第102話 ロジャーの企み
ロジャーは、スラム街入り口近くにある酒場。ダヘラートに来ている。「夜明け前」という意味だそうだ。薄暗い店内。掃除は行き届いておらず、ガラの悪い客が多い。
「お客さん、どなたかお待ちですか?」
ロジャーは、カウンターに座って酒を1杯注文しただけだ。その一杯の酒にも口を付けていなかった。
「そんなところだ。そうだ。お主に聞きたいことがあるのだが、お主は、王都の店に詳しいか?」
「俺ですかい?王都にゃ生まれた時から住んでいますからね。詳しいと言えば詳しいでしょうが…。なんという店何ですかい?」
「マルヨレインという者が店主を務め居てる店なのだが、色々な品を売っているようなのだが、どこにあるのかさっぱりわからないのだ。」
「えっ、あのばイヤイヤ、マルヨレインさんの店を探しおいでなんですか…。そりゃあ、大変ですね。でも、その店主でしたら、この店にも時々おいでですよ。店の場所は存じませんが、ここに通って頂いたらお会いになれるんじゃないでしょうかね。」
「そうなのか。ここに現れると…。まあ、運が良ければ近々会えるであろうな。」
「他にお聞きになりたいことなどございすか?少々お金が必要なこともございますが、知っていることならなんでもお教えいたしますぜ。」
「否、特にないな。マルヨレインの店もここに来る前の町で教えてもらっただけだからな。面白い物を売っているから寄ってみたら良いとな。」
「そうですか。知りたいことができたらいつでもお声かけ下さい。」
「うむ。」
暫くの間は、一人でカウンターに座っていたが、近づいてくる者はいなかった。
(ヴィルケス商会の男からは、目印などは聞いておらぬからな。もう少し待つか…。)
3時間程経ったかと思う頃、酒に酔った男たちが大声で笑い、怒鳴り合い出した頃、深夜になったことを示す今夜の最後の鐘が鳴った後、一人の男がロジャーの隣に座った。
ロジャーのグラスの横に紙袋が置かれた。
「こっちは見ないでくれ。今回の配当金だ。次の配当は1年後。この店に来る前に商会に顔を見せてくれ。できれば、次の商品を準備してもらえると配当が大きくなる。」
それだけ言うと、注文した1杯の酒を飲み干し、店を出て行った。ロジャーは、袋を受け取るとストレージに収納し、その後を追うように店を出た。
(あの男、儂に会ったことがあったか…。商隊の中には…。御者か…。であれば、儂の顔を見たことがあるはず。もし、御者の男であったのなら戻る場所は一つ。では何故、儂との接触を他の者に気取られぬようにせねばならなかった。それ以上に自らの正体を隠すような行動をしたのだ。)
男は、商店街に向かおうとはしなかった。到着したのは、貴族街の大きな屋敷だ。公爵家…。
(何故、御者が公爵家なぞに入っていくのだ。それに今回、儂が受け取ったのは配当金と言っていた。代金ではなく配当金。それも分からぬ。)
ロジャーは、暫くその屋敷の周りを探っていたが、何の動きもないことを確認すると門が見え、身を隠せる場所を探し、そこに身をかがめ気配を消した。
深夜、ロジャーに金を渡した男が門を出てきた。門を出る前にも人目がないことを確認していたようだった。人目がないことを確認すると気配を消し、暗闇に溶けるように門の前から去っていった。
次に男が向かったのは商店街の方向だった。今回こそヴィルケス商会に向かうのか。
(さて、いくらか関係者を知ることができた。テラたちの救出に向かうとするかのう。)
ロジャーは、男が、店の中に入ったのを確認すると縮地を使って壁に飛び上がると身をかがめた。
(近くに人の気配はない。)
ロジャーは、壁から飛び降りると気配を探りながら、商会の中を探っていった。
(中に入る必要はないか…。商会の中に多くの者が集められているような場所はないようだ。いるとしたら…、地下か…。母屋から離れた場所と思った方が良いだろう。)
それでも、気配を探りながら屋敷の外を回っていく。まだ、それらしい気配は見つからなかった。
(契約に怪しい所があれば、逃亡してい来るようにと伝えていた。逃亡しようとしてできない状況にあったのだとすれば、今でもあきらめず逃亡しようとしているはず、その気配がない。見つからない。どのような場所に集められているというのだ。)
商会の敷地は全て探っていたが、テラたちの気配を見つけることはできなかった。
(商会内に逃亡を図ろうとしている者たちはおらぬようだ。契約に怪しい所はなかったということか。それとも、既にどこかこの商会以外の場所に移されているということか…。)
ロジャーは明け方近くまで、商会の周辺を探っていたが、テラたちは見つけることができなかった。
(後は、夜が明けてだな。王都からは出ていない。怪しい契約ではなかったという可能性もある。もう少し様子を見ることにするか。)
ロジャーは、ヴィルケス商会から出ると、気配を消して商店街を後にした。
(宿に戻って少し休むことにするか。)
宿屋の入り口は閉まっていたが、宿を出る前に、部屋の窓の鍵は空けておいた。3階の部屋だし、何も置いてはいない。侵入経路のない窓だ。
「縮地。」
ロジャーは、虚空を蹴り3階の窓まで駆け上った。窓枠に足を掛けると音がしないように静かに窓を開け、部屋の中に入った。
「さて、ひと眠りするか。」
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