第104話 フースとルカス

「ロジャー、お金を渡すって言ったら、そのお金を使わないと会えないって変だよね。」


「作為を感じるな。それだけお金を渡したくないのであろう。フースとルカスが何と答えるかだな。本人たちも一度帰ってくるはずだったのが帰ってくることができなかったのだ。多分お金を払っても会う方を選ぶとは思うのだがな。それで、会うことができるようになったら、どのようにして連絡が来るのだ?」


「冒険者ギルドに連絡をしてもらえるということでした。」


「そうか。では明日からしばらくは、一日に何度も冒険者ギルドに行かねばならぬな?」


「うん。今日もこの後、冒険者ギルドに行ってみるけど、まだ連絡が来ていなかったらマルヨレインさんの店を探しに行ってみようかな。その時は、宿に戻ってくるから一緒に行ってくれる?」


「おう、そうであった。マルヨレインについて情報を得たのであった。その店はどうやらやみくもに探し回っても見つからぬようだ。店主が現れるのを待つしかないということであったぞ。マルヨレインの店のことは、フース達のことが片付いたらゆっくり話してやる。」


「分かった。じゃあ、フース達の情報を掴んでくる。行ってきます。」


 ギルドに行くと商会から連絡が来ていた。訓練が一段落する午後の2の鐘が鳴った後に王都西門横にある魔術訓練所に行けば会えるそうだ。2の鐘まではもう30分もない。急いでいかないと間に合わなくなる。


 僕は、冒険者ギルドを出るとマウンテンバイクを出してまたがる。良かった、テラに練習させてもらっていて。冒険者ギルドから西門までは、10km以上ある。馬車で急いで行ってもぎりぎりの距離だ。


 マウンテンバイクに乗って身体強化を使って全速で走れば5分もかからないと思うけど、タイヤが持たない。だから、身体強化無しの全速力位のスピードで走った。それでも、時速30kmから40kmは軽く出ていると思う。冒険者ギルドを出て15分はかかっていないはずだ。西門に着くと、大急ぎで自転車を収納して、西門横の魔術訓練所という場所に走った。魔術訓練所は西門を出てすぐのところにあった。


 頑丈な壁に囲まれている石造りの建物が魔術訓練所なんだそうだ。魔術の失敗などがあっても一般人が巻き込まれないように王都の外に作られているということだった。


 受付に名前を伝えて、しばらく待っているとフースとルカスがやってきた。


「凜さん、わざわざすみません。あっ、こんな所で立ち話も何なんで、部屋を準備してもらいました。着いて来て下さい。」


 二人ともかなり立派な防具を付けている。多分、買わされたんだろう。初めに何かしらお金を使わされている。今までの4人は全員だ。


「フースさん、その防具、買わされたんですか?」


「はい。そうなんです。大剣も買わされました。」


「一体いくら使わされたですか?」


「正確な金額は分かりませんが、金貨数枚は使っていると思います。ロジャーさんに返す金貨はもうなくなっているんじゃないでしょうか。お金を返すために金貨2枚も借りたのに…。」


「それなのにどうやってロジャーは…。あっ、まず着替えとスクロールを渡すね。それとマジックポーチ。」


 僕は、フースさんたちに近づくように合図し、小さな声で二人に伝えた。


「マジックポーチの中には金貨を30枚ずつ入れています。何かあった時、使って下さい。」


「分かりました。ありがとうございます。でも、今の所、まっとうな訓練を受けているだけです。それから、休みは訓練が終わるまでないそうです。休みを与えると逃亡する者が出てくるからと言われました。」


「そうなんですね。では、訓練期間はどの位なんでしょう?」


「3カ月だそうです。」


「長いですね。」


「そうですね。でも、もう少し探ってみます。他にも俺たちみたいな奴がいて、近いうちに訓練が終わるかもしれません。」


「分かりました。宜しくお願いします。」


「それから、多分次に会うのは、王都の外になると思うと伝えてくれませんか。場所は、護衛依頼中の最後の宿泊場所にします。」


「了解です。そのタイミングは分かりませんよね。」


「はい。分かりません。でも、10日以内だと思います。」


「では、9日後に。その前に必要な物はありますか?」


「もしできるならで良いのですが、数日分の食料をその場所に隠しておいてもらえないでしょうか?」


「了解です。あの辺りに皆さんのコテージを置いておきます。勿論結界を張ってです。結界の解除は大丈夫ですよね。」


「大丈夫です。宜しくお願いします。」


 フースとルカスとの面会は10分程で終わった。帰りはマウンテンバイクで南門の方に回ってそこから入った。後をつけてくる者はいなかったと思う。それから、一度錬金術師ギルドに寄って魔石を様々な物質に混ぜ込んだり合成する錬金術式はないか調べてもらった。魔道具を作る時に使うことがあるらしく、魔石を様々な物質に混ぜ込む錬金術式があった。マテリエ・フュージオニス。金貨1枚だった。何に使いたいのかしつこく聞かれたけど、料理に伝いたいとごまかして外に出た。この呪文でクッキーの材料を混ぜたら一生懸命こねなくてもよくなるかもしれない。でも、錬金術で作っている時は材料を捏ねたり、混ぜたりしていない。粉なんかの材料をそろえたら焼き上がったクッキーが出て来ていた。怪しまれたかな…。まあ、良いか…。


 宿に戻る前に早速シリコンゴムと魔石をマテリエ・フュージニオスの錬金術式で合成してみた。少し黒っぽいゴムになったけど触った感じはほとんど変わっていない。宿に戻ってリニに…、リニはいなかった…。リニが帰って来たら、タイヤの部分を作ってもらうおう。


 錬金術ギルドの側に誰もいないことを確認して宿に戻った。シモンさんたちに着替えとポーションを届けるのは、明日になるかな…。





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