第97話 忍び寄る影

 二日目の夜は何事もなく開けた。朝食を終えると直ぐに出発だ。今日も順調に進むことを願っている。


「凛。今日もまずサーチだ。距離は、100kmに伸ばしてくれ。できるか?」


「やってみる。でも、途中で見つけても100kmまで伸ばすの?」


「その通り。途中で見つけても伸ばしてくれ。」


 ロジャーに言われるようにサーチを伸ばしていった。人でサーチをしているから魔物の位置はつかめないけど、出発前に魔物もサーチしてみることになっている。


「近くには、誰もいないよ。ん…。30kmの辺りに昨日の人の気配がある。」


「うむ。その先も探っておくのだ。」


「分かった。その先の人の気配だね。」


「いや。まず、大きな魔力を持つ魔物の気配を探ってくれぬか。」


「え?人じゃなくて魔物の気配をサーチするの。う、うん。出発前にはサーチするはずだったから、それはかまわないけど。どうして?」


「ん?その少人数で、商隊に接触するなら何か理由が必要になるのではないかと思ってな。」


「…?」


「まあ、保険と思ってサーチを頼む。」


「分かった。魔物のサーチだね。」


 人の気配があった場所からサーチを広げて行く。自分起点じゃないサーチは初めてだったけどうまくいった。近くには大きな魔物の魔力はないみたいだったけど、人の気配から山の方向に50kmほど離れたところに大きめの魔物の魔力が集まっている場所がある。群れで狩りをする魔物の群れがいるのかもしれない。


「人の気配から50kmくらい森の方に行ったとこに魔物の群れがいるみたい。他には大きな魔力を持った魔物は見つからなった。」


「30km前方から森の方に50kmくらい行った方か…。現在位置から言うと…。進行方向の左前方に注意しておかないといけないな…。わかった。先頭の護衛を担当する大地の力には伝えておく。助かった。凛、感謝する。」


 ロジャーはそう言うと僕たちの所から離れて行った。結界の魔石を収納して出発の準備を済ませるようだ。商隊の馬車もほぼ準備を終えているようだ。5分もかからず、全員が出発の準備を終えて進み出した。今日も順調に進むことができると良いのだけれど。


 出発から頃正を午すぎた頃までは何事もなく進むことができた。ロジャーに聞いた所、この世界の馬は、時速で言うと20km位で進むことができるらしい。今朝、魔物の気配が感じられた場所は、既に後方に変わっていた。ロジャーは今、最後尾のプラントコレクターのパーティーと一緒にいる。


「各パーティーは、馬車の進行方向左には1名のみを残して、後は、右に移動して防御の体制を取ってくれ。魔物群れが近づいてきているようだ。」


 後方から伝令が指示を伝えてきた。進行方向右後方に砂ぼこりが立っているのが見える。スタンピードまではいかないけど大きな魔物の群れが近付いてきているようだ。


 馬車の左には、リンジーが待機していた。僕たちは、馬車の右側で魔物を待ち構えている。会敵までは、もう暫く時間があるようだ。砂ぼこりはかなり離れたところに見える。ぼんやりと砂ぼこりが移動してい来るのを見ているとロジャーが横に立っていた。


「凛、商隊のまわり特に左側に人の気配がないかサーチしてくれぬか?」


「魔物じゃなくて人の気配?」


「うむ。保険じゃよ。」


 ロジャーに言われるまま商隊を中心に人の気配はサーチしてみる。


「あれ?前方左10km位の所に3人位かな…。人の気配を感じる。」


「やはりな…。魔物のなすりつけまでして、気付かれぬように積み荷を確認したいと見える。」


「え?どう言うこと。あの魔物の群れは、誰かが仕組んだものって言うこと。」


「多分な。もうすぐ、知った顔を見ることができるのではないか。左側に居る者たちには、侵入者に気を付けるように徹底しておかねばな。ここから10kmの距離か…。気配を消して近づいて来るなら1時間というところか…。しかし、商隊も移動しているからな。このペースで進むと会敵が重なることになる。移動を止めるか…。」


 ロジャーが、先頭の馬車の方に行くと直ぐに停止の指示が伝えられた。この場所で魔物と会敵するのだろう。


「各パーティーから3名ずつ出でてもらい、魔物を迎え撃つ。テラ、人選はお主に任せる。それから、そちらのリーダーは、レネに任せる。各パーティーの代表は各自、魔物の殲滅を行ってくれ。」


「はい。出発は何時いつですか?」


「5分後、レネの指示で出発するのだ。」


 それぞれのパーティー人選を済ませてレネの元に集まっていった。僕たちのパーティーからは、テラ、リンジー、サラの3人だ。前衛攻撃、回復、魔法攻撃の攻撃中心だけどバランスが良い編成にしたと言っていた。


 3人が出て行った後、残りの僕たちは、商隊の警護だ。テラたちならきっと魔物を近づけることなどないだろう。ロジャーが一緒ならもっと安心だけど、この商隊を狙っている賊がいるならロジャーに残ってもらっていた方が良い。


 テラたちが出て行った後、僕たちは、各馬車に一人ずつ配置されて警護を続けた。賊を捕えるため各自に粘着網のスクロールを2本ずつ配った。このスクロールを使えば捕縛は、難しくないだろう。テラたちも魔物討伐に必要なスクロールを渡している。風刃のスクロールと粘着網のスクロールがあれば、大抵の魔物は討伐できると思う。テラたちの会敵までは後、数分。砂ぼこりは、まだこちらに向かってきているように感じる。


「凛。人の気配をサーチしてみてくれ。儂には、まだ感じられん。」


「了解。」


 気配は、動き出しているようだ。こちらに近づいてきている気がする。でも、ゆっくりだ。このペースだと後1時間以上かかるかもしれない。


「ゆっくりこっちに近づいている。後、1時間はかかると思うよ。」


「分かった。何人だ?」


「3人。近づいてきているのは3人だよ。」


「うむ…。リンジー、凛、フロル、儂でお迎えに向かう。護衛の指揮は、プラントコレクターのリーダー、セシルに頼む。凜は、二人を呼んで来い。」


「うん。連れてくる。」


 僕は、直ぐに二人を呼んできた。




「では、参るぞ。奴らが儂らに気づく可能性は低いと思うが、十分に気を付けるのだ。儂の後ろに入っておくように。結界の魔道具を使う。よほどのスキルがなくば儂らに気が付くことはあるまい。」


 僕たちは、足に魔力をまとわせ、賊に近づいて行った。その速度は思った以上に速い。商隊に近づいている賊が見えてきた。


「あれって…。希望の光…?」


 見えてきたのは、Eランク冒険者パーティー「希望の光」その内の3人。身をかがめ、ゆっくりと進んでいる。気配を気付かれないように注意を払いながら。


「見えておるぞ。希望の光だったな。お主ら。」


 ロジャーが結界の陰から声をかけると驚いて立ち止まり、キョロキョロと見回している。


「何を探しておる?お主たちが護衛の責務を放棄して置き去りにした孤児たちか?」


「俺たちは、孤児たちの護衛を請け負っていたわけではない。孤児たちは、商品。護衛対象は、商隊長と御者だったのだ。」


「ほほう。王都に向かっていた孤児たちを商品というのか…。まあ、そう言う認識だったということだな。しかし、ギルドはそのような認識ではないようだぞ。」


「ギルドには、雇い主から説明をしてもらうことになっている。そうしないと俺たちは、冒険者を続けることができなくなる。俺たちは、護衛対象を置き去りにしたわけではないんだ。護衛対象である雇い主からの指示で撤退したんだ。」


「ほほう。それで、今回はどのような用事で、魔物のなすりつけをなど準備したのだ?言っておくが、あの商隊には、孤児たちは同行しておらんぞ。」


「うっ…。」


「お主たちの仕事は失敗したようだな。どうだ、お主たちがまともな冒険者と言うのなら、もう犯罪の片棒を担ぐようなことは止めぬか?」


「…。」


「儂らをお主たちの雇い主の所に案内してくれぬか?話がしたい。お主らの雇い主もどこぞの誰かに雇われているのであろう。」


「…。」


 もう、希望の光は雇い主の言う通り依頼を遂行することを止めようとしているようだ。無言の肯定。ロジャーに従うことに決めようとしている。そんな顔だ。













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