第110話 お風呂と脱出計画

 宿屋に戻って部屋の隅にバスタブを置いてみた。お湯がこぼれないように気を付けて給湯の魔道具からお湯を注ぐ。この宿には風呂はない。部屋に風呂ではなくてお湯で身体を拭いたり洗ったりすることができる場所は作ってある。お湯もかなりたくさん準備してくれる。だけど、バスタブはないし、バスタブを入れることができるほどのスペースもない。だから、部屋のベッドを収納してバスタブを置いた。久しぶりの風呂だ。僕は、そんなに風呂好きという訳ではなかったけど、確かに、入院中も退院間近の風呂は嬉しかった気がする。


 湯舟にお湯を貯めてフロルと僕、リンジーで順番に風呂に入った。気持ちよかった。ロジャーとサラにも一応声をかけた。サラは、大喜びで風呂に入るといって僕たちの部屋に来た。ロジャーはスクロールで十分だそうだ。


 サラがお風呂に入っている間、僕たちはロジャーの部屋でクーンとマルコたちをどうやって逃亡させるかの作戦会議を行うことにした。


「2日後、マルコとクーンが戻ってくるはずだ。それでフロルとリンジーには、二人を迎えに行って欲しい。」


「何と言って迎えに行くんだぞ。それに、その時にお金を請求されたら、何と言ってお金を手に入れたと言えば良いんだぞ。」


「金の出どころなど言う必要はない。お主が支払うことができれば、雇い主はとやかく言うことはないはずだ。しつこく聞かれるようならコツコツ依頼をこなして溜めた物だと答えておけ。」


「でも、僕が一緒じゃないとコテージを建てることができないかもしれないよ。」


「フロルはコテージをストレージに収納して、地下室用の穴を作った後、その中に設置することはできぬのか?」


「今日の練習で穴を掘ることはできるようになったけど、ストレージから基礎の部分を一旦取り出したり、取り出した基礎を元の場所に戻したり、穴にぴったり合わせて建てたりすることは練習していないぞ。」


「では、明日は、リンジーとサラで王都を脱出した後の食料の買い出しに行き、午前中に凜とフロルはコテージのセットの練習に行ってくれぬか?3日後のマルヨレインの店へは、凜を連れて行かねばならぬ。それまでは、王都を離れさせるわけにはならぬのだ。」


「師匠、頑張ってみるけど、もしも出来なかったら、コテージを建てる時だけ凜を連れて行かせて欲しいぞ。」


「うむ。それは何とかしよう。しかし、できれば、凜がクーンとルカスと一緒にいる所を見せたくないのだ。」


「わかった。精一杯、頑張る。」


「では、リンジー、サラと一緒に買い込んでくる食料についてだが、小麦粉や干し肉などの保存のきく食料と果物などで何とかなると思うか?」


「俺たちだけで何日位コテージで過ごさないといけないんだ?」


「短くて6日になるかのう。早ければその位にシモンたちとテラたちが脱出してくる。」


「長かったらそれから3日後くらいか?」


「そうだのう。脱出の機会がなかなか来なければ、もっと後になる可能性もある。」


「テラとリニは、比較的自由な時間があるようだが、傭兵や衛兵として雇われているシモンたちは、自由な時間を作ることが難しいようだからのう。いざとなれば、凜たちに迎えを頼まねばならぬかもしれん。」


「何と言って迎えに行くの?」


「そのころには、先輩退院生の居所もどのような経緯でそこに連れていかれたのかも分かっておるはずだからな。その経緯で対応を変えた方が良いのかもしれぬが…、凜は、サラと一緒に王都の側のダンジョンに潜ってみるか。」


「どうして?」


「ダンジョンなら一攫千金が夢ではない。そこで高級ポーションを10本でも手に入れて見よ。それだけで金貨100枚程の稼ぎになるであろう。」


「そうか。ダンジョンでのドロップ品なら調剤ギルドに高級ポーションを収めても怪しまれないからだね。」


「その通り。大金が手に入ったから、パーティーを組むためにシモンたちを迎えに来たことにすればよい。」


「その後はどうするんだぞ?ボーススタッフにまっすぐ帰るのかだぞ。」


「できれば、まっすぐ帰りたいと思うが、お主たちはどうだ?」


「他の国に行くって言うのはどうだ?」


「どうして?サラはそんなの嫌だよ。チビたちとお別れするのは絶対嫌。」


「儂は、真直ぐ町に帰ろうと思っておる。しかし、お主らの実力を上げるため、ダンジョンを回っていくのも面白いとは思うがのう。」


「ダンジョン…。どこのダンジョンに回るのですか。サラは、ダンジョンに行くのは賛成ですわ。」


「サラ、何で、そんなに話が変わるんだ!俺は、外国に行きたいのは、成人の儀を受けたいのもあるけど、色々なダンジョンなんかに行きたいからなんだぞ。」


「でも、海外に行ったらチビたちに会えなくなりますわ。ダンジョンを回ってもお家は変わらないですよ。チビたちには会えるのですわ。それは、とっても大事なことですわ。」


「サラの判断基準ってチビたちと会えるかどうかなのか?」


「さっきも言いましたわ、サラたちの家族は、あそこにいるのですわ。」


「うむ。分かった。サラ、お主が何を大切にしたいかは良く分かったぞ。サラが大切にしたい物は、儂も大切だと思う。だから、あそこに残っている者たちの幸せを守れるように力をつけるのだぞ。」


「勿論ですわ。その為にダンジョンに行かないといけないと思っているのですわ。」


「それで、これから気を付けないといけないことは、脱出する時に逃亡罪や金銭的なトラブルなどを抱えたままにしないことだ。悪いことをしておらぬのに犯罪者として追われるようなことになれば、これからの活動に差し支えるからな。そうならぬための資金は稼いでおる。少々金が多くかかってもかまわぬ。しかし、どうやって孤児たちを縛っておるのかその仕組みを確認してそれをさせないための手立ては考えねばならぬのだ。普通なら、王都に働きに出ても職場で当たり前に働けば借金などできぬからな。」


「シモンたちから聞いた所だと、装備や道具を買わされているようだけど、いずれ必要なものだし、借金をして少しくらい早く購入しても当たり前の金利のようであるからそんなに大きな借金になるとは思えぬ。」


「テラたちは、どうなのですわ。」


「あれ?そう言えば、どうしてサラが居るの」


「どうしてってお風呂が終わったからですわ。」


「鍵がかかっていただろう?」


「開いていましたわよ。だからサラが居るのですわ。」


「それで、鍵は締めたか?」


「はい。締めましたわ。」


「お主ら、鍵も閉めずに入って来たのか…。もう少し用心せねばならぬぞ。」


「「「す、すみません。」」」


「では、話の続きだ。全員を回収したら、先輩退院生も引き取り一旦ボーススタッフに戻ることにしようかのう。」


「でも、先輩退院生の引き取りにいくらかかるかわかりませんよ。」


「そうだのう。しかし、金がいくらかかっても引き取るぞ。退院生たちをボーススタッフに連れて行って神父と話をさせぬとな。そして、神父には、孤児院から退場してもらう。そうならぬと言うのなら、領主も同じ穴の狢ということだな。」


 孤児院の管理と運営は教会が行っているが、お金を出しているのは領主様だそうだ。つまり、責任者はお金を出している領主になると言うことだ。

 領主の力を借りて、神父を追い詰め、今まで違法に送り出したのならその退院生たちの行方を探させる。それが、次の手だということだった。


「それなら、テラ達が戻ってきたら、大体全てのカラクリが分かるの?」


いや、その為には、マルヨレインの働きが重要になる。神父にお金が回っていく仕組みは、今回のテラたちからの報告で一部が分かるであるだろうが、その全てが明らかになるほどうまくいくとは思えぬ。」


「では、明日やることをもう一度確認して今日は寝ることにする。サラとリンジーは、食料の買い出し。マジックバッグを持って行くことを忘れぬようにな。フロルと凜はもう一度コテージを建てる練習に行ってくれ。明日すべての準備を終わらせて退院生たちを救出するぞ。」


「はい。」


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