第119話 レミの料理錬金術
「お母さん、凜から手紙が来てるよ。」
僕は、アイテムボックスにある手紙を錬金して母さんに渡した。
「僕は、読んでないから、錬金術式なんかのリクエストがあったらあとで教えてね。」
「分かったわ。ちょっと待ってね。」
お母さんは、手紙に目を通して直ぐに折りたたんだ。
「今回は、珍しくレミへのお願いはなかったわよ。近況報告だったけど、レミも読んでおいた方が良いと思うわ。向こうの友だちや知り合いのことについて最近の出来事が書いてあるの。そして、もしかしたら、レミが、記憶を失った原因に関係があることかもしれないわよ。」
「分かった。しっかり読んでおくよ。それでさ。今週の火曜日にある授業参観来ることができるの?」
「卒業式前、最後の授業参観なのよね。レミが学校で頑張っている姿を見たい。だから、絶対行くわよ。でも…、父さんも行きたがるのよね。」
「僕、授業参観の経験がないでしょう。凜もあまりないみたいなんだけど、普通、両親揃って来るものなの?友だちと話していても、授業参観来て欲しくないっていう子が多いんだよね。」
「まさか、レミも来て欲しくないなんて言うんじゃないよね。」
「そんなことは言わないよ。母さんには僕が頑張っているところ見て欲しいし、自分ではわからないから、凜の代わりがうまくできているかどうかも見て欲しいからね。」
「凜の代わりなんて考えなくていいわよ。レミは、レミがしたいことをしたいように頑張れば良いのよ。凜だって向こうの世界でそんな風にしているんだから大丈夫。」
「それで、何で父さんが来るなんて言うの?父さん仕事でしょう。」
「凜の授業参観なんて父さんも行ったことないのよ。小学校最後でしょう。せめて1回くらい見てみたいじゃない。運動会も間に合わなかったんだからさ。」
「でも、これから何度でも機会があるんじゃないのかな?こっちの世界じゃ、学校って短くても、たいていの人は後6年通うみたいだし、長い人は後10年以上通うんだって書いてあったよ。」
「書いて当たって何に?」
「図書館で借りた、小学生のリクルートっていう本かな…?」
「レミは、借りた本は大抵知識にしちゃうから…。確かにそうなんだけど、小学校は6歳から12歳までの6年間しか通うことができなのよ。その6年間で一度も学校の様子をまともに見たことがないなんて寂しいじゃない。だから、絶対行く。」
「分かったよ。楽しみにしているし、見に来てくれたらベストを尽くすよ。」
「ベストを尽くすなんて…、カッコいい。」
「どうちたの?」
「あら、お父さんは?」
「今、トイレ行った。」
「お兄ちゃんが、授業参観で頑張るって言ったからカッコいいって誉めてたところ。」
「授業ちゃんかん、頑張ったらカッコいいの?」
「そう。カッコいいんだよ。」
「蘭ちゃんもレミお兄ちゃんがカッコいい所見に行きたい。」
「残念!蘭ちゃんは、その日は幼稚園でお勉強の日なのよね。今度お休みの時に授業参観があったら見に行きましょうね。」
「分かった。蘭ちゃんは、幼稚園でお勉強頑張る。」
「ねえ、お母さん。授業参観の日は、凜と入れ替わったらダメ?」
「何言ってるの。今学校で頑張っているのはレミでしょう。私とお父さんは、そのレミの頑張りを見に行くんだよ。別に、凜の代わりじゃないからね。レミ!しっかり頑張ってよ。」
「わ…、分かったよ。と…ところで、今日の晩御飯何にするの?」
「錬金術で作る料理ってお菓子ばっかりだよね。まあ、ピザやパンなんかは作れるけど。なんか新しい錬金術料理ってできないかしら。」
「お菓子は、均一にするとか、はっきり分かれた材料をできた後で組み合わせるとか錬金術を応用しやすいんだけど、料理はどうしても素材の味が大切だからね。均一な素材って言うのを使うことがないんだよね。出汁やスープはもしかしたら作ることができるかもしれないけど、具が入るととたんに錬金術で再現できなくなるんだ。」
「ソースはどうかしら。高級レストランのソースなんかは材料さえあれば作ることができるんじゃない?」
「ソースや出汁は作ることができると思う。全く同じものじゃなくても、かなり近い味の物を作ることができると思うけど、ソースや出汁だけあっても料理にはならないからね。それに、そんな高級レストランのソースなんか手に入るはずないし、一からうちで作ることなんて無理だからね。」
「じゃあ、しょうがないか…。今日は、餃子ね。レミも作るの手伝ってよ。それから、餃子の皮は市販の物を買って来ているからアナライズしておいてよ。素材は、塩と小麦粉くらいだと思うけど…どうかな。」
僕は、餃子の皮を収納して分析してみた。
「アナライズ。…、分析できたよ。手持ちの素材で言うと強力粉と薄力粉、それに塩と片栗粉だね。」
「じゃあ、今度からそれだけの材料を準備しておけば、餃子の皮を作ってもらえるわね。今日は皮は、50枚しかないからね。もしも足りなそうだったら錬金して作ってね。」
「はーい。でも、餃子って食べたことあったっけ?」
「あれ?作ったことあったと思うわよ。でも…、凜が生まれる前は良く作っていたんだけど…レミ食べたことなかったっけ?」
「うーん。僕が退院して、家に戻って来てまだ、2ヶ月もたっていないからね。多分食べたことないと思う。」
「餃子の具は、均一ではないから錬金ではできないでしょうね。料理に使える錬金魔術が見つかればいいのにね。」
「うん。凜に見つけてもらおうかな。」
「ねえ、レミの世界って何て呼ばれているの?」
「僕の世界?」
「そうよ。ここは、地球とか日本とかでしょう。」
「ムンドラゴ。龍の世界かな。僕が住んでいた国、そして、今、凜たちが居る国は、ピーテルス王国だよ。」
「あれ?レミ。向こうの世界のこと思い出してきたの?」
「うん。少しずつ。凛と手紙でやり取りしていたら、何か少しずつ思い出してきたみたい。でも、マティアスが死んだ時のことは、全然わからないんだ。マティアスは、森の中で魔物と戦っていたみたいなんだけど、どうしてそんなところにいたのかが分からなくて。自分も名前もよく思い出せない。凛には、分かるのかな…。僕の記憶を使うことができるみたいだけど。」
「あなたが今はなしてくれたことは、凜の記憶ではないのでしょう。それってどこに保持していた記憶なんでしょうね。」
「ん?どうしてだろう。僕自身と一緒にやってきた向こうの世界の記憶ってどこに保持されていたんだろう。凜の脳に刻まれた物とは少し違う気がする…。でも、どちらも自分の記憶という気がするのは何故なのか…。不思議だ。」
「さっ、手を止めないで、餃子づくり頑張って。」
「あっ、うん。」
僕が、餃子づくりに集中しているとお母さんが餃子を作りながら話しかけてきた。
「あっ、そう言えば、凜が時計が欲しいって書いて来てたわ。電池が錬金できたら目覚まし時計を錬金して欲しいってよ。」
「目覚まし時計?」
「向こうの世界には、時計がなくて不便なんだって。」
「じゃあ、目覚まし時計をアナライズしてみる。その前に電池かな…。」
「そうね。電池に必要な素材を探してこないといけないわね。」
僕は、部屋に戻って、置いてあった目覚まし時計を収納してアナライズしてみた。
できた。目覚まし時計は、錬金できる。電池は…。中に入っていた電池は、術式の中に含まれているのだろうか…。
「コンストラクション。術式構築完了。」
「目覚まし時計の素材が足りないみたい。プラスチックは、大丈夫。アルミニウムと鉄も足りている。でも、素材が足りていない。」
蛍光塗料などが足りないか…。でも、なくても大丈夫な物は、省いて錬金すればよい。それなら、電池を素材として収納してみようか…。
「お母さん、単3電池ある?」
「あるわよ。ちょっと待ってね。」
お母さんは、餃子を作る手を止めて、手を洗って電池を取って来てくれた。
「はい。どうぞ。それで、目覚まし時計を作ることできそう?」
「うん。でも、向こうの世界では作ることができないかも。」
僕は、電池を収納して目覚まし時計を錬金してみた。
「できた。」
錬金できないのは電池だ。
「お母さん。電池を使わない目覚まし時計ってないの?」
「あるけど、家にはないわ。今時は、ゼンマイ仕掛けの目覚まし時計なんてよっぽど探さないと見つからないと思うわよ。ネットで調べてみる?」
「凛が絶対必要ならね。それに目覚まし時計のほうがいいのかな?お父さんみたいな時計の方が持ち歩きやすいと思うんだけどな。」
「ああ、腕時計ね。腕時計も電池式が主流だけれど、機械式っていうのもあるみたいだからね。それもネットで調べてみましょうね。」
「じゃあ、僕は、凜に時計ってどんな風に使いたいのか聞いてみるよ。目覚まし時計なら、お母さんが言ったみたいに、ネットで調べて注文しないといけないかな。」
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