第100話 借金依頼

「皆揃っているな。」


いる。シモンさんたちも含めて全部で11人全員コテージの中に揃っている。


『はい。』


「今日は、儂からのお願いがある。特に、メティスの福音にだ。無理にとは言わない。遠慮なく断って欲しい。話す前にそのことは確認しておきたい。」


「分かりました。兎に角、その願いというのを聞かせて下せい。」


「済まぬが、かなり無理を伴う願いなのだ。そのことは覚悟していてくれ。」


何度も念を押したロジャーが話し始めた。


「今回は、成人したメティスの福音とテラ、そして、あと数日で成人することになるリニへの依頼だ。そう、依頼になる。成功した時は、そうだな。一人金貨10枚ということにしようかのう。」


「依頼って、誰の依頼なの?」


「儂から、テラとリニ、そしてメティスの福音へのだ。」


「私たちへの依頼なのですね。でも、その依頼を私たちが達成した時、ロジャー様に得はあるのでしょうか?」


「それは、どうであろうな。あるかもしれぬし、ないかもしれぬ。しかし、許せぬのだ。儂も孤児だったようなものであるし、友人には沢山の孤児もいる。だから、このままにしておくことはできぬ。」


「分かりやした。あの孤児たちのことでやすね。」


「うむ。そうだ。そして、テラとリニたちのことでもある。テラたちの孤児院の神父とやらは、不正なことをやっている。そして、今回のことで分かったのだが、その不正はテラたちの孤児院だけではないのだ。」


「その不正は、チビちゃんたちには通用しないはずですわ。勿論サラにも通用しません。ビシッと断ってやりますわ。」


「お主たちの孤児院では、今は、通用せぬだろう。しかし、このまま神父たちの不正を野放しにしていたら、直ぐに字も何も読めぬ孤児だけになってしまう。シスターたちも今のまま務められることはできぬであろう。」


「えっ?どうしてですか?シスターたちは、何の関係もないじゃありませんか。」


「しかし、このままあのシスターたちに孤児院を任せておけば、契約書を読んだり、計算ができたりする子らになってしまう。それは、不正を企む神父たちにとっては都合が悪いであろう。」


「そうですわね。テラが神父さんに聞いたように、契約書をどうして結ばないといけないのか疑問を持つでしょうね。」


「そう。だから、今いる孤児たちも含めて、あの孤児院にはおれぬようになるのではないかと思うのだ。あるいは、神父が去るかのどちらかだ。」


「昔は、神父様が読み書きを教えてくれたってシスターが言っていたから、今の神父様みたいな奴だけじゃないと思うぞ。良い神父様が来てくれたらきっと孤児院が良くなるぞ。」


「それは、どうなるか分からぬが、今の神父をそのままにしておけば、不幸な孤児が何人も出てくる。そのことは分かっておる。」


「でも、同じようなことをしている神父様か孤児院長が他にもいるんでしょう。」


「リニの言う通りだと思う。だから、お主たちに依頼せねばならぬのだ。まず、どのような仕組みで神父たちがお金を稼いでいるのかだ。そして、それが個人的な企みなのかと言うのも確認してもらいたいのだ。」


「でも、そんなに簡単にわかるのでしょうか?」


「しかし、このままでは、何も分からぬ。多分、借金をさせることで子どもたちを追い込んでいるとは思うのだが、それが、神父たちにどのような利益をもたらすのかが分からぬのだ。テラたちがあの孤児院にやってきたの頃から長年やっているのなら犯罪としてそう簡単に見破られるようなやり方はしていないはずだ。」


「でも、私には、金貨30枚も借金させそうとしたんですよ。王都に働きに出るのにそんな大金はいらないはずです。」


「テラの言う通りだ。しかし、草原で助けた孤児たちは、お金を持っていなかったし、使ってもいなかった。もしも、お金を使っていないのにそんなにたくさんの借金を背負わされたとした、幾ら読み書きや計算が分からなくてもおかしいと思って逃げ出したり、役人に泣きついたりするものが出てくると思うのだ。そのような物が一人でも出れば、役人も調べぬわけにもいかぬはずだ。」


「でも、私に神父様が言ったように、孤児院にお金を支払わないといけないなんて言われたら、そのお金は孤児院に支払われた物だと思うのではないのでしょうか?」


「しかしなテラ、そのようなことを今までの退院生全てが言われていたのであれば、仲の良い後輩やシスターに相談するはずであろう。お主が成人するまでにもあの孤児院だけでもたくさんの退院生が退院し、王都に働きに出ている。お主らは、その退院生にそのような話を聞いたことがあるか?」


「在りません。先輩たちは、王都に行って仕事を頑張るとしか…。「この町で冒険者になりたい。」って言っていましたけど、孤児院にたくさんお金を渡さないといけないなんてことは聞いたことはありません。」


「そうであろう。そして、お主たちの孤児院以外にも同じような子らが退院しているはずだ。その子らは数百人を超えているだろう。そんな沢山の子たちを誰にも知られぬように全て犯罪者に売り渡すのは無理だ。だから、犯罪に見えぬようにしているはずなのだ。あるいは、犯罪の片棒を担がさせているのを気付かれぬようにしているはずだ。その方法が分からぬ。そのカラクリの一部だけでも良い暴いて来てくれ。」


「でも、どうやってでしょう。私は、神父様の申し出を断ってきました。」


「儂が、奴らにお主らを売り渡す。カラクリを調べることができたら、逃げだすか、儂に連絡をするのだ。簡単には、分からぬであろう。少々時間がかかってもかまわぬ。しかし、金で縛るという方法以外にお主らを縛る方法はないはずだ。お主らに危険が迫った時は、その金の縛りは儂が何としても解いてやる。だから、頼む。行ってくれぬか。儂を信じて。」


「ロジャー様、任してくだせぇ。俺たちは、凜さんやロジャー様に出会わなかったら冒険者なるどころか、家族も一緒にスラムでの生活を続けていたはずですぜ。でも、自分たちで自分たちの暮らしをどうにかできるように何でもすることができました。だから、凜さんたちに会えたんです。そんな望みもかなわないなんてあんまりですぜ。」


「俺もそう思う。シモンの兄貴が言うように、何とかしようとすることもできなくなるってことになったら、どんな希望をや夢を持って生きていったら良いですか。俺たちには親がいたからそうならずに済んだっていうんなら親には感謝します。でも、親が居なかったら、幸せになれないって言うのはやっぱり変です。」


「俺も、同じです。そんなことをする奴らは許せない。」


「…、では、儂の依頼を受けてくれるか?」


『はい。』


「どうしたら良いんですか?どうしたらそいつらの企みを暴いて、テラの先輩退院生を助けられるんですか?」


「残念だが、早急には、助け出すことはできぬと思う。しかし、いずれ助けることができるように、企みのカラクリを明かしたいのだ。」


「分かりやした。で、どうしたら良いんですかい?このまま、今の依頼を続けて良いんですかい?」


「うむ。王都への燃料輸送は最後まで続けてくれ。その後、奴らにお主らから接触して欲しいのだ。」


「私たちからですか?」


「そうだ。種は蒔いておる。奴らにとって、既に、儂は、お主らから金を騙し取る男ということになっておる。」


「ロジャー様が、俺たちから金を騙し取るんですか?俺たちが金を手にできるのは、ロジャー様と凜さんおかげなんですよ。そんな俺たちからどうやって金を騙し取ることができるんですか?」


「そのようなことはどうでもよいのだ。良いか、お主らは、儂に金を返すため、あの男たちから一人、そうだな…、金貨4枚を借金するのだ。良いな、そして、王都での仕事を紹介してもらうように頼みこむ。これで、テラが神父に結ばされようとした契約とほぼ同じになるはずだ。」


「でも、お金を借りるためには理由が必要です。それは何なのですか?」


「今回の依頼料は全て儂に取り上げられ、道具や装備の費用を請求されたと言えばよい。そうだな。今回の依頼料は一パーティー金貨10枚だな。商隊から野営用の食料は配布されるが、儂らは自分たちで準備したからな。その食費も金貨1枚だな。装備費と道具の代金には、一人金貨3枚だ。テラたちは、パーティー全員分で金貨19枚を請求されたから、自分たち以外のメンバーが町に帰るために必要な金を金貨1枚だけ残して金貨9枚を支払い、足りない金貨10枚を支払うため、一人金貨5枚が必要だと言うのだ。シモンたちも同じだ、金貨1枚が食費、装備費が金貨15枚。お前たちは5人で支払うが、依頼料はテラたちよりも少し少ないはずだからな。一人金貨2枚が必要だということにするのだ。」


「俺たちは、金貨2枚ずつですね。何で俺たちはテラたちよりも借りる金が少ないんですかい?」


「同じ借金だとお主らの雇い手の違いが見えぬからな。全員が犯罪と知ったうえで引き取っているのか。知らぬ間に犯罪の片棒を担いでいるのかそれを知りたいのだ。雇われた後、揺さぶってみてくれ。」


「良く分かりません。まず、雇い手が分かればいいんですかい?」


「うむ。それさえわかれば、後は、儂が揺さぶりをかけることもできる。危ないと思ったら、すぐに逃げてくるのだ。良いな。お主らならできるはずだ。」


「分かりやした。雇い主を確認すること。危なくなったら逃げるんですね。」


「できれば、逃げる前に連絡する方法を探り、何とか連絡を付けて欲しい。暫くは、お主らを探させるし、探すからな。それから、魔術契約をさせられそうになったら逃げろ。よいな。何とかして逃げるのだぞ。」


「はい。ロジャー様の依頼を達成できるように頑張ります。」


テラとリニ、シモンさんたちは厳しい顔でそう答えた。

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