第99話 魔物の解体とマウンテンバイク
ロジャーは一人で帰ってきた。
「どうだった?やっぱりあの商人だった?」
「うむ。助けた孤児たちの借用書と契約書は、手に入れた。金貨16枚程かかったがな。あの子らへの危険手当の追加報酬だ。」
「でも、このままでは、先輩退院生たちの行方は分からないままになってしまいます。」
「そこで、テラたちに提案があるのだが、シモンたちにも協力してもらわねばならぬ。今晩、お主らのコテージで話をしたいと思う。それまでは、待ってい欲しいのだが、良いかな。」
「はい。それまで待っています。」
その日は、それから少しだけ商隊は進み、早めに野営場所を確保した。何しろブラッディブルの肉がふんだんに取れたから、肉祭りが始まる予定だ。血抜きして部位ごとに切り出された肉が土魔術で即席に作られたテーブルの上に並べられている。
全ての部位を収納してアナライズしたら、錬金術で解体作業ができるようになるかな…。もしかしたら、そんな錬金術の呪文があるかもしれないな。まあ、アナライズしてみよう。
「ねえ、解体した肉を収納させてもらって良いですか?」
解体を担当してくれているドラゴンネックのソゾンさんにお伺いを立てた。
「うん?まだ、調理は始めないから大丈夫だぞ。素材研究か?」
「はい。錬金で解体ができるかもしれないと思ってですね。」
「そうなんだな。そうなると便利だろうな。」
解体させた肉のブロックを収納してアナライズしてみる。
アナライズはできた。でも、錬金術式はできない。それはそうだ。それができたら完璧な人工肉というか魔法肉を作ることができる。そんな肉は見たことがない。
「お前たち、ねぐらは準備し終わったのか?」
「はい。済んでいます。」
「それなら解体を手伝ってくれ。自分たちで解体ができるようになれば、素材を無駄なく高く買ってもらえるようになるぞ。自分たちに必要な部位は手元において、他を売ることもできるようになる。」
実際に解体作業をやってみて、どこにどの肉がついているのかをイメージできるようになれば、コテージのパーツを取り出したことが出たように部位ごとに肉を解体、収納できるようになるかもしれない。
「分かりました。お手伝いさせてください。」
「俺も手伝いするぞ。ソゾンさん良いだろう。」
「おっ、フロルか。一緒にやってくれるか。頼む。」
フロルはナイフを使って骨と筋肉の接合部分を切断すると器用に収納していっている。肉だけを収納することで素早く解体を進めることができていた。
「フロル、お前、器用なことをやってるな…。スキルを解体に使っているのか?」
「そうだぞ。もう少しこの魔物の構造がしっかり分かったら、血液だけを収納できるだけ収納してみるぞ。そうしたら血抜きが早くなるかもしれないぞ。」
「おい。フロル、魔物の血は、乾燥するまで全部取ろうとするな。旨味まで抜けてしまうぞ。調理の処理をする時に塩水で軽く洗うからな。カビカビになるまで血を抜かないようにな。」
「分かったぞ。カビカビになるまで血を抜くことの方が難しいぞ。とにかくやってみる。」
フロルは、ブラッディブルの喉元をナイフで切り裂いて流れ出てくる血に手で受けとめている。そのまま収納しているようだったけど、直ぐに血は流れ出てこなくなった。
「血抜きは終ったようだぞ。ソゾンさん確認してもらって良いか。」
「おう。待ってろ。直ぐにそっちに行く。」
ソゾンさんは、フロルが血抜きしたブラッディブルを解体し始めて、血抜きの具合を確認した。
「おおっ。バッチリだ。この後は、部位ごとに解体してみろ。それができたら、冒険者ギルドを通さなくても肉屋に高く買ってもらえるぞ。」
「すごいなフロル。ブラッディブル以外の魔物も解体できるのかい?」
「分からない。でも、収納のスキルで解体をやってるから凜もできると思うぞ。魔物の体のつくりをイメージすることと部位ごとに魔力を流すことができれば良いぞ。」
「収納スキルでやるんなら、ナイフで腱を切ったりしないといけないんでしょう。僕には無理だと思う。」
「それなら錬金術の素材採集の魔術なんかがないか調べてみると良いぞ。それまでは、俺が頑張るから任せておくんだぞ。」
「じゃあ、それまではお願いするね。」
僕は、フロルに解体を任せて、リニと一緒に自転車を作ることにした。ロジャーに貰った白砂でシリコンタイヤも作ることができたから、リニに車輪に取り付けてもらう。
「ロジャー、マウンテンバイクを貸してもらって良い?車輪に着けたタイヤの所をリニにトレースしてもらいたいんだけど。」
「良いぞ。」
そう言うとロジャーは、マウンテンバイクを出してくれた。僕が作ったシリコンゴムをリニに渡して、ロジャーのマウンテンバイクをトレースしながら自転車のリムに取り付けてもらう。
前輪と後輪にシリコンゴムを装着すれば完成だ。出来上がったマウンテンバイクを収納して、アナライズ。それからコンストラクションで錬金術式を作った。できる。ロジャーのマウンテンバイクは錬金術式にできなかったけど、今度作ったマウンテンバイクは錬金することができる。
「アルケミー・マウンテンバイク。」
5分もかからずにマウンテンバイクが完成した。これで2台。
「凛、そのマウンテンバイクって言うのにどうやって使うんだぞ?」
フロルが聞いてきたけど、僕は自転車に乗ったことがない。
「僕、乗れないんだ。練習したいんだけど…。ロジャー!自転車の乗り方を見せてくれない。出来たら教えて欲しいんだけど…。無理かな…。」
「フロル、見ておくのだぞ。こうやってサドルにまたがって、初めは、片足だけをペダルに乗せて、乗せたペダルを下に踏み込むこんな風にな。」
その様子を見ていたフロルは、直ぐにまねをして自転車をこいで進むことができた。
「曲がる時は、ハンドルを曲げるのではなく、重心を移動するのだぞ。このようにだ。」
重心の移動の様子を見たフロルはそれもすぐにできた。
「師匠、これで良いのか?」
「おう。その調子だ。儂に着いて来れるか。」
「頑張るぞ。」
あれ…。フロルとロジャーはどこかに行ってしまった。僕に乗り方を教えてはくれないのかな…。僕の手元にもマウンテンバイクはあるけど、ロジャーがフロルに言ったことだけじゃ僕には乗れるようにはならない。絶対、無理だ。
「ねえ、凛。私にそのマウンテンバイクって言うのを貸してくれない?ロジャー様の言った通りにすればあんなに早く走ることができるなら乗ってみたいわ。」
「それは、良いけど、乗れるようになったら僕に乗り方を教えてくれる?」
「良いわよ。乗れるようになったね。」
僕は、手元に持っていたマウンテンバイクをテラに渡してもう4台錬金した。後でシモンさんたちの分も錬金してあげよう。錬金している間にテラは自転車に乗れるようになっていた。
「大体乗り方は分かったわ。一緒に練習しましょう。」
「でも、そろそろ肉の調理が始まるみたいだよ。」
「本当。ロジャー様ももうすぐ戻ってこられるかしら。結界を張ってもらわないと調理が始められないわね。」
「サーチでロジャーを探してみようか?」
「あっ、大丈夫。戻ってこられたわ。」
「凛!大変だ。タイヤが、ボロボロになりそうだ。」
「えっ?」
「うむ。お主の素材のタイヤはうまく魔力が通らぬようだ。そのせいで身体強化してマウンテンバイクを走らせるとタイヤがもたぬのかもしれぬな。」
「そうなんだぞ。普通に走っている時は全然大丈夫だったんだぞ。だけど、身体強化をしてほんの少し走ったらタイヤがボロボロになったみたいだぞ。」
「わかった。暫くは、身体強化をしないで使って。シリコンゴムと魔石を合成する方法を調べるから。」
シリコンゴムの改良が必要なようだ。それでも、どうしたら良いのかは大体わかった。護衛依頼が終わってから錬金術師ギルドで調べるか教えてもらわないといけないかもしれない。
「ロジャー、結界はまだ張らないの?血抜きとかしてるけど、そろそろ調理をした方がいいみたいだよ。」
「おおっ!そうであったな。直ぐに魔石をセットして結界を貼る。その前に皆に結界内に入ってもらわねばな。」
そう言うと、レネさんに声をかけ、結界の魔術具の魔石を柱の上にセットした。冒険者も商隊のみんなも慌てて結界の範囲内に集まってくる。馬車の側にくれば範囲内だ。
「ロジャーさん、ありがとうございます。これで心置きなく肉料理が作れます。」
「おう。美味しい物を頼むぞ。」
「はい。任せて下さい。ブラッディブルの肉の加工は得意です。今晩の飯も絶品ですぜ。」
「楽しみにしている。」
ロジャーは、皆に声をかけられながら僕たちのコテージの方に歩いてきた。
「全員揃っているか?」
『はい。』
「シモンたちも一緒にシルバーダウンスターのコテージに入ってくれ。話したいことがある。」
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