第115話 手土産錬金

「焼きそば麺、完成。うどん麺、完成。サラダ油、完成!ラード、完成。ウスターソース、完成!トマトケチャップ、完成!よし、次は、作るのが難しい奴…。多分。アルケミー・スパゲッティ乾麺。…。…、完成!」


 市場で色々な素材を買って来てもらったからかな。ほとんどの材料が完成できた。次は、錬金術の料理だ。さっき、朝ご飯を食べたばかりだから、もう少しして、作ることにしよう。


「ねえ、サラ、ロジャーはどこに行ったのかな?」


「さあ、昨日の夜も遅かったようですわ。どうなさったのでしょう。」


「昨日、フロルとリンジーが、マルコとクーンを見受けしたことに関係があるのかな。」


「ロジャーが、商会の者たちに後れを取るということは考えられませんわ。でも、これからの退院生の捜索に支障をきたすようなことが起きた可能性はありますわ。」


「僕たちは、待っておくしかないかな。」


「そうですわね。待っておくしかありませんから…。その間に甘味の錬金に挑戦していただけませんか?」


「甘味の錬金…。そうだね。明日は、マルヨレインの所に行かないといけないからね。チョコレートとアイスクリームの錬金に挑戦してみるよ。」


「その…、チョ、チョコレートというのは、甘いのですか?」


「少し苦いけど、とっても甘いと思うよ。」


「ぜ、是非、食べてみたいですわ。」


「そうだね。昨日、カカオに木の実も探してきてくれたから、錬金してみるよ。」


 僕は、チョコレートを錬金してみた。素材は足りているようだ。錬金術式になっているのは市販のミルクチョコレートのようだったけど…。


「アルケミー・チョコレート。」


 できた。成功だ。


「サラ、チョコレート試食してみる?」


「はい。喜んでですわ。」


 チョコレートを一ひとかけサラに手渡して、僕も同じくらいの大きさの欠片を口に放り込んだ。まろやかな甘みとほんの少しの苦みが口の中に広がって行った。美味しい。


「お…、おおお、美味しいですわ。まろやかな甘みと苦みのハーモニー、口から鼻に抜けて行く甘い香り。素晴らしい甘味。生まれて初めて食べる味なのに一度で好きになってしまいましたわ、」


 かなりオーバーな表現だけど美味しかったんだね。良かった。次は、アイスクリームだ。錬金するのは、バニラアイスクリーム。沢山の香辛料や香料を買って来てもらったけど、バニラビーンズなんてものやバニラエッセンスなんてものはなかった。代用品があれば良いんだけど…。


「アルケミー・バニラアイスクリーム。」


 無理か…。やっぱりバニラの代用品がないのかな…。それとも、クリームかな。そうだ。チョコレートができたから、チョコアイスかミルクアイスクリームみたいなバニラ風味じゃないアイスクリームの錬金術式を送ってもらったら良いかな。今晩、手紙を書いてみよう。


「チョコの他に何かできましたか。」


「アイスクリームはできなかった。あんこと求肥を作って大福を作れるようにしてみるね。」


 昨日たくさんの穀物を仕入れてきたからね。もち米みたいな穀物があったら良いんだけど…。


「アルケミー・粒あん。」


 やったね。粒あんができたら、小麦粉もあるからたい焼きだってできる。次は、求肥だ。


「アルケミー・求肥。」


 うぉーっ!できた。でも、この塊だと使いにくいから、シート状にしてみよ。


「アルケミー・求肥シート。」


 折り紙くらいの大きさで、厚みは、5mm程度の求肥シートをイメージして、作り込んでいく。かなり魔力が持って行かれたけど、もしかしたらイメージに沿って作り変えたからかな…。


 でも、できた。甘みの強いフルーツは…。


「ねえ、サラ昨日買ってきた果物の中で、酸味と甘みの両方があるフルーツって何かな?」


「ナビーバの実ですわ。でも、皮を向いたらすぐに悪くなってしまいますわ。魔物系の植物が獲物をおびき寄せるために付ける実ですからとっても美味しいですわよ。」


「そんなのがあるんだね。じゃあ、それで作ってみようかな。」


 僕は、テーブルの上にあんこと求肥、それにナビーバの実を一口大にカットした物を置いた。


「サラ見てて、こんな風に求肥の上にあんこを平たくのばして、そのシートでナビーバの身を包んでみて。こんな風に最後に、ギュッと閉じて出来上がり。初めはあんこを少なめにした方が包みやすいと思うよ。」


「分かりましたわ。作ってみますわ。」


 真剣な顔でサラかナビーバ大福を作っていた。


「甘くていい匂いがしますわ。うーんとですわ。これで出来上がりですわ。」


「みて下さいですわ。サラのナビーバ大福はとっても美しいですわ。」


「そうだね。じゃあ、食べてみようか。」


「はい。頂きますですわ。」


 僕の方が先に一口食べた。うん。食べたことある味。イチゴじゃない。何だろう。キウイーフルーツだ。キウイー大福だ。うん。あんの甘味とキウイーフルーツの酸味がマッチしている。美味しい。


「何ですの。これは、世界に一つだけの味。サラしか知らない味ですわ。もっちりとした皮の部分にも仄かに甘みがあってナビーバの果実の酸味がアンの濃厚な甘みを中和していますわ。」


 まあ、少なくとも僕は知ってたいるけど、この世界では、サラしか食べたことがない味かもしれない。


「他には、このアンと求肥の組み合わせに合いそうな果物ってないかな?」


「森イチゴの実は確実にこのお菓子の中に入れるべきものだと思いますわ。でも、今は、王都でも手に入りませんわ。昨日購入した果物でしたらどうでしょうか…。フランジの実はどうでしょうか…。」


 フランジの実を取り出してカットする。形は西洋梨、ラ・フランスに似ている。ナビーバと同じ要領で求肥とアンで包んでみた。サラも大騒ぎせずに集中して作っている。


「試食させていただきますわ。」


 今度はサラが先に食べた。味わうように静かに食べていた。目が少しうるんでいる。どうしたサラ、そんなうっとりした目で…。


「サラには選ぶことができませんわ。どうして…、全然違う味なのに…。どうしてこんなにおいしいのでしょう。ナビーバとフランジ。両方とも美味しすぎますわ。」


 僕も一口食べてみた。フランジは、食感も西洋梨に似ている気がする。僕は、あんまり食べたことはないし、味はさっぱり覚えていないけど、少しぬるっとした感じの食感。味は、この間地球に帰った時に食べたオレンジを甘くしたような感じだ。確かに酸味がさわやかで、アンによく合う。美味しい。明日は、この二種類を新作お菓子として持って行けば大丈夫かな…。


サラとのお菓子作りと試食会が終わった頃、ロジャーが帰ってきた。


「何かあったの?」


「うぬ。リンジーとフロルが鉱業ギルドで色々やってくれたらしくてな。今まで、商会が雇っていた鉱業ギルドの職員が首になったらしいのだ。その上に損害金と保証料としてその職員は金貨を請求されたらしい。それで、分配金は、儂には入ってこないということだ。」


 リンジーたち、うまくやりすぎたみたいだ。





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