第129話 神像のアナライズと二人の治療


 僕は、ベンテさんに貸してもらった神像をアナライズしてみた。アナライズはできた。この神像は、魔石で作られた魔道具だ。仕組みは良く分からないけど、祈りの時に魔術契約に従って魔力を吸い取り、蓄える物のようだ。魔力病にとって魔力を吸い取ってもらうのは体を楽にして、魔力障害を起こさないために大切なことだ。


「ヴィルマの為に新しい神像を作ることができるのか?」


「コンストラクションの呪文を唱えてみたけど、錬金術式を作ることはできなかった。でも、この神像の代わりになる物は持っているかもしれないよ。」


「どういうことなの?」


「神像に祈るって、多分、魔力を魔石に流し込んでるんじゃないかな。つまり、スクロールに魔力を流し込むことと同じことをしていたんじゃないかなと思う。」


「それで、どうしたら良いの?」


「今から、地下にお風呂を作るから、お湯を貯めてくれないかな。魔石に魔力を流し込んだらお湯が出るみたいなんだ。」


「クーンとマルコも手伝って…、あれ、まだ帰ってきてないの?」


「うん。窓から外を見ているけど、二人ともまだ戻ってこないわ。かなり遠くまで走ったのかもしれないわね。」


「土魔術で轍を消したら追跡している者たちに探知されてしまってかえって逆効果になる可能性がありますわ。かなり遠くでダミーの轍を付けて、目をくらますつもりなのかもしれないですわ。」


「そんなことをしてくれているなら、もう少し時間がかかるかもしれないね。それなら、僕たちの魔術回路が活性化する前にやっていた訓練をやってみようか。」


「あの魔力グルグル訓練をやってみるの。うーん…。でも、面白いかもしれない。だって、凜はあの訓練で魔力病を克服して魔力回路を活性化したんでしょう。」


「なんだ?その魔力グルグル訓練って言うのは?」


「ベンテさんは、身体強化の魔術は使えるのですか?」


「おおっ。使える。」


「ヴィルマさんも使えるんですよね。」


「え?まあ、使えたけど、今は、ほんの一瞬しか維持できないの。だから、無理だと思うわ。」


「大丈夫だよ。じゃあ、ヴィルマさんからやってみましょう。右手をした向き、左手を上向きにして。そう。」


 その手の上に僕の手を重ねる。


「良い。僕の右手から無属性の魔力をヴィルマの左手に渡すから、その魔力を自分の右手に送って僕の左手に送ってね。」


「ん?魔力ってそんなにやり取りできる物なの。」


「そう。できるんだ。今から、やってみよう。いくよ。」


「う…ん、分かった。」


 右手から魔力をヴィルマの左手に送る。


「どう?何か暖かい物が来るのが分かる?」


「うん。分かるわ。人の魔力ってこんなに熱いものなの…?火傷するほどじゃないけどかなり熱いわ。」


「僕は、温かいって思ったけど、熱いとは思わなかったな…。我慢できないくらい熱い?」


「大丈夫。夏だと汗がとてもたくさん出るでしょうね。でも、さっきまで寒かったらちょうどいいわ。私の右手からあなたの左手に返せばいいのね。」


「そう。…、うん。戻ってきた。暫く、同じように魔力を流しておくよ。」


「分かった。暖かーい。」


「じゃあ、魔力の流れ方を少し変えてみるよ。首の方に一度上げてみて。左手から左肩、首の左側を途中まで上げて、右側に移して下げるんだよ。そして、右肩に移して右手に移して僕に戻して…。できるかな。」


「うん。大丈夫。こわばっていた肩や首がほぐれるわ。」


「いいよ。その調子。じゃあ、今度は、左脇から下に下げて、右わき腹、おへそくらいの高さまで下げたら尾への祖舌を通して…、右わきだよ。そして上にあげて…。できそう?」


「できる。暖かい物がずっと動いて行くのが分かるわ。」


「じゃあ、そこから右脇を通して右手から僕に返してね。」


「できたわ。体中暖かい。ポカポカして気持ちいいわ。」


「暫く、魔力を回しておくよ。」


「うん。お願い。冷えたからだが、なんかポカポカして気持ち良い。」


「最後ね。おへそを中心に魔力をグルグル回してみてくれない。」


「貰った魔力を回すの?」


「魔力を回し始める時は、僕の右手を離して、魔力を送るのは止めるから言ってね。」


「了解よ。おへそを中心にして魔力を回すんだね。3で回し始めるわ。いくわよ。1、2、3。」


 合図に合わせて僕の右手を離した。


「グルグルグルグルグル…。」


 ヴィルマの右手からは、少しずつ魔力が出てきている。


「魔力を回している時に何か引っかかる場所があるわ。」


「それが、分かるなら、ヴィルマの魔力病は治るかもしれないよ。」


「えっ?どうして。」


「僕がそうだったから。それで、その引っかかる場所に無理やり魔力を流してやって。」


「うーーーーん。あっ、一か所だけ良くなったような気がする。でも、まだ何ヶ所も引っかかっているわ。」


「あんまり急に流すのも怖いから、無理はしないでよ。グルグル回しながら、魔力を僕の方に送り込んで…。」


「はーい。でも、最近のずーっと感じていた下腹部の気持ち悪さは全くないわ。ありがとう。」


「じゃあ、ベンテさんも同じ事やってみるよ。」


 ベンテさんもヴィルマと同じように魔力回路の中に引っかかる場所があったけれど、そこに無理やり魔力を流すと少し通りが良くなっていったそうだ。


 その後、身体強化を使ってもらったけど、今までは、20分程で使えなくなっていたのに1時間、身体強化をかけても余裕があると言っていた。びっくりするくらいの変化だ。魔力グルグルは、効果があるみたい。


「エミーリアさんは?」


「私は、神像は頂いていないわ。そもそも、成人の儀も受けていないの。神父様に獣人族に成人の儀は必要ないって言われて。」


「それじゃあ、エミリーリアも魔術グルグルを練習したら良いよ。魔術回路が活性化して、魔術が発現すると思うよ。」


「まあ、エミーリアは、身体強化なんて使わなくても、身体能力が高くて冒険者に一番向いていそうだったからね。魔術回路が活性化したらきっとすごい冒険者になれるんじゃないのかな。」


「ねえ、もしも、私たちの病気が治って、エミリーリアの魔術が発現したら、冒険者になるためにもう一度かんばってみない?サラたちにたくさんお金を出してもらったから、返さないといけないでしょう。」


「しかし、神に祈りをささげると魔力が吸われるのなら、冒険者は難しくないか?」


「どうしても、毎日、神様に祈りを捧げないとダメなの?」


「俺たちは、そうしないと生きていけない気がする。」


「どうして?私は、今まで、神に祈ることはなかったわ。」


「えっ…?エミーリア?それは、本当なの?」




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