第124話 野営訓練の準備


「それってどう言うことだ。なんで、ヴィルケス商会に戻ることになるんだ?」


「多分、見習いの前半は、無理なく返済をさせるのだけど、その返済じゃあ、利子の分も返すことができていないんだ。」


「うん。それは、だいたいわかる。おれも、給金の中からそんなに引かれてなかったんだけど、後で聞いた借金はめちゃくちゃ多かったからな。」


「それで、これは、多分なんだけど、その内、その借金の総額を知らせられるんじゃないのかな。それを聞いたら、無理をしても返済しようとするでしょう。」


「まあ、借金奴隷なんかには、なりたくないだろうしな。」


「そう。でも、少々の無理じゃ、返済できるような額じゃないよね。」


「それはどうかな?見習いの時に勉強して、力が付いていれば返すこともできるんじゃないか?俺なら、できたと思うぞ。」


「リニ、それは冒険者時代にお金を貯めてたからだと思うよ。普通に仕事をしていても急には給金は増えないんだよ。」


「確かに、そうかもしれないな。それじゃあ、働く前に金貨30枚も借金させられたら、直ぐに奴隷落ちしてしまうじゃないか。実際は、退院生たちは、4年か5年の先輩たちもまだ奴隷落ちなんかしていなかったぞ。」


「でも、病気になったエミーリアは、退院後2年もたっていないのに闇奴隷に落ちる所だったんだよ。」


「そ…、そうか。でも、ベン兄はどうなんだ。退院して5年近くたつのにまだ奴隷落ちもしていなかったんだぜ。」


「それなんだ。エミーリアと何が違うんだろう。」


「まあ、ベン兄とエミ姉に聞いてみれば何かわかるかもな。それに、凜が言うことが本当なら、病気になったり仕事ができなくなったりしたら、ヴィルケス商会に戻ることになる。そういう仕組みなら、退院生の行方は、全部商会につながっていることになる。」


「じゃあ、俺は工房にいたままの方が良かったのか?俺が、商会の鎖から逃れたことで、いらぬ用心をされるのではないか?」


「どうかな…。どうせ、テラもシモンたちも離れることになるんだからね。用心されるのはしょうがないんじゃないかな。」


「分かった。じゃあ、俺は、今からダンジョンに潜る準備をしたらいいのか?」


「そうだね。僕とサラは、マルヨレインの所に行くから、依頼の確認をしたら、フロルとリンジーを誘いに行ってみてくれない。」


「ベン兄は、一緒に連れて行って良いのか?」


「どうだろう。ベンテさんに聞いてみてよ。傭兵部隊にいたんだったら、冒険者になっても直ぐにランク持ちになれるんじゃないかな。」


「おう。分かったぜ。じゃあ、直ぐに冒険者ギルドで依頼を確認して王都を出る。後は、宜しくな。」


 工房を出てすぐ、リニと別れた後、衛兵訓練所に向かった。


今日こんにちは。シモンに薬を持って来たんですけど、会うことできますか?」


「今日は、金はないのか?」


「この間、全部払っちゃいましたよ。シモンさんには、何時くらいだったら会うことができますか?」


「面会費が準備できないなら、訓練が終わってからだから、夕刻6の鐘以降だな。そんなに遅く来ることができるか?」


「はい。用心しながら来るので、面会させてください。薬を渡しておかないと心配なんです。」


「お前は、いつまで薬を持ってくるつもりなんだ?奴は、そんな早く訓練は終らないし、給金だってそんなにたくさんもらえないぞ。」


「でも、薬を渡さないと、命が危ないのですから、外出できるようになれば、いくつかの素材を集めて自分で作るんじゃないでしょうか。」


「ほほう。シモンは、調剤スキルも持っているのか?」


「調剤スキルというほどではないと思いますよ。でも、自分の薬は作っていた気がします。」


「自分の薬だけか…。つまらんの。まあ、良い。じゃあ、今日6の鐘だな。訓練所の方には伝えておく。」


 シモンとの面会の予約を取って冒険者ギルドの方に向かった。途中からコースを変えて、傭兵訓練所に向かわないといけない。


 冒険者ギルドの前を通り過ぎて、王門から外に出た。西門につながっている道まで歩くと、マウンテンバイクを出して、西門の傭兵訓練所に向かった。


今日こんにちは。フースとルカスと面会できないですか?」


「今日は、もう、宿舎に戻っているからそっちに行ってみな。」


「宿舎は、どこにあるんでしょうか?」


「宿舎を知らないのか?それじゃあ、傭兵ギルドは分かるか?」


「西門から冒険者ギルドの方に20分位歩いた場所ですよね。冒険者ギルドからこっちに来る時に見た気がします。」


「そうだ。その傭兵ギルドの地下が訓練生の宿舎になっている。」


「傭兵ギルドで面会をお願いしたら良いのですか?」


「そうだ。しかし、早くいかないと、野営訓練に出る準備中だからな。先輩訓練生と買い出しに行くかもしれないぞ。」


「分かった。急いでいってくる。ありがとう。」


「おう。急げ。」


 大急ぎで、傭兵ギルドに行くと、入り口で、外に出ようとしているフースとルカスに会った。先輩の見習い傭兵と一緒だったけど、少し話をするくらいなら待ってやると言ってくれたから、傭兵ギルドの会議室でちょっとの間話をすることができた。


「明日からの野営訓練なんですけど、俺たちは、同じ班に編成されたんですぜ。それで、全員がヴィルケス商会から紹介されてここに入った者ばかりなんです。変だと思いませんか?」


「見習いってどのくらいの期間、傭兵ギルドで訓練されるの?」


「見習いとして訓練されるのは3ヶ月だと言われているけど、雇い主が現れないと王都で訓練は続くみたいですぜ。今回、一緒の班に編成されているは、3年から俺たちまでです。訓練生は俺たちを含めて3人ですぜ。」


「一班、何人なの?」


「俺たちの班は、5人です。」


「フース、俺は、指導係が少し怪しいと思ってるぞ。それで…。先生、もしもの為にポーションを多めに貰っていて良い?最低5本ずつは、持っておきたいですぜ。」


「わかった。それで、一つだけ情報。怪我をしたり、病気になったりして、今の雇い先に居られなくなったらヴィルケス商会に戻ることになっているらしいよ。わざと危険な任務をさせられて怪我をさせられるかもしれないから気を付けて。」


「わかりました。ポーションは、今、手元にお持ちですか?」


「あるよ。念のため6本ずつ渡しておく。怪我に注意だよ。」


「分かっていますよ。でも、わざと怪我をするのも良いかもしれませんね。痛いのは怖いですけど…。何とか怪我を装うことはできないか考えてみようと思います。」


「無理しないで。野営訓練から帰ってくるのは何時いつなの?」


「順調なら5日後です。王都からそんなに離れた場所ではありませんが、ダンジョンで訓練が行われると聞いています。面白そうですが、気を付けますよ。ついでに粘着網のスクロールと酸のスクロールも10本ずつくらい準備してもらって良いでしょうか?」


「了解。フースは、何かやらかすつもりなのかな?兎に角、それぞれ10本ずつ、合計20本のスクロールを渡すね。」


「ありがとうございます。俺たちを罠にはめようとしても、逆に一攫千金を手にして傭兵を辞めてやりますよ。」


「油断は禁物だからね。怪我をしないように気を付けて。」


「心配しなくても大丈夫です。先輩たちも俺たちが守ってやりますから。後で報告します。期待してい貰って良いですよ。」


 そう言うとフースとルカスは、僕にウインクをして、待っている先輩傭兵たちと買い物に出て行った。


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