第105話 脱出計画

 シモンさんたちにも着替えとスクロールと預かっていたお金、銀貨6枚とシモンさんの薬を渡したいと言ってみたが、やっぱり直ぐには会えないという返事だった。シモンさんは、護衛兵団に仮入隊させられているらしい。クーンさんとマルコさんは土属性の魔術を生かすために鉱夫としての訓練を受けている最中なのだそうだ。


 シモンさんだけは、訓練を抜けるためにいくらかのお金を払えば会うことができるらしいのだけれど、クーンさんとマルコさんは、王都から少し離れた場所で訓練しているから3日後くらいしか帰ってこれないだろうということだった。とりあえず、シモンさんには薬を渡したいから、お金を払って会う時間を作ってもらって良いかを確認して欲しいと伝えたらしい。連絡先は、僕と同じく冒険者ギルドだ。


 フロルは戻って来てそのことを報告した後、冒険者ギルドに向かった。お金を払うかどうかをシモンに判断させるんじゃなくて払って良いかを聞く形にしたから割とすぐに返事が来るんじゃないかと予想してだ。


 2時間程経ってフロルが戻ってきた。


「シモンも他の人と同じだった。立派な装備を買わされていたよ。訓練期間は、1カ月だけど、宿舎生活で外出は許可制だということだった。訓練期間中は、外出は禁止、休暇もないということだったよ。」


「では、9日後の合流地点は伝えたのだな。」


「はい。伝えました。それから、マジックポーチと金貨30枚は渡しています。それに、シモンより前に連れてこられた人がいないか調べるように伝えています。」


 これで、3日後クーンさんとマルコさんに会うことができれば、王都脱出の準備ができることになる。まあ、できれば、お金を支払ってでも、円満帰還をしたいのだけど、難しいかな…。脱走者や犯罪者として追われるような形では王都を出たくない。


「クーンとマルコは、3日後だな。奴らは鉱山に入る前に引き取らねばならぬな。鉱山での仕事は危なすぎる上に、どんなことが起こっても真相を突き止めることができぬ場所だからな。」


「引き取るってどうやって?」


「お主たちが引き取ってくるのだ。金を要求されるだろうが、言い値で支払って良い。その内いくらかが儂に入ってくるはずだ。支払った金額も入ってくる金額も分かる。分かりやすいであろう。いくら入るかで、何人位関わっているかが予想できる。今分かっているのは、3者。儂と商会、それに雇い入れた所だ。儂に、3分の1から4分の1が入ればその3者の可能性が高くなる。それより多ければ雇い主は関わっておらぬと思って良いかもしれぬな。」


「クーンたちは引き取りに行くんだね。それは、誰が行くの?」


「リンジーとフロルで良いであろう。フロルのストレージに金貨を300枚程入れておくのだ。違約金を含めても金貨100枚などと言うばかげた金額を請求するとは思えぬからな。請求されても数十枚であろう。」


「僕たちのギルドカードにも金貨1000枚くらいは溜まっているからね。」


「その金貨は、儂が出す。儂の依頼だからな。まあ、いくらかは帰ってくるのだ。そのくらいの金貨は全く問題ない。」


「ええっ。でも、今回の依頼は、俺たちの孤児院のことが発端だったんだから俺たちも出したい。」


「しかし、今回の依頼、凜もシモンたちも関係はないであろう?それなのにパーティーの金を出すのは違うのではないか?」


「ええっ!それって僕がいるからパーティーのお金が出せないって言うの?それは、ないよ。僕はテラたちのことは解決したい。」


「しかし、これは、儂の依頼なのだ。そのけじめはつけねばならぬ。だから儂が出す。それは、依頼を出した物の責任なのだ。お前たち、そのことは、分かるな。」


「う、うん。分かる。でも、僕たちも何かしたいよ。」


「お前たちもそれぞれの役目を果たしているではないか。それに、これからお前たちに頼まねばならないこともあるのだ。そう、焦るではない。」


「分かりましたわ。私たちにできることを教えて欲しいですわ。」


「まあ、今の所何もない。もう少ししたら、コテージを建てに行ってできれば、そこで待っていて欲しい。王都を出た者たちが隠れておく場所にしておきたいのだ。逃げてきたらすぐに金を払って追手がかからぬようにせねばならぬ。コテージで待機するのは、凜とフロルにしてもらうのう。リンジーとサラは、リニとテラに連絡を取ってもらう必要がある。3日後には、凜とフロルは、クーンとマルコと一緒にフースとルカスと落ち合う場所に向かって欲しい。食料はたっぷり持って行くのだぞ。明日明後日で食料を買い込んでおいてくれ。」


「どうして、そんなに早く出ないといけないの?」


「金を払って二人をもらい受けたのに王都にいれば警戒される気がしてな。できれば、お前たち二人にとってもらい受けた二人、クーンとマルコが特別で、4人で王都を出たと思わせたいのだ。」


「でも、誰かにつけられたらどうするの?」


「凛。お主は良い物を持っておるであろう。お前のマウンテンバイクを使えば、気付かれず後をつけることなどできはせぬ。クーンとマルコの二人であれば、ほんの少しでも練習すれば直ぐに乗ることができるようになるはずだ。」


「なるほど、マウンテンバイクで、落ち合う場所まで行って痕跡を消してコテージに隠れれば良いんだね。」


「まあ、マウンテンバイクで移動を始めた時点で追跡をあきらめると思うがな。」


「儂たちは、全員分の脱出の後始末をして王都を出ることにする。今回の調査は、それで分かったところまでだ。あまりことを急がぬようにする。」


「急がない?」


「急がぬ。しかし、できることはする。それで、今晩は、マルヨレインを探しに行こうと思う。」


 そう言うと、ロジャーは僕たちに夜出かけることを伝えてきた。マルヨレインさんが現れるダヘラートという店に行くそうだ。


「凜。お主は、マウンテンバイクと作れるスクロールを全部作ってくれぬか?」


「マルヨレインさんの所に持って行くの?」


「そうだ。だから最高のものを作ってくれ。」



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