第89話 地球での錬金術
宿屋のベッドに横になると燃料の錬金を始めた。パーティーハウスに戻らず、ロジャーと一緒に街に宿に泊まることにしたからだ。ギルドの倉庫で2万束の燃料を錬金してきた。残っている魔力はわずかだ。その魔力をすべて使って、燃料を錬金する。魔力がなくなって、意識も暗闇に吸い込まれて…。
僕は、ソファーに座ってテレビを見ていた。時刻は…。11時30分。僕がベッドの上に横になったのは、日が暮れて1時間もたっていなかったから…。こっちの時間だと夕方の6時くらいかな…。
「レミ、昼ご飯は、オムライスで良い?」
母さんが台所から出てきた。
「ただ今。凜だよ。レミは、マティアスとのお別れに行ったよ。」
「凛!凜なのね…。お帰り。」
母さんは、僕のことをじっくりと観察して…。
「怪我したり病気になったりしていなかった?」
「大丈夫だったよ。元気だった。でも、前、帰って来てからまだ5日もたっていないよね。」
「それはそうだけど、凜ったら手紙書くって言って私たちには何も連絡よこさないでしょう。心配するじゃない。レミに手紙書いてるって言うことは元気なんだろうなとは思っていたけんだけどね。それに、凜の体のレミがいるから凜が居ないことを忘れちゃうのよ。」
「なんか変なこと言っていない?」
「だから、毎日手紙をよこしなさいってこと。今日も元気だよって言うだけでも良いから。」
「じゃあ、学校みたいな連絡ノートを作ろうかな。それに、一日の出来事を書くようにするよ。それで良い?」
「それで、良いわ。そうしたら、レミに出してもらって、こっちのことを書けるわね。それなら凜も安心でしょう。」
「じゃあ、明日からそうするよ。あっ、待ってね。レミに連絡を書いておくからさ。」
僕は、レミにマティアスさんとのお別れが終わってこっちに帰ってくる準備ができたら、知らせるようにという内容の手紙を書いてアイテムボックスにコピーした。
「あっ、そうだわ。レミね、明後日から学校に行くことになってるのよ。教えてたっけ?」
「学校に行くって言うのは聞いていたけど…、明後日から登校するんだね。大丈夫かな…。まあ、僕が行っても同じようなものだけどさ。友だちもいないし…。」
「そうね。凜は、幼稚園にもほとんど行ってないしね。」
「知り合いは何人かいるよ。でも、もう、何年も会っていないかも…。病院を変わってから、引っ越ししたでしょう。学校も変わったしさ。だから、今の学校じゃあ、友だちって言うのができてなくてさ。まあ、もうすぐ中学校に進学するからそれから友達作っても遅くないかな…。だから、レミが友達作ってくれても良いよ。そう言ってて。」
「レミちゃんに友だち作ってもらおうなんて考えてるんじゃないでしょうね。」
「いやいや、そんなこと考えてないよ。それに、僕は、向こうに友だちできてるからね。レミも友だちができたら良いと思っているだけだよ。」
「まあ、いいわ。レミも凜も友だちたくさん作って家につれて来なさい。楽しみにしているわよ。」
「流石に、異世界から友だち連れてくるのは無理だと思うけど、こっちの世界の友だちも作るように頑張るよ。話は変わるんだけど、僕がこっちの世界に来たのは、11時30分位だったんだよね。そして、僕が向こうの世界から離れたのが夕方の6時位だと思うんだ。」
「そうなの。異世界とこの世界って6時間30分位の時差があるのね。」
「時差?」
「異世界の一日がどの位の長さかは分からないけど、一日が24時間なら、日本の午前11時30分が向こうの世界の午後6時なんでしょう。日本よりも6時間30分時間が進んでいるって言うことよね。」
「そうか。一日の長さが違うかもしれないのか…。」
「母さん。お昼ご飯まだなの?レミ、凜からの連絡はまだないのかい?」
「お昼ご飯はオムライスにしようと思うんだけど、良い?凜は今戻って来てるわよ。」
「凛?あっ、お帰り。」
「ただ今。で、オムライスで良いの?蘭も、オムライスで良いんでしょう。」
お昼ご飯は、オムライス。オムライスは美味しかった。僕は、大好物かもしれない。まあ、こっちの世界で、今まで食べ物を美味しいって感じたことがなかったから、何を食べても大好物になってしまうかもしれないけど、食べ物がおいしいのは嬉しい。そうだ。これって、錬金術で作れるようにならないかな…。
「母さん。オムライスの材料ってまだ残っている?」
「それから、オムライスもう一つ作ってもらえないかな。錬金術で作ることができるかどうか試したいんだ。」
「あっ、それなら無理みたいよ。レミが散々試してうまくいかなかったようなの。」
「クッキーなんかもできなかった?」
「お菓子を作った時は、うまくいったことがあったわ。でも、料理は難しかったみたいよ。何が違うんでしょうね。」
「そうなんだね。何が違うのかな…。材料かな。」
アイテムボックスの中を確認してみると粘土やインク、家にあった家電製品などが沢山詰め込まれていた。レミは、一体何をしていたんだろう。もしかして、アイテムボックスを倉庫代わりにしていたのかな…。
「ねえ、父さん。アイテムボックスの中にいろんなものが入ってるんだけど、どうしてなの?」
「ガラスのコップみたいに作れないか試している所だよ。でも、材料がそろわないからか、アナライズまでは成功する物が少なくないのだけど、コンストラクションか、それまで成功する物は極端に少なくなって、アルケミーができたものは、無いんだ。実験中だよ。」
「アナライズできるのにコンストラクションができない物があるのは不思議だね。もしかしたら錬金術の熟練度の問題かもしれないよ。」
僕は、部品数が少なそうで、錬金術式ができていないものを探してみた。錬金術の熟練度は、地球に持ってきているのか、異世界にあるのかは分からない。僕の記憶の中にあるのか、身体の中なのかは分からない。でも、レミにできないコンストラクションができるなら熟練度は僕が保持していることになる。
一番、部品が少なくて、素材をそろえることができる物。父さんに聞いてみよう。
「ねえ、今から出すものの中で一番部品が少ない物って何かな?」
「出してごらん。」
以前ゲームが壊れた時、蓋を開けてみたけどポケットゲームってとにかくたくさんの部品が詰まっていたから、部品の多さは大きさじゃないよな。
まず、古い扇風機。そうだ、自転車ってうちにあったかな…。その材料の古いタイヤや鉄くずは買ってきてもらえるかな…。
「ねえ、父さん。古タイヤと鉄くずやアルミなんかの金属素材、機械用の油はなんかを買ってきてくれない。車まで運んでもらったら、僕が収納するからさ。それから、自転車って
「自転車か…。母さんの自転車ならあるぞ。スポーツタイプの物はないな。」
「マウンテンバイクみたいなのがあれると良いんだけど。それに、ゴムってどこにでもある素材なのかな?」
「生ゴムは、熱帯地方で育つゴムの木の樹液だからどこででも手に入れられる素材ではないだろうな。ちょっと待ってろ、調べてみる。」
父さんがタブレットでゴムについて調べている。
「あっ、あったぞ。天然ゴム以外で車輪なんかに使われていてどこにでもある素材でできているゴム。シリコンゴムだな。天然ゴムのように使えるみたいだけど、石油を使った合成ゴムの方が主流みたいだな。こんなものかな。」
「そのシリコンってどうやったら手に入るの?」
「この前集めた砂に含まれているケイ素って言うのが原料のはずだぞ。」
「じゃあ、もしかしたら、砂があればそのシリコンゴムのタイヤを作れるかもしれないんだね。」
「できるかもしれないな。シリコンゴムでできた小さな車輪なら
「その戸車って言うのを貸してくれない。」
家にあるアルミ缶やスチール缶等、不要で金属素材になりそうな物を全て収納した。その他にも古いパソコンの部品なんかも収納して素材にすることにした。色々な金属を取り出すことで素材にできるはずだけどどうしたらできるんだろう…。不明だ。知らない魔術は使えないから今回は無理だ。
色々な物を収納してシリコンゴムでできた戸車を作ってみる。パーツも多くないから大丈夫だろう。
「アナライズ。」
まずは、戸車の分析だ。こんな小さな部品なのに20分もかかった。形や大きさだけじゃなくてシリコンゴムって言うのを分析するのに時間がかかったんだと思う。父さんから事前に情報を聞いてなかったらできなかったかもしれない。鉄とケイ素、それにお酒と燃料用アルコールも素材に入るみたいだ。料理素材で調理酒を分析したことがあったのが良かったようだ。
「コンストラクション。」
錬金術式ができた。
錬金術式ができたら錬金だ。
「アルケミー・戸車。」
魔力が吸われる。小さな部品を一個錬金しただけなのに…。シリコンゴムを作るのにたくさんの魔力が使われたんだと思う。
「次は、何にしようか…。できるだけ単純な素材でできているもの…。ねえ、やっぱり、自転車を作ってみたい。レンタサイクルでマウンテンバイク借りに行こうよ。向こうの世界で作れそうな物だからさ。もしかしたら、ロジャーが持っているマウンテンバイクを参考にしたら作れるようになるかもしれないからね。」
他に、僕が作れるようになりそうで、向こうにない物。何があるかな。向こうの世界で役に立ちそうで、こっちの世界で作れる物って何があるかな…。火薬…。火薬は、似たものがスクロールで作れる。攻撃力が高いものか、防御力が高い物ってあるかな…。
「ところで、凛は、今から素材集めに行きたいのか?それとも、この前できなかった退院祝いをするか?」
「おにいたん。御馳走食べに行こう。」
蘭に言われるとそうしないといけないな。まあ、良いか。素材探しと錬金術はレミに任せよう。
「そうだね。御馳走食べに行こうか。」
今日の晩御飯は、家族で退院祝いだ。僕の退院祝いはしていないからね。
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