第116話 調査結果と対価

 前回と同様、正午前にマルヨレインさんの店を尋ねることにする。手土産は、ナビーバ大福とフランジ大福の二種類のフルーツ大福だ。勿論、錬金術式と材料も持って行っている。気に入ってもらえて、調査を引き受けてもらえたら作り方も教えることになっている。


 それにしても見つけにくいお店だ。一度言ったのに見つけるまで10分以上ウロウロした。やっと見つけてドアについた呼び鈴を鳴らすと、奥の方からマルヨレインさんが笑顔で出てきた。


「よく来た。今日は、前持ってきていたフルーツタルトの錬金術式を持って来たのだな。」


「では、ヴィルマとベンテの居場所が分かったのか?」


「無論であろう。我を信じておらんかったのか?まあ、良い。報告するぞ。しっかり書き留めるなり覚えるなりするのだぞ。ただし、我から得た情報だということは、絶対漏らすでないぞ。」


「分かっておる。魔術契約が必要か?」


「我は、そのような物が必要な輩とは商売はせぬ。」


「本当か?お主、あちらこちらと取引があると聞いたがな。」


「我も食っていかねばならぬからな。そりゃあ、価値が分からぬ者に物を譲ってやることはあるさよ。しかし、そのような者を商売相手とは思っておらぬからのう。」


「そのような者は、お主が欲しいと思う物を持っておらぬということか?では、お主は、金のために商売をしておるのではないと言うのか?」


「だから、言っておるであろう。我も食っていかねばならぬのじゃ。その為に必要な金は、価値の分からぬものから稼がせてもらう。しかし、商売相手とは、たがいに必要な物を与え合う相手と思うておるのじゃよ。」


「して、お主が必要な者は、甘味の錬金術式だと言うのだな。」


「おう。そうよ。では、さっそく商談に入るとするかのう。」


「うむ。宜しく頼む。」


「まず、エミーリア。その孤児は、危なかったのう。後、一月ひとつきお主らが来るのが遅かったら死んでおったかもしれぬぞ。」


「どういうことだ?」


「闇奴隷オークションの商品として売りさばかれるところだったということだ。」


「闇奴隷オークション?何だ、それは。」


「違法な奴隷のオークションだ。命の売買がなされるオークションとも言われておる。」


「しかし、そのようなところに儂らが参加できるはずもなかろう。闇には闇のルールがあり、参加するには何らかの資格が必要なのではないか?」


「誰が闇奴隷オークションに参加せよと言っておる。獣人の娘なら直接購入とは言わぬが身元保証として借金の肩代わり、それに、行き詰まっている商売への投資を仄めかせば良いのだ。」


「違法な奴隷の売買などに参加するような商会に投資すると言うのか?」


「誰が投資せよなどと言った?仄めかせばよい。溺れる者は何とやらという奴でのう。その商会は今にもつぶれそうなのだ。投資を…、例えば、高価な魔道具やスクロールを卸すことができるなどと言えば、ホイホイ食いついて来るであろうな。見る目もない奴らであるからな。飢えたドートみたいにぼろきれにでも食らいついてくるはずだよ。」


「ねえ、ロジャー、ドートって何?」


 僕は、小声でロジャーに聞いた。


「小型のカエルの魔物だ。腹が減っている時は、ぼろきれにさえかぶりついてくるのだ。」


「そうなんだ。知らなかった。」


「あの、ベンテお兄様の居場所は、分かったのでしょうか?」


「その孤児なら、借金まみれではあるが、まだ奴隷落ちはしておらぬぞ。しかし、傭兵だからな。戦死が先か奴隷落ちが先かというような状況であるな。」


「そうでしたら、心配ですわ。どこの傭兵弾なのでしょうか?」


「サラ、ベンテのことも後でしっかりと聞く。まずは、エミーリアのことからだ。して、エミーリアが今雇われているのは、何という商会なのだ?」


「王都にあるクロイブル商会だ。以前は、王都でも大きな商会だったのだが、今の商会長になって時勢を読めぬ。信念も持たぬし、完全に悪にも徹しきれぬ。おべんちゃらで商会長にまで上り詰めたような奴じゃ。それはそれで凄い才能と言えるがな。その男が借金奴隷を購入して、運転資金を得ようと闇奴隷に出すことにしたようだ。公になれば、己の首が飛ぶだけでなく、商会の信用もなくなると言うのに馬鹿な奴じゃ。」


「その商会に投資話を持ち掛けて、エミーリアをその流れで身請けすれば良いだな。」


「そう言うことだ。身請けの為の保証金はそう弾まなくても大丈夫だろう。借金奴隷として購入したとしても、エミーリアは、獣人族であるからな。金貨3枚も出しておらぬはずだ。」


「その値段で購入したエミーリアをどのくらいの値で闇奴隷オークションに出そうとしていたのだ?」


「エミーリアの容姿が分からぬから何とも言えぬが、売れても金貨10枚にもならぬのではないか?王都では、獣人は、働き手の成人男性でなくば、奴隷でも、そう、高値にはならぬからな。」


「良く分かった。後は儂ら次第ということであるな。次にベンテだ。その傭兵団は、どこに本部を置いているなんという傭兵団なのだ?」


「レヒトという町に本部を置くゾルターン傭兵団だ。王都から西に200kmほど行った場所のようだが、お主たちは運がいいな。つい先日王都に来たようで、今もまだ滞在しておるぞ。傭兵ギルドに行けば、連絡が付くはずじゃ。その傭兵団は、良くも悪くも金で動く。団員の身請けも応じるはずじゃぞ。」


「分かった。傭兵ギルドに行けばよいのだな。この後、言ってみる。大した情報だ。凛、謝礼の錬金術式を渡してくれ。それから、今日の手土産も渡してくれぬか。次の依頼も受けてもらわねばならぬからな。」


「まず、これがフルーツタルトの錬金術式です。そして、これは、今日のお土産のナビーバ大福とフランジ大福です。試食をお願いします。」


「またしても、新しい甘味なのか。うひょー…。」


 プッ…、笑っちゃいけない。


「では、どうぞ。」


「コホン…。んっんぅん。では、試食させてもらうぞ。」


 一口で大福を口の中に入れてかんだ後、固まった。動かない…。


「ングッ…。むむ。」


 それからゆっくりと噛んでいく。噛みしめている…、いいえ、味合っているんだ。幸せそうに眼がとろんとしている。


「孤児の捜索は、全員任せよ。我以外に相談したりすることを禁じるぞ。お主ら、何というものを持って来たのだ。まさか、このダイフク以外にも甘味の術式を知っていたりするのか?」


「はい。ございます。次に伺います時には、その甘味を持参いたそうと思います。」


「それで、次に捜索するのは何という孤児なのだ?」


「また2名で宜しいですか?」


「かまわぬぞ。しかし、分かっておるのは歳と名前と性別、それに、ボーススタッフの孤児院から来たということだけなのだよな。」


「まあ、そうですが…。」


「まあ良い。次に見つけるのは誰を希望するのだ」


「次は、3年と4ヶ月ほど前に来たはずのアーベと2年8ヶ月くらい前に来たはずのヴィルマだろうな。」


「分かった。アーベとヴィルマであるな。して、次の対価の術式は何の甘味の術式なのだ?」


「昨日持って来たクッキーと今日持って来たフルーツ大福はどちらの方が欲しいですか?」


「しかし…、次も新しい甘味の試食ができるのであろう?くっ…。なっ、ならば。フルーツ大福…、であるな。中のフルーツは色々バリエーションをつけられるのであろう。」


「はい。仰る通りです。では、対価は、フルーツ大福の術式ということで、宜しくお願い致します。」


「今回の調査結果、大変満足しておる。マルヨレイン、次も宜しく頼むぞ。儂らは、今から傭兵ギルドに行ってくる。世話になった。」


「我も次の甘味楽しみにしておるぞ。ん?おい、お主ら、待て!フルーツ大福は、たった1個ずつなのか。それはないであろう。お茶と一緒に楽しむための物を置いていけ!」


 泣きそうな顔で、そう言ってきたけど、ちゃんとおいて行くつもりで、それぞれ5個ずつの10個を準備していた。10個入った箱を手渡したよ。












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