第93話 錬金術式

 外はまだ暗い。今、何時くらいだろう。人が活動しない時間は、ときの鐘もないから外の欠けた月の位置で何時くらいかを判断するしかないけど、日が暮れた時の月の位置が分かっていないと全く見当がつかない。もしかしたら、月の形と、位置とで時刻が分かるのかもしれないけどその知識はない。


 明るくなるまで後どくらいなのかな…。灯りの魔道具に魔力を流して部屋を明るくした。


 アイテムボックスを開いて手紙を調べてみたけど新しい手紙は入ってなかった。でも、たくさんの錬金術式が登録してあった。

 日本刀と槍…。なんでこんなもんがアナライズできたんだろう。魔鉄鋼や鉄なんかはアイテムボックスの中に入っているから日本刀って言うのを錬金してみた。


「アルケミー・日本刀」


 かなりの量の魔力が必要だったし30分たっても錬金が終わらなかったけど、魔力切れにはならずに錬金が終わった。


 取り出すと、日本刀が出てきた。恐る恐る両手で持ってみた。ずっしりと重い。でも、どうやって使うんだろう。構えは…。こっちの世界じゃ誰も教えてくれないか…。


 差し当たり、つるぎと同じ要領で素振りをしてみた。重さはあまり変わらないけど長さが全然違う。僕が持っている剣は両刃だ。その上、日本刀よりも20cm位短くて直刀だ。日本刀は反りがある。


 暫く素振りをやってみた。少し汗をかいてきた。刀を持つ手に魔力を回すと刀が風を切る音が鋭くなったような気がした。この刀は実際にモノを切ることができる武器だ。人に当たると大怪我をさせてしまうことになる。そう思うと素振りも怖くなってやめた。


 マウンテンバイクの錬金術式もあったけど素材が足りなくて錬金できなかった。ロジャーのマウンテンバイクを借りて術式を作ったらこっちの世界で素材を集めて錬金できるかもしれない。


 アイテムボックスの中には、薪型燃料が1万束ほど入っていた。明日は王都に向かって出発するはずだから、今日の内に作れるだけの薪型燃料を治めておいた方が良いということかな…。ホンザさんの所にも最低2週間分1万4000束くらいは治めておいた方が良いのかな…。でも、錬金術師ギルドには術式を公開しているから足りなくなったギルドに依頼してもらえば良いか…。後でホンザさんに相談してみよう。


 魔力はほぼ満タンだ。後14000くらいだったら余裕で錬金できる。昨日レミが錬金した10240束と合わせて2万4000束になるように追加錬金をした。これでホンザさんのことろに2週間分を治めてもギルドに1万束納められる。


 燃料の錬金が終わった頃外が明るくなってきた。外に出て、素振りをやっておこうかな…。僕が部屋から出て庭に出ようと廊下を歩いているとテラたちも部屋から出てきた。


「お早う。凛…、だよね。」


「うん。そうだよ。お早う。今から訓練をするの?」


「そうだ。日課の体力づくりから始まるいつもの訓練だ。凜も参加するだろう。」


「うん。それから、新しい武器を錬金できるようになったんだけど、誰か使いたい人いるかな。」


 話をしながら庭に出て行くと、ロジャーとフロルが武術の型の練習をしていた。この寒空に上半身裸だ。それでも、二人ともうっすらと汗をかいている。


「「「「「お早うございます。」」」」」


 ロジャーに挨拶をする。ロジャーは、フロルに視線を送りそのまま肩を続けるように促すと僕たちの方を振り向いて丁寧にあいさつした。


「お早うございます。…。いよいよ明日から商隊の護衛任務になる。今日は、あまり無理をせず、明日の準備を整えてくれ。特に、食料と水の準備は怠らぬようにな。凜は、洗浄のスクロールを1000本ほど作っておいてくれぬか。いざという時に商隊全員分を賄うことができるようにな。」


「はい。分かりました。」


 洗浄のスクロールは、物を洗うだけでなく飲み水としても利用できる。あんまりいい水ではないけど生きて行くため飲むと言うなら十分な品質だ。人は何かあっても水さえ確保できれば数十日は生きて行くことができる。その為の準備なんだろう。


「ねえ、ロジャー、多分レミが術式を構築したんだと思うんだけど、日本刀と槍錬を錬金できるようになったんだけど、どちらか使える?」


「儂は、元々無手ではなく、槍術を得意としていたからな。槍の心得はあるぞ。」


「じゃあ、槍を作ってみるね。日本のやりみたいだけど使い勝手はどうかな…。アルケミー・槍。」


 錬金には10分程かかった。日本刀よりも必要な時間が短くなっているのは、刃の部分の構造が似ているからかも知れない。


「できたよ。」


 僕は、ロジャーに出来上がった槍を渡した。


「ほほう。変わった槍だのう。只の棒のようだが先に刃がついておる。そして硬い木だがしなりがある。棒術の棒のように使うのか?」


「ごめん。分からないんだ。どう使うのかは資料が付いてなくて。ロジャーが使いやすいように使って良いよ。その使い方をみんなに教えてよ。」


「うむ。それなら後数本作ってくれぬか?投擲用としても試してみたい。もしも、大きさを変えることができるなら、太さは変えず長さを短くしたものを作ってくれ。短い物を5本と同じ長さの物を2本程作ってくれれば儂としても様々な使い方を試せるな。」


 短い物の作り方は分からないけど、錬金術師ギルドに行って聞いてくれば教えてもらえるかもしれない。


「分かった。同じものは今から作るけど、短い槍は作り方が分からないから錬金術師ギルドに行ってからでいい?」


「うむ。かまわぬぞ。それなら凜はこの後錬金術師ギルドに向かうのか?」


 そうか。錬金術師ギルドに行けば、術式の書き方を教えてもらえるかもしれない。他にも戦闘に使えるスクロールも見つけたい。


「それなら、サラも一緒に行ってあげて良いですわよ。」


「そうね。サラと凜で錬金術師ギルドに行って私たちは、食料の買い出しと、料理の手伝いをするわ。ティモさんに必要な材料を聞いているから市場が開く時間になったらすぐに買い出しを済ませて、料理作りをするわよ。出来上がる頃には戻って来てね。出来立てが美味しい物は凜のアイテムボックスの中で保存してもらうから。」


「それじゃあ、そんなのは最後の方に出来上がるようにしていてね。僕たちは、訓練が終わったら、錬金術師ギルドに行って昼過ぎには戻ってくるからさ。」


「分かったわ。仕上げの順番はティモさんにお願いしておくわ。じゃあ、訓練を始めましょうか。」


「はい。」


「うぬ。では、走ってくるのだ。身体強化を使わずにな。あっ、凛、お主だけは、身体強化を使って走れ。魔力量に不安がない上、体力がなさすぎるからな。」


「うっ、うん。頑張る。」


 門から出行こうとするとシモンさんたちが待っていた。


『ウッス。』


「訓練、ご一緒させて下せえ。」


「はい。行きましょう。」


 僕たちは、ランニングから筋力トレーニング剣術と武術の訓練を行った。シモンさんたちも一緒にするけど、基礎トレーニングはシモンさんたちの方が優秀だ。歳が上なのもあるけど、身体の使い方がうまいからだそうだ。僕たちが上なのは魔力の使い方だ。単純に訓練期間と使用回数の差だと思う。だから、だんだん差は無くなってくるだろう。


「シモンたちは、朝食は済ませているのか?」


「へい。俺と、マルコは、親父たちと一緒に食ってきました。フース達も済んでいやすんで、皆さんが朝ご飯を食べている間は、ギルドの訓練所に行って魔術の訓練をしてきやすぜ。訓練が終わったら市場の方に行きやすんで、旅の食事の準備をご一緒させていただいて宜しいでしょうか?材料費はきちんと払いやすんで。」


「かまわぬぞ。一鍋あれば12人分の食料としては十分だからな。ただ、鍋は多めに購入してこないといけないな。それと、パンも多めに買ってくるかのう。」


「へい。では、あっしらはギルドに行きやすんで。失礼します。」


 朝食が終わって、僕とサラは錬金術師ギルドに、他のみんなは市場に出発した。


 受付に行って資料室の使用願いの提出をして、錬金術式の書き替えの方法を教えてくれそうな人を聞いた。


「はい。ギルド会員以外が資料室に入る場合、使用保証料が一人金貨1枚になりますが大丈夫でしょうか。」


「はい。今、支払うんでしょうか?」


「はい。お願いします。」


「はい。これで良いですか?」


 僕は、アイテムボックスの中に入れていた金貨を1枚受付に出して、サラが資料室に入ることができるようにしてもらった。1回に付き金貨1枚ではなく、サラだったら次は金貨が要らないというのは救いだけど、金貨1枚は高いと思う。


 術式の書き替えについて教えられそうなのは、ギルマスだけだということで、僕はギルマスの執務室へサラは資料室ヘ向かうことになった。


「サラ、資料室の係のおじさんかお姉さんに攻撃用のスクロールの錬金術式かスクロールを探してもらって。」


「分かりましたわ。サラにませておいてくださいですわ。」


 ギルマスの部屋に通されてギルマスの前に座らされた。


「分かっていると思うが、ここで錬金術式について質問したり、書き換えたりすれば、ギルドに公開することになるがそれで良いのか?勿論いくらかの報酬は支払う。」


「公開で大丈夫です。実は、槍という武器の錬金術式を作ったんですが、この槍を短くしたくて、術式の書き替え箇所を教えてもらえないでしょうか?」


「実物と術式を見せてもらわねば何とも言えぬが、両方今持っているのか?」


「はい。ございます。でも、取り出すのに少し時間を頂いて宜しいでしょうか?」


「うむ。かまわぬ。術式の管理は大変だからな。」


 僕は、槍と槍の錬金術式を描いた紙を錬金した。10分程かけて槍を錬金した後、術式描いた紙を錬金した。まず、槍を取り出して机の上に置き、錬金術式を取り出した。


「この槍の錬金術式がこれになります。」


 ギルマスは、ぶつぶつと独り言を言いながら錬金術式を読み解いていた。


「うむ…、良く分からないところはあるが、大体理解できた。して、この術式を書き換えて槍を短くしたいのだな。どの位の長さにしたいのかな?」


「1.2m程でしょうか。」


「短くするのであれば、この場所だな。この部分の繰り返しが長さを決定しておる。その繰り返し数がこの古代数字だ。これを小さくすれば長さが短くなるはずだぞ。」


「あの…、どうやって書き換えたら良いのでしょうか?」


「リライトの呪文だ。」


「でも、この180の繰り返しを120にするのはどうしたら良いのですか?」


「まず、リライト次にリプレイス 180ウイズ120 で良いはずだ。」


「やってみます。」


「して、質問はこれだけか?」


「はい。」


「では、この錬金術式は、ギルドに公開するということで良いな。」


「はい。大丈夫です。ありがとうございました。」


「報酬は、金貨1枚程しか出せぬが、大丈夫か?」


「そんなに出して頂けるのですか?」


「うむ。武器の需要は高いからな。剣やナイフであればもっと高い報酬を渡せるのだがな。」


「とんでもないです。金貨1枚も出して頂けるのでしたら十分です。これから資料室に行かせてもらいます。」


「凛、良い錬金術式を手に入れたらできるだけギルドに公開してくれ。お主らのパーティーの活躍は聞いておるぞ。宜しくな。」


「それじゃあ一つ、いや、二つかな。攻撃用のスクロールの錬金術式をギルドに購入してもらえますか?」

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