第126話 調査結果

「凛、早く起きるのですわ。」


「ん?ああ…。もう朝…。」


「凛、何でそんなに寝坊助なんですか?」


「ええ…。あっ…。今日は、忙しい日だった。ロジャーの所に行かないといけないんだった。」


「そうですわ。早く起きて朝ご飯を食べるのですわ。サラも一緒に行くから着替え終わったらドアから出てくるのですわ。」


「うん。急ぐ。ちょっと待って。」


 僕は、大慌てで服を着るとドアを開けてサラと一緒に食堂に降りて行った。昨日久しぶりにお風呂に入って、レミが送ってくれたソースやポテトチップス、チョコサンドクッキーの錬金をやって成功した。でも、その後に錬金したレシピはことごとく失敗。シュークリームやエクレア、バニラアイスクリームはかなりいい所まで行ったと思う。かなり時間をかけた結果できなかった。


 共通して必要な物はバニラだ。僕が持っているこっちの世界の物じゃ代用できないのか…。何かあるはず。甘い匂いがして甘くない香料。マルヨレインさんに聞いたら分かるかもしれない。


 でも、今は、そんなことで時間をかけている場合ではない。とにかく、大急ぎで朝ご飯を食べて、ロジャーの所に行かないといけない。そうしないとバニラの代わりに使えるかもしれない酒精が強い香りのいい酒で手土産の甘味を作ることができない。


「おう、やっと来たか。昨日得た情報は、大したことはなかったが、凜が言っていた香りの強い酒は5本程手に入れたぞ。」


「ありがとう。もらって良い?」


「ほれ。これじゃ。」


 僕は、ロジャーが手に入れたお酒を全部収納して、お酒を使ったシュークリームとエクレアを錬金してみた。上手くいった。もしかして、そのお酒を使ったらバニラアイスクリームができるかもしれないと思って錬金してみたけど、時間だけかかって失敗した。


「できたよ。でも、大人向けのお酒を使った甘味しかできなかった。まず、これがシュークリームで、こっちがエクレアだよ。。よく似ているけど違うお菓子だからね。ロジャー、味見してみてくれる?」


「サラも味見をしたいですわ。」


「このお菓子は強いお酒を使っているからサラはだめだよ。」


「ええ…。甘味なのに食べられないのは可笑しいですわ。」


「でも、本当にきついお酒なんだって。多分、食べたら気分が悪くなっちゃうよ。」


「サラ、凜の言う通りだ。この甘味はうまいが、かなり酒精がきついぞ。儂でもそうたくさんは、食せぬかもしれぬ。」


「そ…そんな…。そんなおいしそうな香りの甘味を食べられないなんてひどいです。」


「まて…、この匂いに似た甘実かんじつという物を果実のように生み出す甘魔樹かんまじゅと魔物がいるぞ。その甘実を手に入れれば、酒を使わずともこのお菓子を作ることができるかもしれぬ。」


「そ…そうですか…?で、でも市場には、そのような魔物が生み出す果物など売っていませんでしたわ。」


「だから、甘実かんじつは、果物ではないのだ。強くはないが毒もあるからな。」


「えっ?毒があるなら甘味には使えないよ。」


「そこは、大丈夫だと思うぞ。甘実かんじつ毒は、魔力を抜けば完全に消える。魅惑や幻覚、実を触れば麻痺に至る毒だが、その全ては魔法によるものだからな。」


「それで、その甘実かんじつとやらは、どこで手に入るのですか?」


「うむ…。どこにあるのであろうな…。」


「うむって、ロジャーが教えてくれたんでしょう。」


「そう言われてもな。甘魔樹


「確かに、甘実を手にしたことも見たこともあるし、ギルドに卸したこともある。しかし、儂も販売されてものなど見たことはないのだ。」


「もしかしたら、マルヨレインさんが知っているかもしれませんわ。何しろ、不思議な魔道具屋さんなのですから。」


「そうだのう。では、この酒精の強い甘味と引き換えにその情報を聞いてみるかのう。」


 手土産の味を確認した後、僕たちはマルヨレインさんの店に向かった。少し時間は早いけど、問題ないだろう。マルヨレインさんのことだ、既に準備は整っているだろう。


 店の前に着くと、ノッカーを叩きマルヨレインさんを呼んだ。


「よく来た。待ちわびておったぞ。」


「では、孤児たちの行方が分かったのか?」


「頼まれていた3人はすべて行方を掴んだぞ。しかし、これで、我らの繋がりを切ってしまおうなどとは思っておらぬよな。」


「何を言う。お主にはまだ、他にも頼まぬとならぬことがたくさんあるからな。懇意にしてもらいたいと思っておるぞ。それに、今日は、お主好みの甘味を手土産に持ってきておるからのう。凛、一つだけで良い。味見用に出してくれぬか。」


「うん。じゃあ、シュークリームからね。マルヨレインさん、これは、シュークリームという甘味です。味見をお願いします。」


「うむ。これを待っておったのだ。」


 マルヨレインさんは、僕が出したシュークリームを一口で半分程かぶりつき口の中に含んだ。少し行儀悪い食べ方かもしれないけど、ふんわりと甘い香りが漂ってきた。


「これは…、この甘味と酒精…。何というか…、初めての味だな。これの錬金術式もあるのか?」


「はい。作っています。それで、この錬金術式の対価の依頼は、甘魔樹の甘実かんじつの購入方法です。」


「たったそれだけで、このシュークリーム?の術式をくれるのか?」


「そうだ。ただし、今回の依頼結果次第だ。さっき、頼んだ孤児全員の行方が分かったと言ったであろう?」


「良く、聞いておったな。そう。そう言った。残りの4人の行方が分かった。そして、あまり良い結果ではなかったのだ。」


「では、話を聞こうか。」


「うむ。では、奥に来てくれ。その…、シュークリームとやらは、まだあるのであろうな。」


「はい。でも、今回は、僕とサラはお付き合いできません。何しろ酒精が強すぎる物ですから。」


「お主たちには、我が錬金したフルーツタルトを馳走しようではないか。」


「フルーツタルト…。た…楽しみですわ。」


「サラ?…、つい最近食べたばかりじゃないか。」


「でも、甘味が食べられるのです。毎日、同じものでも、サラは、大歓迎ですわ。」


 僕とサラには、マルヨレインさんのフルーツタルト。そして、ロジャーとマルヨレインさんには、シュークリームが配られて話が始まった。マルヨレインさんの美味しい紅茶も一緒だ。少しの間だったが、4人でお菓子を食べた。マルヨレインさんのフルーツタルトは、美味しかった。フルーツの選択が秀逸だった。


「さて、悪い報告とまあまともな報告、良い報告どれから聞きたい?」


「そうだな。悪い報告からにするか。サラ、それで良いか?」


「ちょっと待って下さい。悪い報告って、悪いのですわよ。サラはそれを聞くことが怖いです。」


「なら、良い報告からお願いします。」


「よし。では、良い報告だ。アーベとルーラントだな。二人とも同じ傭兵部隊に所属していた。その部隊は今、王都にいる。」


「その部隊の名は?」


「王都の西門に訓練所を持っている銀のたてがみだ。」


「その部隊なら既に仲間が侵入している。そして、野営訓練に向かうと言っていたよ。」


「まあ、今は、そのことはよい。名も分かっておるからな。後ほど、フースとルカスに連絡しておけばよい。奴らの実力があれば、うまく連携できれば、よもや全滅などということはないであろう。」


「それが良い報告だ。次の報告をしてよいか?」


「うむ。頼む。」


「ヴェルマは、王都の商会が所有している。借金奴隷だ。商会の名も分かった。しかし、少し厄介なことになっている。ヴェルマは、借金奴隷であり、後天性の魔力病なのだ。そして、もう半年もせず、闇奴隷として売られるであろうな。」


「後天的な魔力病…。それって何なのですか?」


「魔力病は、成人して魔力回路が活性化すれば、完治するんじゃないの?」


「そうだな。儂も初めて聞く。後天性の魔力病とはな…。しかし、ベンテも、持っている像に自分の魔力を吸わせないと体調が悪くなると言っておった。」


「それと、ヴィルマの魔力病は関係があるの?」


「多分な。」


「それは、そうとマルヨレインよ。ヴィルマのいる商会名も教えてくれるのだな。」


「うむ。ちゃんと教える。」


「さて、あまり聞きたいとは思わないが、悪い報告。ヨスの報告だな。」


「うむ。残念だが、ヨスの行方を探し出すことは、難しい。生きているかどうかも分からぬ。ヨスは、闇奴隷に落とされておった。」


「えっ、ヨスが…。どうしてですか。サラと別れて、まだ、一年もたっていませんわ。」

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