第113話 クーンとマルコの王都脱出

 フロルとリンジーが帰ってきたのは、昼3つの鐘が鳴った後だった。二人は、クーンとマルコが購入した道具の代金を払ったり、借りていたお金の3日分の利子と手数料を払わされたりしたそうだ。全部で金貨4枚。借りた金の倍の金額を支払ったことになる。


 クーンとマルコは、一緒に研修を受けた仲間に分かれたり、ほんの少しの荷物を取りに行ったりする為に一度宿舎に戻った。リンジーとフロルがいる間は、特に引き止められたり、ギルドを出るのを邪魔されたりすることはなかったようだけど、まだ、安心はできない。今の所、円満退所だ。


 二人の帰りがあんまり遅い為、僕とサラで今晩の夕食にできそうな串焼きやパン。野菜の煮込みや焼き菓子、パイ包みなんかを買ってきてあげていた。何事もなければ、この後、冒険者ギルドに行ってクーンとマルコと落ち合って、直ぐに王都を出発できる。


 フロルとリンジーは、宿に戻って状況を伝えた後、今晩からの料理のことを聞いて少しがっかりていたけど、間を置かずに、冒険者ギルドに向かった。フロルとリンジーが宿を出た後、僕は一人で冒険者ギルドに向かった。二人が無事にクーンとマルコを迎えることができたかを確認するためだ。


 離れた場所からフロルとリンジーを見ていると二人は急に慌てだした。大急ぎで冒険者ギルドを出ようとしたけど、僕には、気付かれないように、目で合図を送ってきた。僕に声をかけてこないと言うことは、僕がいることが他の人に知れるとまずいことがあるということかな…。不都合なことが何か起こったんだと思う。


 僕は、直ぐには、二人を追いかけずに少しの間ギルド内で気配を隠して動かなかった。フロルたちが出て行ってほんの少しして3人の少し人相が悪い男たちがキョロキョロと回を見回しながら冒険者ギルドを出て行った。やっぱり、フロルたちを見張っていたようだ。


 男たちを確認した後、僕は、ロジャーにこの時の様子を知らせる為に宿屋に戻ることにした。周りには十分気を付けたし、何度もサーチで後をつけている人間がいないかも確認した。


「ロジャー、マルコとクーンの二人は、まだ、鉱業ギルドを抜けることができてないみたい。なんか、フロルとリンジーが慌てて冒険者ギルドを出て行って、その後を人相の悪い3人組が付けて行った。」


「そりゃあ、リンジーたちに仲間がいるかどうかを確認しようとする者か、あるいは、リンジーたちを襲う魂胆がある者か、また、あるいは、その両方かだろうな。リンジーたちに仲間がおらねば襲って更に金を奪う魂胆なのではないか。」


「それなら、その3人組もマルコとクーンにお金を貸した商会の仲間なのかな。」


「それは、どうかな。鉱業ギルドで働く者たちは、荒くれ者が多いからな。中には、質が悪い者たちもおるであろうよ。しかし、全員が法に反した行いをする者ばかりという訳ではないがな。」


「それで、どうしたら良いかな?助けに行く?」


「うむ…。お主たちは、宿に残っておれ。儂が気配を消してついて行こう。リンジーたちとて、お主らと同じ冒険者なのだ。荒くれ者数人相手では怪我もせぬだろうよ。」


 そう言うと、顔がはっきりと見えない目立たない服に着替えて部屋を出て行った。


 30分ほどして服が乱れた様子もなくロジャーは戻ってきた。


「どうだった?」


「先ほど、リンジーたちは王門を出た。しつこく追ってくる者がいたようだが、門を出て、物陰に入ると直ぐにマウンテンバイクに乗って王都を離れたようだったからな。心配はいらぬと思うぞ。」


「よかった。それなら、鉱業ギルドの訓練のことや借金のことは後で聞かないといけないんだね。」


「そうだな。最終的にクーンとマルコが支払った金額がいくらになったのかも後ほどわかるであろう。」


「二人に支払った金額が分かったら、これからのことに何か役に立つの?」


「先輩退院生の引き取りの金額がおよそ分かるのではないかと思うぞ。この数日で借りたお金がどの位になったのかとその利子にいくらくらいとられたのかで予測が付くであろうよ。」


「そうなんだ。そんなに増えてなければ良いけどね。」


「うむ。しかし、金だけの問題ではない。待遇などがどうであったかも心配だな。」


「そうだね。先輩たちは、王都に来てもう何年も働かせられているのだからね。ひどい待遇だったら病気になっていかもしれないものね。」


「よほどのことがない限り、働き手をそう簡単につぶすような真似はせぬとは思うが、果たしてどうなのかは、全く分からぬからな。」


「後、2日したら、王都の外に出ても良くなるから、凜とサラで確認して来てくれ。マルヨレインの所に行って退院生の情報を聞くまでは、迂闊に王都の外に出て、何かあったら困るからのう。」


「分かっていますわ。ベンテお兄様とヴィル姉様の居所をお聞きするまでは、十分気をつけますわ。」


「それじゃあ、今日できること、料理の錬金術式のリクエストを書いておこうかな…。」


(ええっと…、まず、焼きそば麺、ついでにうどん麺、串揚げ様の菜種油とごま油、それにラード。ウスターソースは必須だよね。それからピザも頼んでみよう。スパゲティミートソースなんかどうかな。スパゲッティナポリタンもいいな。)


 僕は、料理の材料と料理の錬金術式のリクエストを書いて、アイテムボックスにコピーした。もしも、リクエストに応えてくれたら、明日素材を買いに行って、錬金してみないといけない。


 夕食は、ロジャーは、一人で食べると言って外に出て行き、僕たちは宿屋の食堂で食べた。もしかしたら、ロジャーは、情報収集のために酒場かどこかに行っているのかもしれない。



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