第98話 企み

 希望の光を引き連れ商隊に戻ると、暫くしてテラたちが帰ってきた。テラたちも希望の光のメンバーを連れて来ていた。その二人の髪は、粘着網でべとべとになっていて、縄で縛られていたけど怪我はしていなかった。


「こいつらが擦り付けをしようとしていた奴らだ。しかし、連れてきてもらった魔物は、高級素材だったぞ。凜さんに貰ったスクロールがあったから楽勝だった。」


「それで、その素材は如何どうしたんですか?」


「見張りを置いてきました。ロジャー様か凜さんに回収に行って欲しいんですけど。ダメですか?」


「凛。フロルとともに行ってくれぬか。儂は、そ奴らと行かねばならぬ場所がある。」


 ロジャーは、希望の光と共に依頼主の元に向かうようだ。だから、僕たちを素材を回収にやらせるんだろう。


「分かった。行ってくる。ロジャーも気を付けて。」


 僕とフロル、テラ、リニの4人で素材の回収に行くことになった。今晩の晩御飯の材料を回収しに。


「高級食材のブラッディブル。草原を血に染める凶暴な魔物って聞いたよ。テラたちは、その魔物を全部を倒したんだね。」


「そうよ。まあ、凜のスクロールには大分助けてもらったけどね。」


 僕たちは全速力で走った。全力素材回収。今晩は御馳走だ!





 ロジャーは、気配を消して希望の光の後ろをついて行っている。男たちは、小さな村に入っていった。依頼主は、この村で宿をとっているようだ。安全な場所で待っているだけで、依頼が達成できると思っている。


「確かに、お主たちには弱みがあった。依頼主であるこの男が、自らを守るために撤退を指示したことを証明しなければ、冒険者として活動できなくなる。しかし、今回の擦り付け未遂は言い訳の余地がない。それにしても、何故、犯罪指示にまで従うのだ。」


「俺たちも犯罪なんてやりたくはなかったんだ。でも、商品を王都に運ばないと大変なことになるんだよ。最低でも孤児一人につき金貨2枚の支払いが発生する。依頼の報酬が3週間で金貨3枚になのにだぞ。それが払えないと下手したら奴隷落ちだ。」


「奴隷落ち?」


「そう。借金奴隷に落とされる。一度、借金奴隷に落ちた者の末路を知っているか?」


「末路?借金を返すまで自由を奪われ、低賃金で働かされるだけではないのか?」


「低賃金…。そう。低賃金だな。借金が膨らむほどの低賃金だ。よほど運が良くなければ、そうなる。過酷な末路に向かうのだ。」


「良く分からぬな。どのような末路なのだ。」


「借金が膨らむと、奴隷市に売り出される。競りにかけられて、所有者が変わるのだ。その時の価格が借金に加算されて次の所有者の手に移る。所有者が移るたびに借金が膨らんで、借金奴隷から抜け出せないんだ。それが闇市なら末路はもっと悲惨になる。闇市ともなるとほぼ命の値段だ。しかも、低価格ときた。そんな先につながっているから言われた通りにするしかなかったんだ。」


「それは、お前たちが連れて行こうとしていた孤児たちの末路なのか?」


「それは、どうだろうな。運しだいだ。そうなる奴が多いと思うがな。」


「なるほどな。テラたちはそのような目に合うところだったのだな。良い情報を貰った。情報量は弾んでやる。では、依頼主との交渉に参ろうか。」


 ロジャーは、希望の光のメンバーと共に宿屋の前に立っていた。


「だんな、俺たちの依頼主はこの宿屋に泊まっています。しかし、もしも旦那を連れて行くと契約違反にならないのですか。」


「お主らは、どのような契約を結んでいるのだ?普通の契約か?まさか魔術契約などではないだろうな。」


「魔術契約って何ですか?俺たちがした契約っていうのは、サインして魔力を流すっていう奴です。」


「あちゃー、それは、魔術契約だ…。それで、どのような内容なのだ。」


「3週間の護衛任務で金貨3枚という契約だ。…、という話だったのだが、俺たちは、字がしっかり読めないからな。何と書いてあったかははっきりとは分からない。」


「では、確認してみようかのう。お前たちの雇い主の名前は何と言うのだ。」


「雇い主の名前か。雇い主だ。さっきからそう言っている。」


「そうか。言っておるのだな。では、主たちは、孤児をどこの誰の所に連れて行く依頼を受けたのだ?」


「王都に連れて行く。そう言う依頼だ。」


「なるほどな。流石さすが魔術契約だ。」


「どういうことだ?」


「お主らは、この依頼に対しては、他言できぬ。魔術によって縛られているからな。そして、お主らへの依頼は、そのような効果を付与した魔術契約で縛らねばならないような依頼だということが良く分かった。」


「うっ…。そうなんですか…。」


 そう言うと、ロジャーは宿屋の扉を開け中に入って行った。宿屋の受付の前に立つとそこの女将に話をした。


「ここにお泊りの御仁と少々商売の話があるのだが、そうだな…、金貨50枚程の商談だと伝えてくれ。そう大きくはないが行きがけのの駄賃としては大きな額だと思う。」


「畏まりました。お泊りの商人様ですね。お伝えしてまいります。」


 暫くして、商人が降りてきた。


「おっ、お前は…。」


「久しぶりですな。商隊長殿。商談を持ってまいりましたぞ。」


「商談だと?孤児たちは、王都に向かっているのか。お主らと一緒なのか?」


「いや、孤児たちは町に残してきた。今回は、冬の燃料を急ぎで運んでいるからな。」


「それであれば、商談はないな。儂らの商材の種類は、そう多くないのでな。」


「しかし、王都に孤児を運ばねばならないのであろう。お主、奴隷商人か?」


「とんでもない。奴隷商人は、国から認められた資格を持ち、町の外に出て奴隷を集めてくることなどご法度だ。人買いなどと言う商売はないからな。」


「では、お主らの商材とは何なのだ?」


「金融と職業紹介だ。繋がっている商売なんだぞ。その二つの職業はな。王都で職に就くにはその前にお金が必要だ。それに必要なお金を準備やらぬと王都で働くこともできはせんからな。王都で働きたい物がおり、王都には、就労希望者を待っていらっしゃる方々がいらっしゃる。」


「それならば、孤児を見捨てたのは間違いではないか?」


「自らの命を守るためとはいえ、その判断は間違っていたのかもしれないと今は思っております。」


「それで、困って今回のようなことを行ったのか?」


「今回のようなこと…とは?」


「魔物の擦り付けや商隊への進入だ。共に未遂だったが、十分な犯罪行為だと思うがな。それは、依頼主からの指示なのではないか?」


「私が依頼したのは孤児たちの所在の確認ともしも王都に向かっているなら連れてくるように説得してくるようにということだけだ。」


「だ、だんな、そんな…。俺たち。」


「お前たちは黙ってろ。」


「さて、ここからが商談だ。商隊長お主が欲しいのは何なのだ?儂なら準備できるかもしれぬぞ。金か?職を探している若者か?条件次第なら準備できるかもしれぬぞ。」


「どうしてだ?そんなうまい話あるはずがない。」


「儂がどうやって生計を立てると思う?この年でだぞ…。冒険者稼業だけでは厳しいのだ。分かるであろう。お主も、色々と経験を積んでいるようだからな。」


「若者を紹介できるのか?それとも金か?金の借り手を紹介してくれると言うのか?」


「職を紹介してもらう若者を5名…、否、必要なら7名準備することができるぞ。」


「そ…それは、誠のことか。しかし、そ奴らは成人しておるのか?成人せねば職は紹介できぬし、契約もできぬぞ。」


「一人は、後、7日で成人だが、他は全員成人じゃ。ただし、全員冒険者だが、それはかまわぬのか?」


「それでは、魔術も発現しておるのだな。」


「うむ。発現しておる。まあ、属性は様々だがな。」


「そ…、それは、願ってもない申し出だが…。いくら必要なのだ。」


「金か…、金は他で稼がせてもらいたいのだが…。その話も良いか?」


「それは、どのようなことだ?」


「お主が持っているはずの孤児たちの契約書を買い取りたい。借金の借用書も含めてすべてじゃが、借金の利子を含めた返済金に金貨を1枚足して買い取るぞ。ただし、お主らが預かっているはずの孤児たちのお金も一緒にか相殺した額でだが、どうだ?孤児たちを見捨てた時に捨てたはずの金だろう。それに金貨が1枚上乗せされて帰ってくるのだ。悪い話ではないであろう。」


「なぜ…。なぜ、そんなものを買い取る?」


「儂が買い取れば、その借金を孤児たちに請求できるであろう。しかし、孤児たちの金をお主に渡したままでは、儂がその金をネコババしたと勘繰られるではないか。お主らもそうしたように、孤児たちに支払わせるのは、己が使用した金と利子だけにせねばこちらが罰せられる。」


「そのようなことでは、多くの金は手に入らぬぞ。それでも良いなら儂らとしてはかまわぬ。お主が言うように、魔物と戦いの時にあの場に置き去りにしたのだ。捨てた金と言われてもしようがないな。」


「では、借用書と他の契約書を準備してくれ。金は清算するのか?」


「…、清算でお願いする。金利と孤児が使った金は…、今日までで、一人金貨2枚と銀貨3枚。銅貨以下の分はまけてやる。それに金貨を1枚足してくれるのならな。」


「うむ。では、5人分で銀貨は15枚と金貨10枚に金貨を5枚だな。支払う金は、金貨16枚と銀貨5枚ということで間違いないか?」


「ま、間違いない。本当か。本当にそのような契約をしてくれるのか?」


「契約?契約はせぬぞ。金を支払うだけだ。まず、ここに借用書と契約書を持参いたせ。直ぐに買い取る。金が心配ならここに準備するぞ。確認せよ。」


 商人は、ロジャーが出した金を確認するとそそくさと部屋に戻って行った。孤児5人分の借用書と契約書を取りに行ったようだ。肌身離さず持っているかもしれないが、取り出すところを見せたくなかったのだろう。


「これで売買は終了だ。金は受け取れ。若者は、王都についてお主の所に行かせる。後は、お主次第だ。いいな。首尾よく役割を果たすのだぞ。」


「その若者と言うのは、孤児か?家族が居ると後々面倒なのだが。」


「孤児が二人、後はスラムの青年だ。家族は居るが面倒ごとにはならぬだろう。儂が抑えることができるからな。」








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