかったのだそうだ。僕もその気持ちは分かる。


 僕たちは、夕食の後お風呂に入って、夜は、床にそれぞれ敷物を敷いて雑魚寝した。体調が思わしくないヴィルマとエミーリアだけは、ベッドに寝かせている。でも、大勢で寝るのは何か安心できる気がする。コテージの外は、荒野で魔物がうろついていてもだ。近くに野営している商隊などもないようだ。サーチで確認した。


「サラ、明日は、クーンたちと王都のダンジョンに潜ってみようと思うけどサラたちは、ここに残ってくれないかな?」


「ダメですわ。サラは、テラを迎えに行かないといけないのですわ。それに、サラもダンジョンに行きたいのですわ。」


「先生、俺たちもダンジョンに連れて行ってもらえないか?ここで留守番するのは退屈なんだよ。」


「でも、もうすぐシモンさんたちが戻ってくるかもしれないんだよ。テラたちが先なら良いんだけど、残るのがベンテさんたちだけになっちゃったら、シモンさんが避難してきた時に、分からないよ。」


「サラが残れないって言うんでしたら、俺かマルコのどちらかが残るって言うのでどうですか。恨みっこなしのじゃんけんで決めますから。」


「本当にそれで良いの?もうすぐだと思うよ。みんなが戻ってくるの。」


「良い!じゃんけん、1発勝負で決める。そして、俺が、ダンジョンに潜ります!」


「クーン!勝つのは、俺だ。勝負だ!ジャンケンッ、ポイッ!」


 勝ったのは、マルコだった。


「悪いな、クーン。明日から留守番宜しく頼むぞ。先生!朝からダンジョンに潜るんですよね。」


「いや、まず、緑の洞窟カヴェルナ・ヴェルデダンジョンでリニたちと落ち合ってからだね。でも、そのためにはかなり早いうちからダンジョン入り口で待っておかないといけないと思うよ。だから、今日は、なるべく早く寝て、夜明けとともにダンジョンに向かって出発するよ。」


「分かりました。なるべ早く起きて、準備をしておきます。」


「分かりましたわ。凜と違って早起きは大丈夫ですわ。私が起こしてあげますわ。ぐっすり寝ておいていいですわよ。」


 明日から、ダンジョンへ挑戦することになる。少しワクワクしているけど、ダンジョンは危険が一杯だということを忘れないようにしておかないと、命は一つしかないのだから。



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「凛、起きなさいですわ。」


「サラ…。お早う。早起きだね…。」


「寝ぼけてはいけませんわ。出かけますわよ。」


「えっ…。あっああ。そうだね。」


 まだ眠い。外は、ようやく明るくなってきた位だ。轍をつけると僕たちの後をつけてきた奴らに見つかるかもしれないから、徒歩での移動する。


「やっぱり寒いですわ。」


「身体強化を強めにかけて走ろうか。」


「先生!ちょっと待って欲しいです。」


「どうしたの?」


「俺は、まだ、強めの身体強化は使えません。」


「身体強化ができるんだから、そんなの簡単だよ。僕たちに着いて来れるように体幹、足、手に魔力を回せばいいんだよ。」


「ふえ…、は、はい。」


「じゃあ、出発するよ。」


 僕たちは徐々にスピードを上げていった。マルコは少し息が上がっていたけど何とかついてきている。


「良し、ここまでくれば、轍をたどられることもない。マウンテンバイクを使うよ。」


 朝、8時前位だろうか、僕たちは緑の洞窟カヴェルナ・ヴェルデの入り口前に立っていた。ほんの少し待っているとリニたちがダンジョンの入り口前に現れた。


「やあ、リニ、フロル、リンジー。」


「凛、サラとマルコも来たのか。よかった。三人だけだと、2階層でも少し、苦労していたからな。3階層に潜って、10回も会敵したら戻らないと危なくなっていたんだ。まだ、高級ポーションどころか、中級ポーションも拾えていないんだ。」


「じゃあ、今から高級ポーションのドロップ獲得のため頑張ろう。」


「1階層は、問題ない。スライムと角ウサギ位だ。スライムの酸攻撃もあるけど、ここのスライムは小さいし、楽勝だ。」


 リニが説明しながら先を歩いてくれた。ロックバレットで簡単にスライムを討伐している。殿は、リンジーだ。フロルは、落ちてる石を投擲して核を砕いている。1階層は、楽勝だ。僕たちがすることは何もなかった。


「こっちだぞ。」


 フロルが僕たちを呼んでいる先に階段がある。2階層に降りるのに20分もかからなかった。


「二人だと、1階層を進む時も慎重にならないといけないからな。凜が居れば、魔物に不意打ちされる心配もないからスイスイだ。」


 2階層は、ボアや角ウサギ、偶にゴブリンもいるらしい。上位ゴブリンはほぼ現れないけど、絶対じゃないと注意された。ただ、この階層では、薬草をよくドロップするし、ボアの魔石も手に入ることがあるから、僕にとっては、有用な階層だ。


「ねえ、ここである程度薬草の素材を採集したいんだけど、頑張ってもらって良い?」


「フロルとサラ、僕とリンジー、リニとマルコで良いかな?」


「そうだね。誰が一番たくさんの素材を集められるか競争だ。」


「じゃあ、薬草と魔石を30回ドロップ出来たら、この階段で待つということで良いかな。」


「早さと、ドロップ品で競争だ。」


「リンジー、頑張るぞ。」


「おう!」


「サーチ。小さめの魔力の魔物が右の草むらに隠れてるよ。角ウサギかな。」


「了解。」


 リンジーが、ぼくが指さした草むらの方に走って行った。


「ロックバレット!」


 一体目。ドロップは角ウサギの毛皮だった。


「サーチ!次は、右の奥。早しの前に中くらいの魔力。ボアかな?」


「わかった。ボアまではロックバレットで行けると思うけど用心のために風刃のスクロールを準備しておいて。」


「分かった。」


 リンジーが僕が指さした方に走っていくと、走りながらロックバレットを撃ちこんでいる。当てずっぽう…?


『ガサッ』

 音がしてリンジーがロックバレットを撃ちこんでいたすぐ横の茂みの中からボアが飛び出してきた。


「ロックバレット!ロックバレット!ロックバレット!」


 ラッキー!魔石がドロップしたみたいだ。


「凜たちは、ちょっと離れてくれないか。俺たちが魔物を見つける前に狩り尽くしてしまうだろう。」


 リニが不満を漏らしてきた。


「分かったよ。凛、マウンテンバイクで、少し離れた場所に移動しよう。」


「ちょっと待って。魔物が沢山いる場所を探すからさ。」


「凛!それはズルい。公平な勝負ができるように、魔物との会敵が同じくらいになるように割り振ってくれよ。」


「そんなこと言われても…。ちょっと待って…。サーチ。」

 僕は、現在位置を起点に1km半径で魔物をサーチする。


「ここから3方向に大まかに分けるとだいたい魔物の数が同じくらいになるかな。どの方向を選ぶかは、それぞれに任せて、僕たちは最後で良いよ。」


「俺とマルコが真ん中で良いか?」


「サラとフロルはリニたちの右側にしますわ。」


「真ん中って、僕が向いている方だよね。」


「右って僕の右手側?」


「そうですわ。」


「それじゃあ、素材集め競争改めて始めるよ。」


「「「「「オーッ!」」」」」

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