第128話 コテージでの再会 

 商会を出て王都の正門に向かって歩いて行く。魔力病の薬が効いている間はヴィルマの体調は悪くならないはずだ。ただ、ほぼ魔力空っぽの状態だから身体強化も使えないし、回復ポーションは、魔力病を悪化させるから使用できないらしい。ロジャーから回復ポーションは、絶対使うなと言われている。


「ねえ、後をつけられていない?」


「そうだね。どうしようか…。」


「私を連れ戻すつもりなのでしょうか…。」


「そうかもしれないけど、契約的には、借金は全て返済しているはずだよ。」


「それ以上に、なんか嫌な感じがします。敵意が感じられますわ。」


「王都の中で襲われることはないと思うけど、門の外に出て人目が少なくなると怖いね。」


「凛。身体強化は大丈夫?」


「大丈夫だよ。ここで、マウンテンバイクを出すかな。でも、僕、人を乗せて走ったことないよ。」


「それは、サラも同じですわ。でも、やるしかありませんわ。」


「そうだね。じゃあ、二人乗り用のマウンテンバイクを出すよ。最初は、僕が乗るね。あんまり安心できないかもしれないけど、ヴィルマは、僕が乗るマウンテンバイクの後ろに乗って。ハンドルにしっかりつかまって。なるべく安全運転するつもりだけど、少し怖い思いするかもしれないから、その前に謝っておくね。ごめんなさい。」


「えっ?」


「ヴィルマ、後ろに乗って!」


 僕は、マウンテンバイクをアイテムボックスからだしてまたがった。僕の声に驚きながらも、ヴィルマも、僕がまたがった二人乗りのマウンテンバイクにまたがった。ドレスの裾が少し邪魔そうだったけどヴィルマには、チェーンにつながっているペダルはない。踏ん張るための足置きが付いているだけだ。


「ヴィルマ、ハンドルにしっかりつかまって。足載せに足を乗せたらしっかり踏ん張ってよ。」


「うん。了解よ。」


 隣では、サラがマウンテンバイクにまたがっている。目で出発の合図をして、足に力を入れる。


「キャッ!」


 ヴィルマが小さな悲鳴を上げた。暫くは身体強化を使わないでも、大丈夫だ。街中では、自転車で走れば、普通に速い。


 王門を出てすぐ、足に魔力を回した。ぐんぐんとスピードが上がっていく。僕の後ろをサラが遅れず着いて来る。僕たちは、真直ぐ中継地には向かわず、この後行く予定のダンジョンの方にも向かわないで東に向かって走った。僕たちの本当に向かわないといけいな方向から70度ほどずれている。時々、バイクを降りたり逆走したりしながら大きく王都を一周して、中継地に向かった。中継地についたのは、太陽がかなり傾いている時刻だった。


 約束の場所について辺りを見回していると、大岩がある場所から突然クーンの上半身が現れた。


「キャーッ。」


 ヴィルマが驚いて悲鳴を上げた。


「クーン。驚かさないで欲しいですわ。」


「急いでこっちにくるんだ。お前たちが入ったら、轍を俺たちが消す。とにかく急いで入ってくれ。まだ遠いが、人の気配が近付いてきている。」


 僕たちが、大急ぎでコテージの中に入ると、クーンとマルコが外に出て行った。凄いスピードで二人が離れて行ったけど、多分、魔力は漏れていないようだ。あんな勢いで走っているのに気配を感じない。


「あの二人凄いね。」


「ヴィルマ、あんなので驚いていたら、テラやリニがやって来たらもっと驚くことになりますわ。」


「どうして?」


「あの二人よりも速く走りますわ。」


「えっ?でも、走るだけなら、もしかしたら私もできるかもしれないわ。」


「ヴィルマは身体強化ができるのですか?」


「身体強化…、できる。できていたわ。走るだけならだれにも負けないくらい早く走れた。」


「でも、職業をもらって全部のスキルが使えるようになったのに…、魔力が使えなくなった。少しだけしか魔力を使うことができなくなってしまったの。」


「どういうことなの?」


「そうですわ。成人の儀でスキルが使えるようになったのに魔力が使えなくなるなんておかしいですわ。」


「それって、おかしいことなの?」


「それは、おかしいと思います。」


「ねえ、ヴィルマ、成人の儀の後から何か変わったことがなかった?」


「変わったこと?直ぐに王都に向かって旅に出たから…。でも、成人の儀が終わったのだからと、神父様に神像を頂いた。孤児院を出るのだから、この神像に手を当てて、毎日祈りなさいって言われて、そうしないと健やかに暮らすことができないって言われていたのに…。」


「どうしたの。」


「借金奴隷に落とされた時に、神像を取り上げられてしまったの、そうしたら、少しずつ体調が悪くなって…。奴隷に落とされて一月もたっていなかったのに、動くことさえできなくなっていたの。」


「ベンテお兄様、お兄様も像を持っていましたわね。」


「おう、サラ、いつ来たのだ?俺は寝てしまっていたようだ。」


「ベン兄!ベン兄なのよね。」


「ヴィルマ?どうしてお前がここに居るんだ?」


「私、サラに助けてもらったの。私、奴隷に落ちて、病気になって…。その時、サラが来て、薬をくれたの。そうしたら動けるようになって…。」


「ヴィルマは、神像に祈らなかったのか?お祈りさえ欠かさなければ、身体を壊すことはないぞ。昔は、戦場で祈り忘れて、体長を悪くしたこともあったが、今では、祈りを欠かすことはない。そうしておけば、体調を崩すことがないからな。」


「奴隷落ちした時、その神像を取り上げられてしまってね。」


「奴隷落ち?ヴィルマは、何を買わされたのだ?」


「メイド用の服とお出かけ用の服にアクセサリーくらいかな。私、お貴族様のメイドだったのよ。」


「戦闘メイドか?」


「違います。普通のメイドです。ベン兄、少しひどくない?」


「いやいや、お前、成人前から身体強化とファイヤーボール発現していただろう。戦闘系の魔術ばかりじゃねえか。」


「でも、成人の儀の後、ほとんど使えなくなっちゃったんだ。使える魔力が少なくなっちゃったんだ。魔力切れにはならないのに…。どうしてなのかしら…。」


「魔力切れじゃないのに魔力が使えなくなって、魔力病になっちゃったの?なんか変。魔力病は、魔術回路が未成熟なせいで魔力が使えなくて貯まった魔力が体に悪さするから…。あっ。そうか、原因は違うかもしれないけど、もしかしたら、同じなのかな。」


「何が一緒なの?」


「魔術回路で魔力が使えないところ。」


「でも、成人の儀を受ける前は、魔術回路が使えないなんてことなかったわよ。それに、神像にお祈りできている時は、体調が悪くなるなんてことなんてなかったし。」


「ねえ、ベンテさん、その神像って持ってる?」


「持ってるぞ。神像がないと祈りを捧げられないからな。」


「それ、アナライズして良いかな?」


「そんな、不敬な…。神の怒りをかうぞ。」


「でも、その神像をアナライズしたら、ヴィルマさんとベンテさんを治す方法が分かるかもしれないですよ。」


「どうしてだ?」


「もしかしたら、その神像は魔道具かもしれないからです。ベンテさん、その魔道具は肌身離さず持っているのですか?」


「そんなはずないであろう。それに、数カ月に1度で良いから、教会に行って祈りをささげる時に、神像を預けて浄化して頂くのだ。そうしないと、祈りの効果がなくなると言われていて、実際そうだったからな。」


「どのくらい浄化してもらわなかったら祈りの効果がなくなったの?」


「4ヶ月だったかな。傭兵ギルドでは、一月ひとつきに1日教会へ行く日を作ってもらえるんだ。でも、怪我をしたり、用事があって行けなかったりしたからな。」


「それで、先月は、教会にいったの?」


「おう。行くことができている。」


「そして、その教会ってどこの町の教会でも良いのかな?」


「いや、王都のハイリッヒ・コニング救済教会だけだ。」


「その教会ってこの国には沢山あるんでしょう。」


「そりゃあそうだ。祖王様が開いた教会だからな。」


「祖王様って…?」


「この国の初代の王様だよ。その王様がこの国を守る神の加護を得るために開いた教会だ。」


「じゃあ、この国には昔からある教会なんだ…。」


「そうだ。一番古い教会という訳ではないが、建国からこの国にある教会だ。」


「でも、教会で浄化しないと祈りの効力が失われるというのも少しおかしいと思うんです。絶対、壊さないのでお願いします。ベンテさん、その神像をアナライズさせてください。ヴィルマを助けるためでもあるんです」


「何?本当か?本当にヴィルマを助けることができるのか?」







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