第101話 ちぐはぐ

 依頼終了。

 無事、王都に着くことができた。僕たちが運んできた燃料の移送量は、メティスの福音が金貨20枚、僕たちは金貨70枚だった。王都では一体いくらでこの燃料は販売されているのだろう。まあ、運んだ量が商隊よりも多いくらいだったから、その割には少ないかもしれない。


 計算したら、一束当たり鉄貨5枚の輸送料になった。まあ、燃料一束分に当たる薪200本の輸送量が鉄貨5枚って言われたら安いかもしれない。でも、運ぶだけでそれだけ貰えるのは割が良すぎるような気がするのは、アイテムボックスがあるからなんだろうか…。


「これで今回の護衛任務は終了だ。冒険者ギルドに寄って依頼料を受け取ってくれ。連絡先はギルドに伝えておいてくれよ。商隊の帰りも護衛を頼むところがあるかもしれないからな。」


『はい。』


 僕たちはそのまま冒険者ギルドに寄って、依頼料と輸送料などを全てパーティー用のギルドカードに入金した。手持ちには銀貨を数枚だけにしておく。シモンさんたちのギルドカードは僕が預かることになった。


「いいな。今から行くところは、まともな取引をしてる商人とは思わぬように。特にテラ、お主は少しでも危険を感じたら逃げるのだぞ。」


「分かりました。気をつけます。」


「その商家は、ヴィルケス商会という看板を掲げているらしい。商店街の奥にあるらしいのだが、分かりにくい場所だと言っておったな。」


「その商会は何の商いをしているのですか?」


「金貸しと職業紹介らしいのだが、お金を借りる時、紹介された職場との契約はしっかりと読むようにするのだ。少しでも変なことが書いてあるときは、偽名のサインをしても良い。魔術契約の場合はそれでは契約魔術が発生しないがそれはそれでよい。」


「それでは、ロジャー様の依頼を達成できないのではないですか?」


「案ずるでない。名前の文字をしっかりと覚えていないからもう一度練習してくるとでも言って帰って来るがよい。その契約の内容が分かるだけでも大きな進歩だ。その言い訳をする為に間違った文字で偽の名前をサインするのだぞ。」


「では、私の偽名はステラにします。綴りはシテラにします。」


「俺たちは、何って言う名前にしたらいいんでしょうか。」


「シモンは、シーメンで、綴りはシーネンで良いか?」


 それから、ロジャーはリニとフース達にも偽名と間違った綴りを考えてやった。


「ヴィルケス商会を探して、儂に紹介されたというんだぞ。そして、それぞれに昨日伝えた金を借りるのだ。それから、職を紹介してもらう約束をする。今日行うことはそれだけだ。それまで出来たら、儂に金を返すと言って一度戻ってくるのだ。契約書はしっかり読むのだぞ。そして、覚えて来い。」


『はい。』


 そう言うと、テラたちはギルドの会議室を出て行った。僕たちは、ギルドに来る前に取っていた宿に向かう。


「ロジャー、王都にある道具屋のマルヨレインさんの店に行ってみない?」


「ん?どうしてだ。」


「錬金術師ギルドで、そこの店主のマルヨレインさんが、人探しから闇の商売の情報まで色々知っていると教えてくれたんだ。」


「マルヨレインの店か?その店は何を売っているんだ。」


「さあ?魔道具かな…?情報が欲しかったら珍しい手土産を持って行かないといけないらしいんだ。」


「それなら、今回の旅で作ることができるようになったマウンテンバイクを持って行ったらどうだ?錬金術式も持っておるであろう。」


「マルヨレインさんって錬金術師なのかな?」


「それは分からぬな。しかし、手土産が大事って、どんな主人なのだ。マルヨレインと言うからには女性なのだよな。凜は、甘味を錬金することができたな。それなら、甘味とその錬金術式を持って行っても良いかもしれぬな。」


「ええ?どっちを持って行ったら良いんですか?マウンテンバイク?お菓子ですか?」


「お菓子を持って行って、反応を見てだな。もっと何かを欲しそうだったらマウンテンバイクを見せると言う流れだな。」


「じゃあ、一緒に探してくれる?」


「探してみるか。マルヨレインの店だな。」


 テラたちがヴィルケス商会から帰ってくる前にマルヨレインの店を見つけようと商店街のあちこちを歩き回ったのだけど見つけることはできなかった。日が傾きかけた頃、諦めて宿に戻った。明日は、冒険者ギルドに聞いてみるか。


「流石に王都って大きいね。お店は沢山あるし、商店街もいくつもある。その中から一軒の商店を探すのがこんなに大変だってこと知らなかったよ。」


「そうだな。大きな都には、多くの人が住んでおるからな。まあ、時間はある。同じことをテラたちも調べておるのだ。焦らずに探していこうではないか。」


 宿に帰ったけど、テラたちは戻って来ていなかった。


「テラたちは戻って来ていないね。」


「うむ。儂に金を返しに来ると言って戻ってくる約束だったのだが…。」


なんか思い通りに行かないね。」


「そう言う時もある。今は、テラたちを信じて待つことにしよう。儂らは、儂らができることをやれば良い。そう。食事を済ませてお主らは先に寝ておけ。儂は、この後、酒場に行ってくる。王都の情報と今日探して見つからなかったマルヨレインの店の情報を探ってみるでな。」


 ロジャーは、そう言って宿屋を出て行ってその晩は、遅くまで帰ってこなかった。僕たちロジャーに言われたように宿屋で食事を済ませて早めに寝ることにした。


「サラは、一人で寝るの怖いです。でも、テラ姉は、戻ってこないのですわね。」


「そうだな。ここ10日以上、殆どみんな一緒に寝ていたからな。今日から一人で寝れるんだ。ゆっくり休めば良い。」


「ううっ…、そうですわね。サラももう大人ですから、一人で寝るのですわ。」


 フロルと僕、リンジーは同じ部屋。サラだけが別の部屋だ。もしも、テラとリニが帰ってくれば、サラとテラ、リニとロジャーが同じ部屋で休むことになっていた。


「凛、部屋に戻って寝るぞ。サラ、また明日な。朝ご飯の時は起こした方が良いか?」


「サラが、先に起きたらおこしに行くから、リンジーたちが先に起きた時は、サラを起こしてほしいですわ。」


「分かった。お休み。」









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