第130話 魔術操作訓練とお風呂づくり


 エミーリアは、成人の儀を受けていなかった。獣人だからと言って受けさせてもらえなかったのだそうだ。


「どう言うことなんだ?成人の儀を受けなかったら、神に祈りを捧げなくても魔力で体を壊すことがないのか?」


 驚いたベンテさんがエミリーリアさんの肩を掴んで聞き返した。


「ベン兄、痛いよ。」


「あっ、エミー、ごめん。どう言うことなんだ?どうして、エミーは、成人の儀を受けなかった?」


「ええっと、神父様に私は受ける資格がないって言われて、受けられなかったの。それで、そのまま、準備金を借りて王都に連れてこられたの。」


「それからのことは、だいたいわかる。しかし、何で、そんなに痩せているんだ?」


「借金を返すために無理して、身体を壊したの。」


「そして、危ない所で闇奴隷に落とされるところでしたわ。」


「そう。危ない所で、殺されるところだったと思うわ。闇奴隷に落とされるということはそう言うことなのだから。」


「それは、分かった。しかし、成人の儀が魔力病の原因なら、どうやって魔術回路を活性化するんだ?」


「完全に活性化はできないかもしれないけど、さっきベンテさんたちが行った治療で回路が活性化できますよ。」


「本当?私も、魔術回路が活性化できるの?」


「できるはずだよ。さっき、ベンテさんたちがやっていた訓練を何日か行えば、きっとできると思うよ。」


「本当?私にも練習させてもらえる?」


「勿論だよ。でも、魔力を動かす練習だから同じ属性じゃないとうまくいかないかもしれないんだ。エミーリアの属性が分かれば確実なんだけど…。分からない時は、無属性魔力で試すんだけどね。」


「でっ、誰が無属性魔力をも持っているの?私もその訓練をやってみたい。」


「さっき試したけど、ヴィルマさんとベンテさん、それに僕も無属性魔力を持っているよ。」


「じゃあ、誰とでも訓練できるんじゃない。ねえ、ヴィルマ、お願い、訓練やってみよう。」


「ええ、いいわ。」


 さっき、やり方を教えたばかりなのにヴィルマは、完璧に魔力循環訓練をマスターしていた。


「どうですか?魔力回路に魔力を流し込んだ感覚はありましたか?」


「うーん…。まだよくわからない。でも、ヴィルマの魔力は、暖かくて弱っている私の体を癒していくれるみたいだった。それだけでも、この訓練をやって良かったわ。」


「良かったですわ。エミ姉が火属性ならサラが訓練を手伝ってあげられるのに…。早く魔力回路が活性化して、できれば火属性魔術を発現して欲しいですわ。」


「サラ、でも、魔力回路が活性化したら訓練は必要なくなるよ。」


「うっ…、サラも何かお手伝いしたいですわ。」


「サラ、ありがとう。でも、大丈夫よ。私がエミーリアの魔術回路は活性化させてあげる。それに、多分だけど、私の治療にもなると思うの。滞った魔力をエミリーリアに渡せば、私の魔力病も治療になるんでしょう?」


「それなら、俺もエミリーリアと訓練をできるようになっていた方がいいな。神像はあるけど、何日かすれば、魔力を流し込むことができなくなる。」


「ベン兄、ありがとう。よろしくね。」


 三人で魔力循環訓練を行えばきっと魔力回路の活性化と魔力病の治療ができるはずだ。


「凛、クーンたちが、帰ってきたよ。」


「そう。じゃあ、お迎えしないと入ってこれないよね。」


「サラがお迎えにしますわ。」


 パタパタとドアの方に駆けて行ってサラがドアを開けた。


「クーン、マルコーッ、こっちよー。」


「サラーっ、ドアから出て行っちゃーダメだよーっ!」


 って、ああっ、出て行っちゃった…。


「凛ーっ!ベン兄ー、どこーっ」


「サラを中に入れてあげてくれないか?」


「うん。直ぐに入れてあげるからね。」


 ドアを開けて、サラたちを呼ぶ、クーンたちも一緒にいた。


「こっちだよ。」


 僕が呼ぶと、3人とも僕の方を振り返った。幻惑魔法の効果なのか出て行って直ぐでも絶対違う方向だと思っている。僕がドアを開けて待っていると、ぞろぞろ中に入ってきた。


「何とか、別の方向に誘導することができたと思う。」


「気配を消しながら帰ってきたから、追跡の心配はないと思うけど、先生、サーチで確認していただけませんか?」


「分かった。やってみるね。…、サーチ。」


 ロジャーに習ったように薄ーく魔力を広げていく。50km四方には、人はいない。大丈夫、追跡は振り切ったようだ。


「クーン、マルコ、今から地下に風呂を作ろうと思うんだけど、手伝ってくれる?」


「風呂?何だそれ?」


「体を洗うところ。そして、お湯に入って体を温める場所だよ。」


「うーん…。よくわかりませんが、俺たちができることでしたら。」


「じゃあ、今からお風呂作りだー!」

 なんか少しテンション上がってきた。


 三人で地下に降りて行って、まず、地下に水が漏れないように床板を加工してもらった。少し傾斜をつけて溝の先にマジックバッグを取り付ける。壁を取り付けてトイレスペースとは、分けることにする。ここまでは、順調だ。トイレスペースにも扉を付けておけば、誰かがお風呂に入っている時でも、トイレを使える。


「じゃあ、ここに風呂桶を出します。」


 王都で購入した風呂桶をまずセットした。給湯の魔道具を湯溜めにセットすると、お湯は、湯溜めにいっぱいになって、湯汲み桶と風呂桶に湯が流れて行く。湯汲み桶のお湯が少なくなったら湯溜めから補充できる仕組みを考えるのに時間がかかった。湯汲み桶と湯溜めの高さと風呂桶に流れ込ませる湯の量を調節することで何とかなった。


「うん。これで様子をみることにしよう。給湯の魔道具には、目一杯魔力を補充しておくからね。」


 地下室だから、湯気がもうもうだ。これは、何とかしないといけない。湯気を水に戻すにはどうしたら良いんだろう。


 湯気は、水蒸気が細かい水滴になったもの、水の粒だ。それなら集めれば水に変わる…。魔力で回るプロペラなんてないのかな…。集めて外に出すか、もう一度お湯か水にくぐらせたら良いんじゃないのかな…。


 王都の魔道具屋を回ったら、湯気か煙を集める魔道具があるかもしれないな…。でも、今は王都に戻るのは危ないかな…。まあ、湯気で真っ白になっても少しは見えるし、いざとなったら僕が湯気を収納すればいいかな。


 試しに、アイテムボックスの中に湯気を収納してみた。湯気は、見えるからな。全部収納することができた。もしかしたら、マジックバッグの中にも入れることができるかもしれない。でも、皆面倒がってやらないだろうな。


 暫くして湯舟にお湯が溜まった。


「みんな、ふおろにお湯が溜まったよ。誰が一番に入る?」


「サラが一番に入りたいのですが、着替えを宿に置いてきてしまいましたわ。」


「大丈夫だよ。サラの荷物は、僕がアイテムボックスの中に入れているから。」


「本当ですの。それなら、荷物を渡してほしいですわ。それで、お風呂は何人くらい入ることができますの?」


「ギューギューでいいなら、3人では入れると思うよ。みんなで入っておいでよ。」


「サラ、お風呂って何なの?」


 エミーリアがサラに聞いている。


「身体を洗ったり、お湯に浸かったりするところですわ。お姉さま方、一緒に行きますわよ。」


「サラ、タオルを持って行って。」


 僕は、アイテムボックスの中に入れておいたタオルを3枚、渡した。


「脱衣場は、一人ずつしか入れないかもしれないよ。服は、棚に置けるようにしてるからね。まず、お湯をかかって体をきれいにしてから浴槽に入るんだよ。」


「分かった。お姉さまが、サラがお風呂の入り方を教えて差し上げますわ。」


「あら…、サラはいろいろ勉強したのね。小さい頃は、勉強が大嫌いだったのに。」


「ヴィルマお姉さま、変なこと言わないで欲しいですわ。凜が本気にするでしょう。」


「あらま、これは失礼いたしましたわ。ハハハハ…。」


 コロコロと笑いながら三人は、地下への梯子を下りて行った。さっぱり出来たら、もっと元気になるんじゃないかな。









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