第120話 救出と深まる謎

 ロジャー達は、夜になっても帰ってこなかった。ということは、エミーリアの救出はうまくいったということかな。今日は、完全に一人で宿に泊まることになる。心細い。


 退屈しのぎにアイテムボックスを確認してみるとレミからの手紙が来ていた。僕が欲しいのは、両方かな。腕時計と目覚まし時計の両方が欲しい。日常使用する道具で、こっちの世界で作れそうな物って何があるのかな。電池を作ることができないなら、家電製品は、再現できないのかな。家電以外でこっちの世界で作ることができそうな物は何なのかな。


 今の所は、ないかな。向こうの世界で魔力インクを作れるなら色々なスクロールなんかを特に洗浄のスクロールなんかを教えてあげたら、便利だろうけどな。そうだ。僕のリュックや鞄の錬金術式ができたら送ってもらおうかな。僕には必要ないけど、お洒落な商品としてこっちで販売したら人気が出るかもしれない。


 部屋を出て、食堂に行って夕食を食べた。一人で夕食を取るのって初めてかもしれない。…、こっちに来て直ぐに一度くらいあったかな…。もう忘れてしまった。いつものメニューなんだけど、あまりおいしく感じない。一人で食べてるからなのかな。


 黙って食べて部屋に戻った。


 そのことを手紙に書くとアイテムボックスに収納してコピーした。これでレミに伝わるはずだ。


 夕食を食べてもうしばらく起きているかな。この宿にお風呂はない。だから、クリーンのスクロールを使って体をさっぱりさせた。フロルたちは、お風呂完成させたかな…。あっ、風呂釜は僕が持っていたんだ。でも、給湯の魔道具や排水に使うマジックバッグは、フロルに渡しているから水浴びができるように地下の部屋は作っているかもしないな。僕も早くお風呂に入りたいな。


 もう寝よう。一人で起きていても何もすることがない。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あの子は、闇に落ちる子。この国に仇なす子なのです。祖王様よりの啓示がありました。あの子を処分するようにと。」


「僕は…。闇に落ちてなんかいない…。」


「レミ様、あんな男の言うことなぞ、聞く必要はございませぬ。奥方様がそのような指示を出されるはずなどないのです。私が主守りして、お爺様の元にお届けいたします。気を確かにして、その木に捕まって…。」




『コンコン』


「凛、まだ寝ているのですか?もうすぐ朝食の時間が終わってしまいますわ。寝坊すぎますわよ。」


「あっ。サラ…。」


 何か、夢を見ていたような気がする。夢…だよね…。


「ようやく起きたのですね。早く着替えて朝食に行かないと食べそこなってしまいますわよ。」


「ロジャーは?」


「もうお部屋に戻っておられますわよ。朝ご飯を食べて、部屋に来るようにっておっしゃっていますわ。急ぎなさいですわ。」


「分かった。急いで朝ご飯を食べて部屋に行く。ロジャーの所に行く前にサラを呼びに行った方が良い?」


「うーん。凛、クリーンのスクロールを持っていますか?」


「どうして?」


「昨日、せっかく湯あみをしたのに、朝早くからロジャーさんのマウンテンバイクの後ろに乗ってきたから、何となく埃っぽいのですわ。」


「スクロールなら昨日作ったから、たくさん持っているよ。」


 僕、着替えるとすぐに部屋を出てサラにスクロールを渡して朝食を食べに行った。パンとスープくらいしか残っていないかったけど、10分程で食事を流し込んだ。サラに声をかけて、一緒にロジャーの部屋に入って行った。


「おう。凛、ようやくやってきたか。」


「ごめんね。何か予定がはっきりしていないと朝寝坊してしまうみたい。」


「まあ、魔力病の子はよく眠るからな。病は完治しているのだから、体力が付けば、寝坊することもなくなるであろう。」


「それで、エミリーリアは、無事助け出すことができたの?」


「体力を回復させるためには、栄養価の高いものをしっかりとたくさん食べさせねばなるまいな。」


「病気だったの?」


「いや、栄養失調であろうな。痩せてもいたし、血色も良くなかった。」


「エミリーリアさんって長い間、奴隷になっていたの?」


「それが、借金奴隷になったのは、一月ひとつき前らしいのだ。」


「それなのに、栄養失調?奴隷ってそんなにひどい生活なの?」


「いや、本人が食事代も殆ど借金の返済に回していたらしいのだ。」


「自分の意志でなの?」


「本人の意志でだ。そもそも、自分が奴隷に落とされるほどの借金をしていたことを知らなかったらしいのだ。奴隷に落とされて初めて借金を追っていることを知ったと言っておったな。」


「エミリーリアが背負っていた借金っていくらなの。」


「エミリーリアお姉様は、たった金貨3枚の借金で奴隷に落とされて、金貨5枚で借金を返済してもらって自由になったのですわよ。まあ、フルーツタルトのレシピと生地を渡しはしましたわよ。それでも、あまりだと思いますわ。」


「サラ。でも、つい一月と少し前は、銀貨2枚をなくしたことでテラたちは絶望していたんだよね。その25倍の金額だって考えると大金だと思わない?」


「うっ…。確かにそうですわ。冒険者見習になって、冒険者にも慣れたから金貨数枚の報酬にもなれていましたけど、私たちにとって銀貨は大金でしたわ。」


「王都に働きに出てきた物たちにとっても同じなのだ。銀貨1枚は、ほぼ一月の給金なのだ。その全額を返済に回しても、金貨3枚は30か月もかかる。食費を引かれ、利子を足されれば、借金は減っていくどころか増えていってしまう。」


「はじめから、そんなにたくさんの借金をさせられていたの?」


「初めは、銀貨5枚でも、利子の返済さえもできておらんかったらしくてな。その上、利子が借金に積み上げられてしまうような契約だったのだ。」


「でも、どうして?はじめ借金が少なかったら利子も少ないでしょう。それなら利子が利子を生むことなんてなかったんじゃない?」


「ベンテと同じだ。商会との契約で、給金からいくら返済しているのかがわからぬようになっておったようだ。そして、雇った方には、返済している金額が利子にも届いておらぬことは知らせていなかったのかもしれぬ。エミーリアが借金奴隷に落とされると聞かされた雇い主はたいそう驚いて、何とかしようとしてくれたらしいと言っておったからな。」


「やっぱり商会が怪しいよね。」


「うむ。しかし、それだけでは、しっくりせぬ。まだ、裏や奥がある気がするのだ。どうしてと言われても、何も証拠がない。しかし、しっくりせぬ。何より、犯罪として暴かれることがないことがおかしい。昔からこのようなことが行われていたように思われるのだが、何も表に出てこぬ。なぜそのようなことができるのかが分からぬ。」


「明日には、マルヨレインさんが次の退院生の居場所をおしえてくれるはずでしょう。次の退院生から何かわかるかもしれないよ。」


「そうだな。それに、後数日あとすうじつでテラたちも仕事を辞めて戻ってくるはずだ。そこで掴んだことを元に神父を問いただすことも考えねばなるまいな。」


「そうだね。今日は、何をしたらいいの?僕とサラでテラたちと連絡を取ってみる?」


「うむ。テラとリニには、連絡を取ることができるはずであるからな。商会と工房に面会に言ってみるが良い。それが終わったら、初級冒険者向けのダンジョンに潜ってみてはどうかのう。特に、ポーションをドロップするダンジョンが良いであろうな。」


「一攫千金作戦を実行するんだね。」


「うむ。その通りじゃ。」


 そう言うと、ロジャーはニヤリと笑った。

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