第125話 シモンとの面会と大人の甘味

 日が暮れるころ、シモンとの面会をすませて、ポーションを手渡した。


「シモン、変わったことはない?フースとルカスはダンジョンに野営訓練に行くそうなんだけど。」


「あっしは、いつも通りでやすね。もう暫くは訓練が続きそうです。でも、先輩たちと一緒にパトロールには出るようになったんですぜ。」


「先輩退院生たち見つかった?」


「それが、あっしがいる衛兵訓練所は、孤児だっていう奴がいないんです。まあ、スラム出身の奴らは何人もいますがね。」


「そうなの。それじゃあ、シモンもそろそろここ辞めて冒険者に戻る?」


「そうですね。指導官に、あっしの借金がいくらなのか聞いて、金貨数枚なら、そろそろやめても良いかもしれないですね。」


「でも、かなりの額の違約金というのを支払わないといけないかもしれないよ。」


「そうなんですか?でも、衛兵ってこの国に雇われているような物なんですけどね。それでも、そんな法外な違約金なんかを取りやすかね…?」


「それもそうだね。それなら、シモンは、当たりか外れかわかんないけど、ヴィルケス商会から外れた職場に行ったって言うことかな?」


「どうなんでしょうかねえ。まあ、衛兵見習いを止めたいって言ったら何か分かるかもしれないですね。」


「それじゃあ、それを聞くのは、明々後日しあさってにしてくれない?」


「どうしてですか?」


「明日は、マルヨレインの店に行って情報をもらうんだ。それで、明後日は、サラと一緒にダンジョンに潜ろうと思っているからね。そこで、一攫千金を手にできる予定なんです。」


「へぇ…?一攫千金って予定できる物なんですね。流石、先生ですぜ。」


「まあ、必然的な予定もあるからさ。期待して予定を立てていて良いよ。」


「分かりやした。明々後日しあさってですね。その日の朝で良いんですかい。」


「そうだね。その日の訓練が始まる頃に迎えに来るからさ。それから話した方が良いかな。」


「分かりやした。それから一緒に話を聞くでやすよ。」


「うん。じゃあ、シモンさんも頑張って。俺も、明日、マルヨレインさんに喜んでもらえるように、甘味の錬金を頑張ってみるよ。」


「変わったことを頑張るんでやすね。まあ、あっしも訓練を頑張りやす。」




 僕は、そのまま、自分たちの宿に戻った。今から作った甘味を味見してもらわないといない。素材は、今まで買っていたもので何とかしよう。今日は、チョコアイスを作ってみる。ミルクプラントからアイスクリームを作るにはどうしたら良いのだろう。水属性の魔力操作が得意な人が熟練度を上げると氷も作れるみたいだけど、近くには居ないから、必要な物は製氷のスクロールか…。


「作れない物を作ろうとするのは良いですわ。でも、最初から作る気ないでしょ。」


「えっ?何のこと。」


「今回の甘味のことですわ。」


「何で、そう思うの?」


「凜は、材料探しに行っていないですわ。」


「なーんだ、それでそう思ったの。大丈夫、材料はもう揃っているからさ。だけど、マルヨレインさんに持って行くのは別の物にしようかなって思っているんだ。」


「どういうことですの?」


「お酒を使ったお菓子の錬金術式を教えてもらったんだ。マルヨレインさんはその方が喜ぶんじゃないかと思ってさ。お酒を何種類かロジャーに仕入れていきてもらわないといけないみたいなんだよね。」


「ロジャー様なら、宿にいらっしゃると思いますわ。直ぐに行くのですか?」


「うん。直ぐに行ってくる。その前に、サラに探しに行ってもらいたい物があるんだよね。」


「何ですの。でも、明日まで無理だと思いますわ。いくら王都の中だと言っても暗くなってサラ一人で町をウロウロするのは危ないですわ。」


「分かっているよ。明日の朝で大丈夫だよ。サラには、道具屋で製氷のスクロールを探してきてもらいたいんだ。」


「製氷のスクロールですわね。でも、この寒い時期にそんなものどうするつもりなのですわ?」


「アイスクリームというのを作るのに必要なんだ。氷でも良いんだけどね。」


「この季節なら、氷は売っているお店がありますわ。そちらの方が安いですし、ある場所もすぐわかりますわ。」


「それじゃあ、氷で良いよ。」


「分かりましたわ。それでしたら明日の朝一番に買いに行ってきますわ。」


「それじゃあ、僕は、ロジャーの所に行ってくるね。サラは宿で待っていてね。」


 サラを宿に待たせて、僕はロジャーの宿に向かった。真っ直ぐ部屋に行ったがラッキーなことにロジャーは出かける準備はしていたけど、まだ出かけていなかった。


「ロジャー、今からどこに行くの?」


「うむ。儂も退院生たとのことを少し調べてみようかと思ってな。」


「酒場に行くの?」


「そうだが…、どうしてだ?」


「甘くていい香りがするお酒を何本か買ってきて欲しいんだ。マルヨレインさんに持って行く甘味の材料にしようと思ってさ。」


「お酒が、甘味の材料になるのか?」


「うん。甘味の香りづけに使うんだ。ミルクの癖を消したり、甘さを強く感じさせたりするために使うんだよ。」


「しかし、甘くて香りの強い酒は、総じて酒精が強い物だぞ。」


「そうみたいだね。だから、子どもは、そんな酒を香りづけに使った甘味は試食できそうにないんだよね。だからさ、明日、こっちの宿に来るからさ、ロジャーが試食してくれない?」


「それは、かまわぬが、酒はその時、渡せばよいのか?」


「うん。それで、大丈夫だよ。ほとんどの材料は手に入っているからさ。明日、4の鐘には、マルヨレインさんの所に甘味のお土産を持って行けると思う。」


「では、儂も、その大人の甘味という奴の試食を楽しみにするかのう。今から、町に出るが、お主は、気を付けて宿に戻るのだぞ。」


「うん。分かったよ。」


 明日は朝から忙しくなる。今日は、早く寝よう。


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