第117話 お菓子の錬金

 ロジャーは、直ぐに傭兵ギルドに向かった。後で聞いた話だけど、ギルドで、ゾルターン傭兵団のことを尋ねるとすぐに、団長と会う手はずを付けてくれたそうだ。もろもろの手続きは直ぐに終わったそうだけど、ロジャーは、その日は宿に戻ってこなかった。


 僕たちは、マルヨレイさんの店を出てすぐにロジャーと別れて宿に戻った。部屋に戻ると一人だ。サラも自分の部屋に戻って行った。


「アイテムボックスのチェックでもやっておこうかな…。」


 独り言を言いながら、アイテムボックスをチェックしてみる。


「あっ、レミから返事が来ている。」


『凜へ

 差し当たり、家にある物の錬金術式を送る。お菓子も送って欲しいんだと思えたから、父さんがチョコクリームのイチゴケーキと生クリームのフルーツケーキを買って来てくれたからその錬金術式も送る。その他には、チョコサンドクッキー。ついでにポテトチップス。シュークリームとエクレアもどうでしょうか。ついでにだけど、バニラエッセンスがない時の代用品としてブランデーやラム酒が使用できるそうだけど、父さんが、未成年?は、使用禁止だって言ってました。念のためにラム酒とブランデーの錬金術式もおるね。それから、その二つをバニラエッセンス代わりに使ったシュークリームって言うのとアイスクリームって言うのも買って来てもらったら、錬金術式を送ります。僕が、そっちでバニラなんて聞いたことも見たこともなかったから一応送るね。まあ、僕は、そっちの食べ物のことそう詳しくはないけどね。

 レミ  』


 という訳で、チョコクリームのショートケーキを送ってもらったから作ってみることにした。一応、サラも呼ぼう。


「サラーッ!お菓子の錬金術式を送ってきたから、今から作るよ。味見お願い。」


 僕は、サラの部屋の前で、ささやき声に魔力を乗せて部屋の中に送ってみた。


「そんなに大きな声で言ってくる必要はないですわ。サラに味見をして欲しいと言うのですか?」


「聞こえた?」


「何を言っているのですか?あんなに大きな声で部屋に向かって話しかけてきたら聞こえるにきまっているではないですか。」


「今のは、この位の声だったんだよ…。魔力に乗せていたけどね。」


「凜、何をぼそぼそ言っているのですか?全く聞き取れませんわ。」


 今度は、聞き取れないと文句を言ってきた。サラに対してはなった魔力を乗せた声だから、サラだけに大きく聞こえて他の人には聞こえないはずなんだけどこんなに大きな声で返事をされると周りに丸聞こえになってしまう。


 もう一度ノックをしてサラにドアを開けてくれるように小さな声で伝えた。


「凛!そんなに大きな声で話したり、声を小さくしたりしたら周りの人が怪しみますわ。もう少し気を付けて欲しいですわ。」


「サラ、さっきから今の声の大きさよりも大きくしては居ないよ。ただ、サラに向けて魔力に乗せただけだよ。」


「えっ?声の大きさは変えてないのですか。」


「そう、サラが文句を言ってきた小声で、さっきからサラに話しかけているんだよ。」


「でも、サラには、大きく聞こえたり、聞こえなかったりしましたわ。」


「魔力に乗せるか、声だけで伝えるのかの差だよ。サラも伝えたい人に声を届ける時は、魔力に乗せるように話しかけたら他の人にははっきり聞こえないしゃべり方になるはずだよ。」


「へぇー。そうですの。でも、サラたちにはあまり関係ないことですわ。サラは堂々と話せないことはしないことにしていますから。」


「サラ、良い心構えだ。ところで、お菓子の試食はしないのか?」


「お菓子?何故、そのような話になるのですか?お菓子の試食は、昨日終ったはずではないですか。昨日隠していたお菓子があるのでしたら早く出すのですわ!」


「違うよ。さっき錬金術式が送られてきたんだ。」


「本当ですの。それなら、勿論、試食いたしますわ。」


「じゃあ、僕たちの部屋で、送ってきたお菓子の確認だ。」


「凛、今夜から、凜一人なのですわね。私の気持ちを味わうと良いのですわ。」


「まあ、サラの気持ちはあまり味合いたくはないけど…。ところで、サラは、錬金したお菓子を食べたいでしょう。それなら、暗くなる前に素材を買い出しに行かないかい?」


「今から、市場に行くのですか?凜じゃ頼りなくて一緒に行くのが怖いですわ。かといって凜一人でお使いに行かせるのも心配ですわね。」


「そうだね。サラと一緒だと、子どもが二人でウロウロしているって思われちゃうかもしれないね。やっぱり僕一人で言ってくるよ。手に入れたい物はそんなにたくさんはないからさ。直ぐに戻ってくる。」


「でも、お菓子の材料なのでしょう。凜一人では、お店の人に足元を見られるかもしれないですわ。やっぱりサラも一緒に行きますわ。もしも、誘拐されそうになったら軽めのファイアボールで火傷でもしていただくことにしますわ。」


 確かに、僕よりもサラの方が攻撃力はかなり高い。冒険者でもない町のチンピラがサラを誘拐しようなんてことをしたら返り討ちにあってしまうはずだ。確かに、サラに用心棒として着いて行ってもらった方が安全だと思う。


「じゃあ、一緒に行こう。サラが用心棒ね。」


「はい。サラが凜を護衛いたしますわ。」


 僕たちは、市場に行ってチョコクリームのケーキに合いそうなフルーツや木の実を仕入れてくることにする。本当なら、チョコクリームを作ってから味見をした後にフルーツを仕入れた方が良いんだろうけど、そんなことしてたら夜になってしまう。それにしても、ここの世界は、ときの鐘でしか時間が分からないのが不便だ。こっちの世界でも使える時計の魔道具なんてないのかな。


 サラと市場に行って、果物を扱っている店を探した。数件の果物市場を回って、20種類くらいの果物を購入した。もうすぐ冬になろうと言うのにこんなにたくさんの果物や木の実があるなんて流石王都だ。


 宿に戻ると、さっそくチョコクリームを作ってみた。小皿に取り出して一口なめてみた。あんまり覚えてないないのだけれど、地球で食べたことがある味に似ているのかと思う。本当に向こうの食べ物の味は覚えていない。食べることがあまり好きじゃなかったからかな…。


「何ですのこれは、昨日食べたチョコレートに似ていますけど、全く違った物ですわ。美味しすぎます。凜はどうしてこんなにおいしいものを作ることができるのですか。羨ましいですわ。」


「サラにそう言ってもらえると嬉しいよ。それでさ。このクリームでケーキって言うのを作るんだけど、そのケーキの中に入れるこのクリームと合いそうなフルーツは何だと思う?」


「断然、森イチゴですわ。でも、今の季節に森イチゴはないのですわ。次に会いそうなのは、フランジではありませんか?大福にして食べたフランジもこの甘味には合うと思われますわ。」


 ケーキのスポンジを錬金してみる。ふんわりとできれば、チョコクリームを重ねて塗って間にフルーツを挟んで、ケーキの上にも飾れば出来上がりだ。でも、チョコクリームをスポンジに塗るのって思ったより難しかった。


「アナライズ・チョコケーキ。」


 やっぱり無理だ。薪型燃料の時とは違うけれど同じような理由だと思う。一番は、フルーツを挟み込んだからだろう。ケーキもそれぞれを作り上げて手作業で仕上げるしかないのかな…。


 出来上がったケーキは、8分の1カットにして、サラと一緒に食べた。美味しかった。フランジは、チョコケーキに合うと思う。


 今日は、僕も一人で寝ることになる。ロジャーの部屋は取ってある。僕たちの部屋もそのままだ。大き目の部屋が3つもあるのに今日宿に泊まっているのは二人だけ…。少し心細い。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る