第121話 リニの帰還
「サラ、テラが雇われている商会の名と場所は覚えておるな。リニが雇われている工房も覚えているか?」
「勿論ですわ。しっかりと覚えていますわ。サラ一人で行ってきた方がよろしいのですか?」
「いや、凜と一緒に行ってくれ。二人には、凜が作ったクッキーでも差し入れに持って行ってくれればよい。その足で傭兵訓練所まで行って、シモンたちとの面接予約を取って来てくれ。今度は、急ぎできないからと金を取られぬ方法で面接が可能か確認してくれ。あまりに先だと言われたら、シモンの方から連絡を算段するであろうさ。」
「分かった。」
「じゃあ、行きますわよ。凛、着いて来るのですわ。」
簿は、サラの後ろについてテラが雇われている商会を尋ねた。今は仕事中だから、会うことはできないと言われたが、面会に必要な費用はいくらだと聞くと、銀貨1枚は出してもらわないと無理だと言われた。
「凛、銀貨1枚なら何とかなりますわ。今日、テラにあっておかないと、明日から、ダンジョンに入るです。何が起こるか分からないのですわ。」
「そうだね。一攫千金を目指して二人でダンジョンに入るんだから、最後のチャンスになるかもしれないね。テラが居なくなる前に僕たちに渡してくれた銀貨がまだ残っているからそれを使って、面接の時間を作ってもらおうよ。」
僕とサラは、商会のお姉さんの前でわざとらしい会話を続けた。
「本当に、銀貨1枚も出して、面会時間を作るのですか?もし、本気なら商会長に伝えますよ。でも、もし、商会長が会うようなことになったら、今の話を取り消すことができなくなりますよ。」
「勿論ですよ。その為に来たんですから。商会長に伝えて下さい。」
実際には、商会長は現れず、銀貨1枚支払うと、会議室のような少し広い部屋に案内された。サラと二人で待っているとテラがさっぱりとしたドレスを着てやってきた。
「テラ姉、きれいですわ。サラもここで働きたい気がしてきましたわ。」
「本当。でも、このドレスも買い取りって言われたわ。私、この商会に勤めるようになって、いくら位、ここの商品を買っているかしら。金額を教えてもらえないから、分からないのよね。」
「そうなんだね。ところで、今日会いに来たのは、僕らの明日からの予定を知らせる為なんだ。あんまり、時間がもらえないと思うから、今から伝えるよ。」
「えっ?あっ。分かった。それでどんな予定なの?」
「僕とサラで明日からポーションがドロップするダンジョンに探索に行こうと思うんだ。
「そうですわ。高級ポーションが手に入れば、1本で金貨10枚も手に入るそうなんですわ。」
「それでさ、もしも、そうなったら、テラを迎えに来る。テラもそのつもりで準備をしていて欲しいんだ。それが、今日の用事だよ。」
「そのうなの。でも、無理だけはしないで。」
「勿論ですわ。サラは、心配しなくても大丈夫ですわ。」
「僕も、頑張って、準備をするから。安心して待っていて。予定通り迎えに来る。」
「本当よね。絶対死んだりしないんだよ。」
「だから、心配しなくても大丈夫だって。テラ姉!サラたちを信用して頂戴ですわ。」
僕たちが、部屋を出ようとした時、誰かがドアの近くから離れて行くのが分かった。しっかり気配も感じていたから差しさわりない話をしていた。サラも感じていたみたい。
「じゃあ、僕たちの一攫千金を当てにして待っていて。」
「うん。当てにしているわ。」
商会を出て、僕は一度冒険者ギルドの方に向かって歩いた。次に向かうのは、リニが働いている工房だ。後をつけてくるような気配はない。なけなしの銀貨を今回の面会のために使った子どもたちという風に見えたかな…。
リニとの面会スムーズだった。なんでも任されていた仕事を全部終わらせたのだそうだ。リニは、職人たちの食堂で待っていた。
「やあ、わざわざ来てくれてありがとう。後、2から3日でここでの仕事を終わらせないといけないんだよな。なんか寂しいな。」
「えっ?リニは、借金が沢山で大変なことになっているんじゃないの?」
「借金?うーん。あるかな。でも、親方が肩代わりしてくれるって言う話も合ってな。もちろん、それは、断ってるぞ。」
「じゃあ、リニの職場に他の孤児院の退院生は居ないの?」
「今は、いないようだな。でも毎年、一人か二人は、職場をやめて行く者がいるようだから、今までいなかったかどうかは分からないな。」
「じゃあ、リニみたいに、親方が借金を肩代わりしてくれた人は?」
「それもいないみたいだ。今この工房にいる先輩たちはみんな両親のうちどちらかか、両方が職人の人ばかりだよ。鍛冶師か、工芸魔術師が多いんだ。」
「鍛冶師と工芸魔術師って何が違うの?」
「俺もはっきりとは知らないんだけど、なんでも、鍛冶師は、金属加工が得意で、金属と木やそのほかの素材を組み合わせた道具や魔道具を作ることができるんだって。工芸魔術師は、素材が限定されているけど、鍛冶師よりも大きな物や細かい細工を魔法ですることができるって聞いている。」
「リニは、魔力を使って、色々な素材で、細かい加工ができるから、そのどちらとも違うのかな。」
「うーん。そうだな。だから親方が、このまま工房で働けって言ってくれているんだと思う。まだ、成人の儀を受けていないから、職業が分からないんだよな。」
「あっ、それでさ。後何日位で、戻ってくる?もしも、お金の都合がつかないのなら、僕たち一攫千金を狙ってダンジョンに潜ろうと思っているんだ。上手くいけば、後2~3日で戻ってこれると思うんだけど…。もしかして、今日、帰ってくる?」
「王都のダンジョンに潜るのか…。明日だな。よし、俺も行く。親方に今から話に行くぞ。肩代わりの話が出た時、今の俺の借金額を聞いたんだ。」
「本当?でも、それから何か買ったんじゃい?」
「俺は、魔術で細工ができる。ここでもかなりの回数、クリエートの魔術を使っているからな。熟練度も上がって、工具なんか買う必要ないんだ。」
「それで、いくらくらい借金があるの?」
「その時聞いた話じゃ金貨3枚だった。」
「それくらいなら何とかなるけど、違約金なんかが発生するんじゃないの?」
「それは、親方に聞かないと分からないな。今から聞いてくる。」
「えっ?」
そのまま部屋を出て行ったリニは、10分ほどして親方と一緒に戻ってきた。
「ええっ、なにかい。お前らがリニの仲間で、明日からダンジョンに潜りたいんだって?」
「はい。リニの借金を肩代わりすためのお金も持ってきました。」
「リニに、聞いたんだが、お前らは、本当に、Cランクなのか?」
「えっ?昇格試験は、まだ受けていないはずだよね。でも、受験資格はあるはずだけど…。」
「うむ…。リニの言った通りだな。しかし、リニをお前たちのパーティーに返すには、もろもろ合わせて金貨6枚は必要だぞ。お前たちにその金額が今すぐ払えるのか?」
「今ここで支払ったら良いの?」
「ん?そうだな。払えるならな。」
「はい。確かめて下さい。リニ、お帰り。明日は、一緒にダンジョンに行けるね。」
「リニ、本当に辞めちまうのか?お前なら、王都でも5本の指に入ることができるような親方になれると思うぞ。」
「親方、すみません。短い間でしたけど、色々教えてもらって有難うございしました。俺、やっぱり、冒険者に戻ります。必要な素材があったらシルバーダウンスターにご注文下さい。安く、請け負いますよ。」
「お前なら、本当に、王都でも最高のクリエーターになれる。できれば冒険者生活を止めたくなったらうちに帰って来い。」
「有難うございます。それじゃあ、俺がおじいさんになったら、もしかしたら、再就職させてもらうかな。」
「期待して待っているぞ」
円満退職だ。これで、リニと一緒にダンジョンに潜ることができる。
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