護衛依頼➖王都編

第95話 出発

 町の門の前に馬車が20台ほど並び、その荷台には薪型燃料がうずたかく積まれていた。一つ馬車には2000束以上の燃料が積まれているはずだ。その他にも、大型のマジックバッグの中にもぎゅうぎゅうに詰められているから全部で15万束ほどの燃料が運ばることになるはずだ。


 マジックバッグだけで運べばとも思うのだけど、バッグがそんなにたくさんはない。僕たちとシモンさんたちのパーティーで9個持っているのが異常だ。僕たち以外は、商隊が5000束ほど入るバッグを1個ずつ、冒険者のパーティーは誰一人持っていなかった。そして、それぞれのパーティーは、食料品や着替えなんかを入れた大きなリュックを持っている。


「この商隊の隊長のフリッツだ。今回王都に届けるのは薪型燃料だけだ。確実に売れる商品だが、盗賊に狙われるような商品ではないとは思っている。しかし、油断はできない。よほどの衝撃を与えない限り、壊れる物ではない故、かなり急ぎの輸送になると思うが、頑張って欲しい。今回は、利益が確定している商品だ。大変だと思うが頼むぞ。」


『おーっ!』


「俺は、護衛部隊の指揮を任されているレネだ。Cランク冒険者パーティー、「大地の力」のリーダーを任されている。今回の護衛任務には俺たちも含め6パーティーだ。それぞれのパーティーを紹介する。若手から紹介するからな。Dランクパーティー「シルバーダウンスター」。」


 僕たちが一番最初に呼ばれた。それはそうか。正式な冒険者はテラだけだもんな。もうすぐリニも正式な冒険者になるはずだけど。


 みんなで手を上げて応えた。


「Eランクパーティー「メティスの福音」。」


 次に紹介されたのはシモンたちだ。


「Eランクパーティー「ドラゴンネック」。」


 ドラゴンネックはシモンさんと同じくらいの男2名女3名のパーティーだった。


「Dランクパーティー「フェニックスフェザー」。」


 フェニックスフェザーは、男ばかり6人のパーティーに見えた。でも違うかもしれない。


「Cランクパーティー、「プラントコレクター」。」


 女性ばかりの5人パーティーに見えた。


「最後に、俺たちの守り手ロジャーさんだ。」


 ロジャーは守り手なんだ。


「今紹介した順に夜警を回すからな。今晩の夜警は、シルバーダウンスターに担当してもらう。俺たちは、最後に回る。基本的に2名1組で担当してくれ。今回の旅にはロジャー様から結界の魔道具を貸していただくことになった。夜警も結界内で警備を行うようにしてくれ。良いな。事故なく、この旅を終えることができるように協力して行こう。」


 森からなるべく離れるために今朝は夜が明けて直ぐに集合している。できるだけ早い時間に出発するためだ。


 お互いの紹介が終わって、馬車の隊列が決められると馬車が出発した。僕たちは、隊列の真ん中あたり8番目の馬車と9番目の馬車の間と馬車の上で警備に当たった。12番目と13番目の馬車の間がシモンさんたちだ。僕は、足に魔力を回して強化してい歩いた。ほんの少ししか魔力は送っていないけど、殆ど疲れない。


 ロジャーは先頭の大地の力と一緒に歩いていた。多分、索敵しながら進んでいるのだと思う。時々いなくなっていたみたいだけど、魔物を追い払いに行っていたのかな…。そのおかげか、一日目は、何事もなく旅を終えることができた。


 夜は、ロジャーが取り出した棒の上に結界の魔道具を取り付けて結界を張った。20台の馬車を全て結界の中に入れている。夕食はそれぞれのパーティーごとに作って食べる。今日は夜警当番になっているからコテージは設置していない。メティスの福音は、目立たないように陰にコテージを設営して中に入って行った。ロジャーは、僕たちと一緒に食事の準備だ。今日の夕食は、ウサギ肉のシチューとパン、果物だ。美味しそうな臭いをまき散らして周りから注目を浴びていた。


「今日の当番は、シルバーダウンスターのメンバーだな。初日だからそう疲れてはいないと思うが、油断せぬように頼むぞ。それにしても…、お前たちおいしそうな物を食べておるな。…、あっ、ロジャー様もご一緒でしたか。そうでしょうね。」


「ぬ?何がだ?」


「いや、ロジャー様が、この者たちに振舞っていらっしゃるのだろうなと思いまして。」


「いや、この食料は、この者たちと儂の共有物だぞ。材料費も保存も温めなおしも皆で分担しておる。」


「そ…、そうなのですね。てっきり不慣れなこの者たちがロジャー様に夕食を振舞ってもらっておるのかと思っておりました。しかし、それにしてもおいしそうでございますね。」


「お主らも、自分たちの夕食は準備しておるのであろう。それを食べてまいれ。今夜はシルバーダウンスターは、夜警当番なのだそうゆっくりしおれぬからな。」


「は…はい。お邪魔いたしました。」


 レネさんは、僕たちの夕食を何度も振り返りながら自分たちのパーティーの所に戻って行った。ここで食べさせるとこれからずっと分けてあげないといけなくなる。緊急時なら致し方ないが、普段はその必要はない。


 回りが暗くなってそれぞれのパーティーがテントの中に入って休みだす頃僕たちは、ロジャーのコテージを出してもらってその中に入って行った。結界は張っていないから周りからは見えている。


「凛よ。お主の錬金術でもこのコテージを錬金することができるようだから、作っておかぬか?このような依頼の場合は、地下室付きのコテージは設置しにくかろう。」


「うん。作っておく。でも、ロジャーのコテージで良くない?」


「そうだな。しかし、準備しておくに越したことないであろう。これから10日以上かかる。何があるか分からぬからな。」


「今のうちに錬金しておくね。一度、寝ないと夜警の時に眠くなりそうだから。」


 そう言うとコテージを錬金して、ベッドに入った。1時間でも眠っておかないと、夜警の時に寝てしまいそうだ。今晩の警備順は1番目。サラと一緒だ。3チームで警備を担当するから月が天頂を過ぎて45度程傾いた時に交代だ。その次の交代は月が沈む頃。そして朝までだ。僕とサラの次がリニとリンジー、最後がフロルとテラだ。テラたちは朝ご飯の用意をしないといけない。






「凛、起きなさい。警備の時間よ。外では焚火を切らさないようにしなさい。体が冷えると病が入ってくるわよ。」


「分かってるよ。テラ姉は心配性だな。サラも僕も火の扱いは上手いんだよ。任せておいて。じゃあ、お休み。寝る時間が短くなるから早く寝てね。」


「サラは火属性なのですから、火の扱いは大丈夫ですわ。お休みなさい。テラ姉。」


 僕とサラはコテージの外に出ると薪の代わりに3本の薪型燃料を出して着火した。薪10本分よりも強い炎が上がって辺りを温めて行った。


「この辺りの魔物をサーチしてみる。サラは、周りをよく見ておいてね。」


 周囲に魔物は居ない。一番近くでも1~2kmは離れているし、ボア位の大きさの魔物しかいないようだ。ボアでも馬車に突っ込んでこられたら大変だけど、結界の魔石にも守られている。魔物がこの結界の中に入ってくることはない。


「凛、人が見えない?」


「どこに?」


「あっち。」


 サラが指さした方をサーチしてみた。確かに人がいる。2人。ここから離れて行っている。その先も探ってみたけど、何も見つからなかった。それから暫く離れて行く人の気配を追っていたけど、10km程離れた時に探るのを止めた。


「居なくなったみたい。盗賊かもしれないけど、僕たちを見失ったのかな。結界の中にいれば、外からは見えないからね。」


 でも、足跡も馬車の轍も消していない。もしも、盗賊だったら見失っても轍の後をつけて来て轍が消えた場所に商隊がいるということは気が付くはずだ。町から離れるまで待つつもりなのだろうか。明日、ロジャー達に報告した方が良いかもしれない。


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