第88話 凛とレミ

「お早う。ん?どうした」


「お早う。父さん。…、凜から手紙が来た。マティアスとのお別れに来てくれないかって。」


「それで、どうしたいんだい。」


「マティアスとのお別れはしないといけないと思う。僕を守って命を落としたのだから。きちんと感謝の言葉を伝えたい。でも、怖いんだ。思い出せないことを思い出すことが。」


「でも、直ぐに戻ってくるんだろう。もしも、思い出したくないことを思い出したとしても、凜たちが何とかしてくれる。頼りになる仲間ができたようなことを言っていたからな。」


「それは、凜たちに都合の悪いことかもしれない。」


「そうかもしれないが、それはそれで、知っておいた方がいいと思うぞ。」


「そうなんだろうけど…、…。うん…。分かった。何か、思い出したら、全部話すよ。お別れに行く。」


「行っておいで。きちんとお別れしてくるんだよ。」


「あら、お早う。昨日の温泉の話?」


「お早う、母さん。凜から手紙が来たんだ。僕を守ってくれたマティアスとのお別れに来て欲しいって…。僕行ってくるよ。」


「でも、明後日からは、学校よ。金曜日にご挨拶に行ったでしょう。」


「お別れが終わったらすぐに帰ってくるよ。母さんたちも凜と色々とお話ししたり、退院のお祝いしたりしてあげてしてね。でも、やっぱり僕、学校には行きたいな。」


「分かってるわ。学校に行きましょうね。凜は、向こうの世界でやりたいことがあるって言ってたから、替わりにレミがお勉強してきて頂戴。」


「まだ、明後日からだからね。もしも、僕が戻ってこれなかったら凜が行くから大丈夫だよね…。じゃあ、凜に手紙を書くね。いつ行くことになるかは分からないから、暫くは出かけられないかな。」


 いつでもお別れに行くことができることを手紙で知らせた。凜からの手紙を見つけたのは今朝だけど、いつ書いたのかは分からない。僕の手紙を確認したら、その日の夜に転生するって書いてあった。僕が転生した時間が向こうの夜だ。


 書いた手紙をページコピーして、テレビを見たり、本を読んだりして過ごした。そろそろ10時かな…。



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 ギルドでは、希望の光という冒険者が護衛していた少年たちを見捨てて逃げたことを報告した。ギルマスは、ギルド本部に報告し、確認した後だが、逃げた冒険者にはペナルティーが課せられるだろうと教えてくれた。ただ、冒険者の雇い主が護衛指示を行い、それに止む無く従ったのであれば、その限りではないそうだ。


 連れてきた少年たちにも事情を聴いた。王都で働くために移動していたこと以外何も分からなかった。ただ、働きに行く為にと、契約書みたいなものに名前を書かされて、幾らかお金をもらったそうだ。そのお金で、王都で必要な衣類などを購入したということだった。ミラが神父様に強要されたこととをしているようだ。


 少年たちは、ギルドが責任をもってこの町に留まることになるそうだ。今回、少年たちを見捨てて逃げた以上、商隊の責任者と冒険者が戻って来て引き取ることはないだろうということだ。


 今回の救援と魔物の討伐については、少年たちの証言もあり、何の問題もなく認められた。もちろん討伐証明部位というより、討伐された80体近いフォレストウルフの死体とシロッコの死体がある。全てを出すと処理場に入りきれなくなるため、次々に保管庫に運び込まれる。


「おい。お前たち、この数のフォレストウルフとシロッコを討伐したのって…、お前たち12人でだよな。」


「そうです。まあ、シロッコを倒したのは主にロジャー様ですが。」


いや、今回は、連携しているフォレストウルフを退しりぞけなくば、シロッコは討伐できなかった。儂一人なら、フォレストウルフを討伐しながら逃げておるよ。シロッコも含め、討伐できたのは、二つのパーティーの力があってこそだ。」


「ロジャー様がそうおっしゃるのならそうなのだろうよ。お前たち、最低でも、Cランクパーティーの実力はあるということだ。シロッコ討伐に参加できるのだからな。」


「イヤイヤ、そんな、Cランクパーティーの実力なんて…、先月パーティー登録したばかりなんですぜ。今回も、シロッコ討伐に行ったんじゃなくて、初の野営訓練に行って巻き込まれただけでやすからね。」


「シモンよ。謙遜せずとも良い。お主ら、少年たちの護衛と今回の討伐立派に役目を果たしていたぞ。」


「反省会は、後でパーティーでやってくれ。査定額なのだが、素材は全てギルドに卸してくれるのか?」


「儂はかまわぬが、テラとシモンはどうだ?」


「「お願いします。」しやす。」


「では、正確な査定額は、後ほど知らせることにする。そうだな。概算で金貨100枚は下るまい。ほとんどのフォレストウルフの毛皮の傷が少ない。魔石の回収も期待できる。それ以上にシロッコが大きいからな。以前、ロジャー様が討伐したシロッコよりも一回り大きな個体だ。これだけでも金貨50枚近い値が付くだろう。魔石の売値を加えれば、金貨60枚を超えるかもしれぬ。そういう訳で、金貨100枚越えだ。」


「では、あの少年たちに、金貨2枚ずつつを危険手当として渡してくれ。王都に着いた時、借金の利子の支払いを迫られるはずだからな。まあ、あの子らを見捨てて逃げ出した商隊長がなんと報告しているかにもよるがな。」


「あの少年たちは、今回の燃料輸送隊と一緒に王都に行くことになるの?」


「あの子ら次第だ。ただ、この町で生きているということが王都に知れると困ったことになる可能性はあるのだ。あの子らがどのような契約をしているのかによって変わるのだがな。そして、都合が悪いことに、冒険者ギルドには、この少年たちが生きていていることを報告し、あの子らを置き去りにした冒険者パーティーを見つける義務がある。つまり、この子らが生きていることが契約者に分かってしまうということだ。」


「だから、危険手当を渡すの?」


「そうだ。その金がないと多分困ったことになる。お金を借りて、返すことができないことになるからな。」


「でも、あの子たちは、服を買ったくらいなんでしょう?それなのに何で金貨2枚も準備しておかないといけないの?」


「あの子らが、自分たちの町を出て何日くらい経過したかにもよる。王都までの護衛費用や食料費、金利が上乗せされるはずだ。その全てを請求されたら金貨2枚では足りぬかもしれぬが、護衛費については、ここに置き去りにされたことで発生せぬ。違約金を受け取ることはあってもな。食糧費も同様だ。残りは金利と出発前に必要な物を購入した費用。それは、銀貨1枚にもならぬだろうとおもう。それさえ持って居ればなんとかなるはずだ。」


「本当に大丈夫?」


「もう一度、この商隊に参加する前に貰った金額は確認しておく必要はあるがな。」


 そんな話が終わってアイテムボックスを確認した。


 レミから手紙が届いていた。僕たちが、ギルドに行って今回の出来事を報告している時に送られてきたんだろう。


 日が暮れるまではまだ時間はある。レミのことをみんなに話さないといけない。


「ロジャー、レミからの手紙が届いていた。僕とレミのことみんなに話すね。」


「うむ。では、ギルドの会議室を借りることにするか。」


 ロジャーにギルドの会議室を借りてもらって、メティスの福音とシルバーダウンスターのみんなに集まってもらった。


「僕から、みんなに話があるんだ。僕ことなんだけど…。」


「どうしたんですかい?先生は、先生ですが、この辺りの子どもとは全然違いやすからね。普通じゃないのは分かってやしたよ。」


「そうかな…。まあ、それでも一緒に活動してくれてたんだから、そう思われてても悪いって言っているんじゃないん多けど、普通じゃないって言うのはその通りなんだよ。そのことを話すんだけど聞いてくれる?」


「…。」


 みんな、頷いてくれた。


「僕、凜なんだけど、凜は、こっちの世界、夜欠けた月が見えるこの世界の人間じゃないんだ。僕の世界の月は、満月は丸で欠けたところなんてないんだよ。」


「凛は異世界から来た人だということなのか?」


「凄い!この世界と凜の世界はどこが違うの。教えて欲しいですわ。」


「あの…、みんなに伝えたいことはそのことじゃなくて、僕は、僕だけじゃなくて、何て言ったら良いのかな…。こっちの世界の僕は、凜じゃなくてレミって言うんだ。今までは、レミは僕の世界に行っていてこっちの世界に来ることができないかったんだけど、こっちの世界に戻ってくることができるようになったんだ。」


「こっちの世界の凜は、レミって言うのか。それで、レミって誰なんだ?」


「実は、レミが誰かが良く分からなくて…。思い出せないんだよ。レミもそうなんだって。」


「呪いかなんかなのか?ロジャー様、そのような呪いがあるのでしょうか?」


「さて、リンジーが言うような呪いとやらは聞いたことがないな。」


「そんなことよりも、話の続きを聞いてくれない。」


「えっ?続きがあるのか?」


「そう。それで、そのレミにこっちに来てもらうことになったんだ。ギルドの墓地にレミを守ってくれた騎士様を埋葬するために。」


「レミを守ってくれた騎士様って、レミはお貴族様か何かなのか?」


「それは、分からない。レミが自分のことを覚えていなくて。その騎士様は、マティウス様って言うらしいのだけど、それしか覚えていないんだって。それで、レミがこっちの世界に来ている間に、王都に向かうための準備をしていてくれないかなって言う話なんだ。」


「ちょっといいか?」


「何?テラ。」


「凜は、向こうの世界に行って、そのまだ会ったことがないレミがこっちの世界で生活することになるのか?」


「違うよ。レミがこっちの世界に来るのは、騎士様の埋葬の為だよ。それが終わったら向こうの世界に戻るんだ。レミは、向こうの世界で学校に行きたいって言っているし、僕は、こっちの世界で冒険がしたいんだ。王都に行くのは僕だよ。」


「そうなのか。では、どうして、私たちに話すのだ?凜とレミが入れ替わるのが少しの間だけなのなら黙っていても良かったのではないか?」


「みんなに秘密にしていたら、他にも隠さないといけないことが出てきそうでさ。僕たちのパーティーの為に話すことにしたんだ。それでさ、レミがこっちの世界に来ている間、テラたちで王都に行くための準備をしていてくれないかな。ロジャーと僕じゃない僕は、騎士様とのお別れをするからさ。」


「分かった。それから、凜の世界のこともこれから教えてくれ。楽しみにしておく。」


「サラも楽しみですわ。でもレミのことも気になりますわ。凜が向こうに行っている間は、私たちの仲間になるのですか?」


「僕は、そうなって欲しいって思っているけど…。レミのことも宜しく頼むね。」


『勿論。(です。)(ですわ。)』


「俺に任せておくんだぞ!」


「今回は、私たちは、王都への燃料運搬の護衛の準備をするんだけどね。」


 みんな、僕のことを信じてくれた。これで、安心してレミを呼ぶことができる。

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