第114話 鉱業ギルド

 <リンジー視点>


 俺たちが、冒険者ギルドの受付に用件を伝えると受付のお姉さんが直ぐに対応してくれた。


「フロルさんとリンジーさん宛ての伝言は、先ほど届きました。伝言を届けた方が先ほどまでいらっしゃったのですが…。あっ、まだ、あちらにいらっしゃいますね。お呼びしましょうか?」


「その前に、その伝言を見せてもらえないか?」


「はい。宜しいですよ。少々お待ちください。」


 受付のお姉さんが俺たちの場所を離れた時、フロルと小声で打ち合わせをした。


「凜が来ても、知らぬふりを続けくれ。鉱業ギルドの連中に仲間がいることを気付かれないようにな。」


「分かっているぞ。鉱業ギルドに連中には、俺たちがクーンとマルコの引受人だということが分かって良いのか?」


「奴ら俺たちを見ていないふりをしているようだけど、視線がこちらにチラチラ向けられているからな。俺たちの顔は知ってるんだと思うぞ。まあ、気配だけは、見失わないようにして、ほうっておこう。」


 フロルは、気配を探るのが上手い。臭いなんかも覚えているようだから、何かのスキルを使っているのかと思うほど敏感で正確だ。知っている気配なら誰が近付いて来ていて誰が離れて行っているのかまで探ることができる。


「お待たせしました。伝言は、こちらになっております。お手紙もついておりますが、自分でお読みになれますか。」


「大丈夫だ。」


 僕たちは、手紙を広げて読んでみた。これで、俺たちの顔を知らない奴でも俺たちがクーンとマルコの引受人だということを確信しただろう。それくらい、受付嬢から渡された伝言を書いた手紙というのは派手な色遣いをした巻物だった。


 書いてあったことは…。


『クーンが自分の持ち物を盗まれたと、同じ鉱夫研修員の数人といざこざを起こし、相手を怪我させた。その研修員は、今日が研修の採集日で、明日から鉱山に入って賃金を貰う予定だった。その治療費と明日からのもらう予定だった賃金一月分を更に支払ってもらいたい。怪我人は二人で、ともに土魔術を使えるを持った者たちだから、一月分の給与は、最低、金貨1枚が確定していた。働けなくなった者たちに保証してもらいたい。なお、この申し出が受け入れなければ、今回の見受けの話はなかったことにしてもらう。更に、怪我によって働くことができない期間が延びた場合、その期間の給与保証も必要になるため、王都から出ることは禁止とさせてもらう。』


「とにかく、二人とその怪我人というのにあってみないことには何とも言えない。急いで鉱業ギルドに行ってみよう。」


 僕は、凜に動かないようにと目で合図を送って大急ぎで冒険者ギルドを出た。冒険者ギルドを出るとしばらくはゆっくりと歩いてギルドの出入り口の方を確認した。鉱業ギルドに方に角を曲がろうとするときにメッセンジャーが大慌てでギルドのドアから飛び出してきた。ぎりぎりのタイミングで僕たちが歩いている方向を確認できたようだったから、角を曲がると直ぐに身体強化をかけて、急ぎ足で鉱業ギルドに向かった。


「冒険者ギルドにいた連中が、こっちに到着するまでまだしばらくかかるぞ。」


「奴らを待つ必要はないだろう。手紙を見たと言って交渉させてもらおう。」


「分かったぞ。それで、どんな交渉をするんだぞ。」


「怪我を治しゃあ、良いんだよな。凛のポーションは俺たち何本持っていると思っているんだ?」


「そう言えば、俺は、10本も預かっていたぞ。そうか。それで、治せばいいんだな。」


「でも、奴が怪我をしたとうそを言っている可能性もあるからな。まあ、その可能性の方が高いと思うんだけど、今回は少し手荒なことをしないといけないかもしれないな。」


「手荒なことって、何をするつもりなんだぞ?」


「もしも、怪我したところが、手か足ならそこを切り落とす。」


「ええええ。…、まあ、凜のポーションを使ったら、切り落として直ぐなら何もなかったみたいにくっつくとは思うけど…。肋骨とかだったらどうするんだぞ。」


「肋骨くらいなら、上から切っても心臓を一突きしない限り大丈夫だ。初めに手足を怪我した奴で試させてその後、同じように切断後に治療するかを決めてもらおう。」


 相手があくどいことをするなら容赦はしない。少々痛い目にあっても自業自得ということだ。僕とフロルは、できるだけ平静を装って鉱業ギルドの受付に並んだ。


「ああ、先ほどいらした冒険者見習の方ですね。研修担当官がお話ししますので、会議室の方においでいただいて宜しいですか?」


「承知した。案内を頼む。」


 僕たちが会議室で待っていると、研修担当官という男がやってきた。さっき、クーンとマルコの引き取り交渉に出てきた人とは違う男だった。


「どうも。鉱夫研修担当のメイノと申します。冒険者として一緒に活動なさろうとしていたらしたのに、このようなこのようなことになって申し訳ないのですが、経緯は、お手紙でお知らせした通りでございまして。」


「そのいざこざの原因という道具の盗難事件はどうなったのですか?」


「それは、解決しております。クーンさんの勘違いだったようでして、盗まれたと言われた道具は、道具置き場に置いてありました。持ち帰り忘れだったのでしょうかねえ。」


「では、その怪我をされたという鉱夫研修員いや、明日から正式鉱夫になる方達でしたね。その方とお会いして怪我の程度を確認したいのですが。」


「怪我の状況と治療でしたら、当ギルドの担当医が行っておりますのでご心配には及びませんよ。適切に治療を行えば、いずれ完治するだろうとお墨付きをもらっております。」


「会わせられないということですか?」


「いえいえ、ご心配して頂かなくても結構だということで、会うことができないという訳ではございません。」


「俺たちは、ダンジョンで一山当てたと申し上げたでしょう。そこでとっても良い物を拾っているので、お会いさせていただければ、その怪我をした方達は、喜ぶことになると思うのですが…。別に、怪我をした方を怪しんだり、責めたりするわけじゃないので安心してください。」


「イヤイヤ、別に会わせられないと言っているわけではございませんよ、では、呼んでまいりますので、少々お待ちください。」


 暫くすると研修担当官に連れられて二人の男が会議室の中に入ってきた。一人は、右手を包帯でぐるぐる巻きにして方からつっていて、もう一人は、足に包帯をグルグル巻きにして松葉づえをつきながら歩いてきた。


「手と足を怪我したのだな。運が良かったな…。それで、お前ら、その怪我以外にどこか悪い所はないか?」


「何言ってるんだ?おめえのお友だちに怪我をさせられた以外に悪い所なんかあるかよ。」


「じゃあ、右手を怪我しているあんたからだ。こっちに来て怪我したところを見せてくれないか?」


「えっ?なんで、医者でもないお前らに、怪我を見せないといけないんだよ!お前らのお仲間が、俺に怪我させたからよ。折角、明日から給料もらって鉱山に潜れるはずだったのに、できなくなったんだぜ。勘弁してほしいぜ、全く。」


「まあ、そう言わずに見せてくれ。ここにあるポーションを使わせてもらおうと思ってな。」


「ポーション…、そんなもん、気休めにしかならねえだろうが。」


「まあ、そう言わずに試してみればいい。フロル、怪我した方の手を持っていてくれないか?」


「アイテテテ…、何しやがるんだ。てめえ。」


「包帯は外していた方が良いぞ。なっ?」


「うん。そうだね。そっちのほうがきれいに治るとおもうよ。ねえ、あんた、本当にその怪我以外に調子悪いところは、ないのか?」


「何回も言わせるな!ねえよ。兎に角、離しやがれ。てめえ。あ痛たたた。」


「そうか。じゃあ、腕だけということで…。エイ!」


『ヒュッ』


 俺は、大剣を一振りして、男の腕を怪我していると言っている場所から切り落とした。


「ひぇーーーーーっ!ぎゃーーーーーっ。」


 切り落とした手は、フロルが持っている。直ぐに、その腕を切り口に押し当ててポーションを振りかける。」


『ボワッ』


 淡い光が傷口から放たれ、傷はみるみる消えて行った。


「どうだ?痛い所はあるか?」


「へっ?」


 男は、キョトンとして腕を見ていた。


「痛いにきまって…、痛い…?痛くない。あれ、俺の腕は切り落とされて、血が出た。血が出ている…。腕を切り落とされた辺りに血が飛び散っていた。」


「ポーションは、半分以上残っているな。どこも悪い所がなければ、飲む必要もないし、足を怪我したあんたにつかおうことにしようかな。」


「俺…、俺の足を切ろうって言うのか。ヒッ…。止めてくれ。もう痛くない。完全に治った。完治した。だから、本当にすまなかった。完治したから、俺の足を切断するのは止めてくれ。頼む…。」


「でも、メイノさんから完治に一月以上かかると言われたんですよ。今、ここでスパッと切ってポーションで完治させた方が安心でしょう。ねえ、メイノさんそれとも、あなたの足の方ですか?全治1カ月以上の怪我をしているのは。」


「いえ、私は、ど、どこも怪我などしておりません…。」


「あれ?変だぞ。さっきまで、ギルドのドクターが診断したって言っていたぞ。あれは、嘘だったのかだぞ。」


「そこの手を治療してあげた兄ちゃん。こびりつかないうちに、床を汚した血を拭いていてくれないか。フロル、水桶と雑巾を出してあげてくれ。水も頼む。」


「分かったぞ。」


 フロルが床掃除の道具を出してあげている間に俺は、メイノさんに質問を続けた。


「もう一度聞く。怪我の件は、お前たちの企みなのか?それとも、ヴィルケス商会からの指示なのか?どうなんだ?」


 メイノは口を閉ざし何もしゃべらない。


「魔術契約か何かで縛られているのか…。ギルマスに報告する。ギルマスもこの企みの片棒を担いでいるのか?」


 メイノはフルフルと首を横に振った。しょうがない。鉱業ギルドのギルマスに報告してしりぬぐいをしてもらうしかないか…。


「メイノ、お前、これまでもこんなことをやっていたのか?いや、聞き方を変えよう。これまで、ボーススタッフから来た孤児たちをこのギルドに雇ったことはあるのか?」


「は…はい。数人、ボーススタッフの孤児を受け入れたことはあるます。」


「では、今もその孤児たちは、この鉱業ギルドにいるのか?」


「は、はい?い、いや、おりません。全員、このギルドを辞めております。」


「その孤児たちは、どこに行った?」


 やっぱり、口を閉ざしてしまった。これ以上は無理なようだ。後は、ギルドマスターに任せるしかないか…。


 俺たちは、無事、クーンとマルコを引き取り、ついでに治療代と迷惑料としてギルマスから金貨8枚を受け取って鉱業ギルドを後にした。ギルドの外には、数人、多分ヴィルケス商会に雇われた男たちと思うけど、人相の悪い人たちの出迎えがあった。大急ぎで王都の外に出て、距離を少し離した後、マウンテンバイクを使って逃走した。


「フロル、追っ手は?」


「大丈夫。誰もついて来ていないみたいだ。」

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