第91話 パーティーメンバー

「ただ今。ロジャーさん、今帰りました。」


今日こんにちは。あっしらも、こちらに呼ばれて宜しいんですかい?」


「おう、みんな、こっちの部屋に入ってくれ。」


 沢山のお兄さん、お姉さんたち、子どもたちが中に入ってきた。


「レミ、ここにいるのが凜の仲間たちだ。」


「あなたはレミなんですの?サラは、凜との区別がつきませんわ。」


「みんな、初めまして。レミだ。皆に会えたこと嬉しく思う。私も凜同様、錬金魔術師の才を持っているが、凜ほど熟練度は高くない。皆にはいろいろと世話になったり、迷惑を掛けたりすると思うが、凜ともども宜しくお願いする。」


「レミ、なんかお貴族様みたいだぞ。」


「いや、既に廃嫡されている。貴族の身分など持たぬから、仲間として接して欲しい。皆と一緒だ。」


「その…、って何だ?」


「貴族の身分を取られてしまうってことだ。レミはそれまでは貴族だったんだよな。」


「多分、よく覚えていない。聞かれたから答えたが、口から勝手に出てきた感じだ。その時のことを思い出したわけじゃないんだ。」


「そうなのか。でも、レミも俺たちの仲間になってくれるのか。俺は、凜とは友達だけど、レミとも友だちになりたいぞ。」


「僕もだ。君の名前を教えてくれないか?」


「俺か?俺はフロルだぞ。」


「じゃあ、これからもあっしらに色々と教えてくれますか?あっ、あっしは、シモンでやす。」


「フロルにシモンだね。勿論、友だちになってくれ。そして僕が教えられることならお手伝いするよ。」


「じゃあ、凜でもレミでも一緒だな。名前が変わるだけか?」


「リンジー、それは乱暴すぎる。それに先ほどレミが言ったではないか。スキルや熟練度は凜とは違うと。喋り方も違う。そうだ。私はテラだ。このパーティーではリーダーだ。」


「俺、リンジーな。」


「俺は、リニだ。クリエートの魔術ができるから凜とはよく組んで物を作っている。」


「テラとリンジーとリニだな。宜しく頼む。」


「俺は、フースだ。それから…。」


「弟のルカスだよ。宜しくね。」


「フースとフースの弟のルカス。」


「俺はクーン。宜しくお願いします。先生!」


「シモンの弟のマルコだよ。」


「クーンとシモンの弟のマルコだね。宜しく。覚えたよ。」


「ところで、レミは、これから何をしたいのだ?私たちは、まず冒険者になることが目標だったんだ。冒険者のパーティーにはなることができた。でも全員が冒険者になるにはもう少し時間が必要なのだ。それで、今は、その準備をしながら、私たちの孤児院の退院生が今どうしているのかを確認することが当面の目標だ。」


「僕の目標かい。勉強がしたい。そして、何をしないといけないのかを考えたい。それで答えになっているかい。」


「うーん。勉強ってどうやるんだぞ?お貴族様は、家で勉強しているって聞いたぞ。」


「そうだね。貴族は、家庭教師を雇って家で勉強するけど、僕は地球の学校で勉強してみたい。色々なことを勉強してみたいんだ。」


「その勉強って言うのが終わるまで、向こうの世界で暮らすのか?」


「半々になるのかな。凜と僕で。凜も勉強したいだろうしね。勉強って言うのはなかなか終わらないらしいんだ。それに、勉強したことをこの世界で試したいしね。でも、あまりおもしろくなくて直ぐに帰ってくるって言うかもしれない…。それは、分からないけど…。凛ときちんと話して、話し合って決めるよ。向こうの父さんや母さんと暮らすのは安心だし、楽しいから。」


「向こうには、父さんと母さんがいるのか。いいな…、凜もか?」


「フロルのご両親はいかがなされたのだ?」


「俺の父ちゃんと母ちゃんか?覚えているのは、一緒に旅をしていたってことだけだぞ。俺は、この町の近くの森で見つかったってシスターに教えてもらったぞ。兄ちゃんがいたみたいだけど、父ちゃんたちと一緒に魔物に襲われて死んでいたんだぞ。」


「それなのによく生きていることができましたね。お父様たちが何かしてくれたのでしょうね。」


「シスターもそんなことを言っていたぞ。どうしてだかわからないけど、俺だけが生き残って、この町に連れてこられたんだぞ。だけど、母ちゃんは、良いにおいがした。それにとっても優しかったぞ。」


「そうなんだね。フロルのお母さんは優しかったんだ…。僕の母さんは…。だめだ…。やっぱり、何も思い出せない。」


「じゃあ、レミは、こっちの世界で何をしてみたいの?」


「こちらの世界でやってみたいこと…。今は、思いつかない。ただ、錬金術の熟練度はあげたいな。色々な物を錬金できるようになってみたい。向こうの世界でも、錬金術ってできるのかな…。もしも、向こうの世界でも錬金術ができるのなら、向こうの世界の道具をこっちの世界で作れるようになってみたいな。」


「向こうの世界って、魔道具がそんなにたくさんあるの?」


「魔道具じゃないんだけど、凄い物がたくさんある。でも、こっちの世界で錬金できるかは分からないんだ。出来たらすごいと思うんだけどね。」


「凛じゃなかった、レミは、今どんなものを錬金できるんだ?」


「リンジー、それが分かったら苦労しないんだ。今できるのは、スクロールが何種類か。それと、コテージ。ロジャーさんのコテージを錬金できたよ。」


「コテージを作ることができたのか?それは、見えなくなる奴なのか。それなら凄いぞ!」


「そう。見えなくなるコテージだ。そうですよね。ロジャーさん。」


「うむ。そうだ。上手く錬金できておったぞ。魔石さえ手に入れてくれば直ぐに使える出来であった。」


「レミ…。それだったら、凜と同じように、私たちとパーティーを組んで、冒険ができると思うぞ。素材は、私たちが集めてくるから、レミは、冒険に出ることができるように訓練しながら、後方支援をしてくれないか?」


「テラ、ありがとう。今は、知っている人が誰もいないからそう言ってもらえると嬉しい。でも…、思い出せない何かでみんなに迷惑かけるかもしれないことが心配だ。」


「お主を守るために、自らの命を懸けてくれる騎士殿がいたのだ。お主は、決して罪人などではないから安心して良い。何事かに巻き込まれていたということは、間違いないであろうがな。」


「ロジャーさん。その何事かを知るのが怖いのです。僕には、その覚悟ができていないのかもしれません。マティアスの命を奪った何事かは、僕に関わることだと思うのです。それを受け止められるのか、不安なのです。」


「多分そうなのであろうな。それが、レミの記憶を封じておるのだろう。しかし、いずれは、対峙する必要があると思うぞ。レミがそれが今ではないと思うのならしばらく待つこともやぶさかではない。凜もこちらの世界で活動したいと思っているようだからな。だが、お主に覚悟ができた時は、お主と共にお主に関する何かを見出すことを約束しよう。だから、安心して良い。お主の騎士殿とも約束したからな。」


「ありがとうございます。きっと、覚悟を決めて帰ってきます。それまで、凜として、こちらの世界で生活させてください。凜が、向こうの世界に戻りたいと言う時には、僕がこっちの世界に戻ってきます。僕だけの為じゃなくて、皆の役に立つような知識を身に着けて戻ってきますからそれまで宜しくお願いします。」


「それは、俺たちもお願いしたいことだ。凛と活動できるようになって、俺たちのパーティーは、目まぐるしく変わったからな。魔物との戦い方も、素材の集め方も、お金の稼ぎ方も。だから、凜が異世界に戻ってもレミが一緒に活動してくれるなら心強いと思う。」


「僕で良いなら、頼みます。凜みたいにできるかは分からないけど、とにかくできるだけ勉強してくる。この世界とは違う世界のこと。それに、錬金術も練習するよ。」


「うん。凛とレミ、二人?一人?どうなるのかな…。いいや、二人とも、仲間だよね。なあ、みんな。」


『うん!』


「レミ、間違いなく、私たちはレミも仲間だと感じている。少なくともそうなりたいと。」


「そう言うことだとさ。レミ、心配せずとも良い。仮に、お主が大きな闇に包まれることがあったとしても、仲間が光のある場所に導いてくれるだろうよ。恐れるではない。」


 何故だろう。ロジャーさんの一言に涙が出てきてしまった。でも、こちらの世界にも僕を光に導いてくれる仲間ができた。そう感じた。


「皆さん、夕食の準備ができましたが、食堂の方にいらっしゃいませんか?」


「そうか。では、皆食堂に行こうではないか。レミ、お主にとっては、久しぶりのこちらの世界での食事だ。朝も食べておらぬからお腹が空いているであろう。」


「う…うん。」


 それだけ答えて、みんなと一緒に食堂に行った。こっちの世界で食べた食事は、多分、母さんの退院祝いの次位に美味しかった。


 食事後、アイテムボックスの中の凜からの手紙を見つけた。


「今晩、凜が戻ってくると手紙に書いてあった。魔力切れになるなら、ベッドの中にいることができる僕の方がいいと思う。何か、魔力を沢山使うような錬金術はないだろうか?」


「それなら、今からギルドの倉庫に行って魔石炭もどきを取って来て薪型燃料を作ったら良いと思う。リニも一緒に行ってあげたら?」


「分かった。レミ、一緒に行くぞ。今から急いでギルドに行けば、間に合うと思う。着いて来てくれ。」


 それから、慌てギルドに向かった。ギルドでは、リニが受付で話をしているのを後ろから眺めていた。ほんのいくつかしか歳が変わらないリニがギルドで職員の人と対等に話している。無理を言っているのは分かる、頭を下げながら、倉庫にある素材を受け取りたいとお願いしている。


 リニが僕の方を向いて小さな声で言ってきた。


「レミ、今からお前は、凜だ。いいな。」


「分かった。」


 受付から職員の男性が出て来て、僕たちを連れて行く。


「もうすぐ王都への燃料移送ですから、できるだけたくさん作っていただいた方が良いのですが、もう少し計画的に素材を準備して頂くと助かります。」


「はい。次からは計画的に、作ります。」


 リニがそう答えた。


「すみません。お手数かけます。」


 僕は、ただ謝っただけだった。


 倉庫で魔石炭もどきを入れることができるだけ収納した。魔力減った感じはしなかったけど、素材は十分に確保できた。


「倉庫で製造なさいますか?」


「いいえ。パーティーハウスで錬金します。ありがとうございました。納入は明日ということでお願いします。」


 素材を手に入れた後、パーティーハウスに戻った。


「まず燃料を錬金できるかどうか試してみたら良い。」


「リニにそう言われて試してみた。アルケミー・薪型燃料」


 魔力が吸われた感覚はなかったけど、薪型燃料が1本できた。その燃料を取り出して、リニに見せた。


「燃料の出来は良いのだけど、1本ずつ作るんじゃなくて、束で作るんだ。凜も、1000束とかの単位で作っていた。アルケミー・薪型燃料千束とかの錬金だったぞ。」


「束の単位で錬金するのだな。分かった。やってみる。アルケミー・薪型燃料千束。」


 魔力が減っていくのが分かった。


「できたみたい。どの位作ったら良いのかな?」


「凜は、2万束は作ることができたと思う。やってみれば良いぞ。」


「レミ、待つのだ。魔力切れになれば倒れてしまうからな。1万束を作ってみて、その様子を見ながらベッドの中で残りの燃料の錬金に取り組むようにな。」


「分かった。まず、1万束だな。やってみる。アルケミー・薪型燃料1万束」


 椅子に座ったまま、僕の意識は暗い闇に吸い込まれていった。







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