第87話 討伐完了

 魔物の集団が現れた。50匹は居る。その中央に居るのはシロッコだ。目一杯粘着網を使って、活性化する前のシロッコを倒したことはある。でも、それは、動かない時に動けなくしていたからだ。目の前にいるシロッコは、当然動いているしエアカッターも使ってくる。エアカッターは、僕たちが撃ち出した粘着網を只の粘液に変えてしまう。網は、四散して辺りにベタベタ貼り付くだけだ。


「凛とシモンで狼たちを頼む。儂とフロルでシロッコに対応する。フロル。移動を止めるのではないぞ。シロッコの注意を引くために鉄球で攻撃してくれ。」


「でも、狼がシロッコと連携してくるぞ。」


「お主は、お主の仕事を果たせば、大丈夫だ。儂に任せておけ。」


 フロルが、シロッコに鉄球攻撃をする。大きなダメージを与えているわけではないが、十分嫌がっている。手下の狼をフロルにけしかけて自分への攻撃をされないようにしている。


 僕は、だんだんと忙しくなって来てフロルとロジャーの戦いを見る余裕がなくなってきた。前衛の3人は今は大活躍している。前線が崩れていないのはリンジーたちの働きがあるからだ。その分、幾分かのダメージは受けているようだ。後衛にいたテラは、塀の一番前に出て来て、怪我したテラやリンジーを即座に治療している。


 今では、フロルとロジャーが最前衛、リンジーたちが前衛、テラたちが中衛で回復役、僕とシモンさんが後衛で魔物の動きを止める役目になっている。


「凛!こっちのフォレストウルフの動きを止めてくれ。シロッコとの連携を邪魔するのだ。」


 フォレストウルフの数が半分くらいになった頃ロジャーから指示が降りた。


「分かった。任せて!」


 僕は、シロッコの周りにいる狼たちを次々に粘着網で絡めて動けなくした。


「フロル。クナイでシロッコの眉間を狙え!」


「はい。」


 フロルがクナイでシロッコの眉間を狙いだした。シロッコはクナイを避けるためフロルの方に意識を向けだした。当たりそうなクナイにエアカッターを2発3発とぶつけて当たらないようにそらしている。


 シロッコがロジャーから一瞬だけ意識をそらした。ロジャーは縮地でシロッコの死角に入り込んで鉄球での攻撃を始めた。当たってもダメージの少ない鉄球を恐れ、反応して逃げ回るシロッコ。ロジャーが何かやっているようだ。


 ロジャーからの攻撃に過剰に反応しているシロッコだったけど、眉間に向かって放たれるフロルのクナイも無視するわけにはいかない。かろうじて魔法でそらしているけど、余裕がない。


 僕は、シロッコの側に近寄っていく狼たちを粘着網で絡めて行った。狼の数はかなり少なくなっている。つまり、シロッコの盾になってくる狼が居なくなってきたということだ。


「フロル、クナイを続けて放つのだ。」


「ハイだぞ。」


 フロルがクナイを連投する。移動しながらトロッコの眉間めがけて投げる。


 シロッコはたまらず横に飛んだ。


『ビュシュッ』


 シロッコの右斜め後方から現れた投げ斧が首を落とした。シロッコは息絶え、率いられ、連携していた狼たちの動きはバラバラになり、次々に討伐されて、一部は森の方に逃げ去っていった。


「ロジャー様、シロッコが現れた時、商隊の責任者たちは、冒険者たちと一緒に逃げて行きました。倒れていた馬にヒールをかけて何とか走れるようにして、少年たちは、取り残されていますが…。」


「そうか。馬車を軽くして逃げたか。思った通りの奴らだったか…。」


「今から、この狼の群れを片付けるぞ。とどめを刺しておかないとまた採集者や旅人が襲われる。」


 全員で狼たちにとどめを刺していく。血抜きまでしていては、次の魔物がよってくる可能性があるため、できるだけ出血がないようにとどめを刺さないといけない。少し可哀そうな気がするけど、この魔物たちは、獣とは違う。人を餌だと認識している。獣よりも多くの魔力を持つ人を肉として、魔力の元として襲う。


 全てのフォレストウルフに止めを刺してフロルと僕、ロジャーで収納し終わる頃には、月が傾き、朝になろうとしていた。僕たちは、保護した少年たちを連れて、コテージに戻った。


「テラよ。サラとあの少女たちと一緒に儂のコテージで休め。お主らのコテージに並べて建てれば同じ結界の中に入るだろう。男連中は、お主らのコテージで休ませる。」


「分かりました。」


 僕たちのコテージの方が少し広い。それでも男が全員入ると13人だ。流石に混み合う。少し窮屈だったけど中に入ると直ぐに全員眠ってしまった。目を覚ますとロジャーがのんびりとお茶を飲んでいた。


「目が覚めたか?よし。そろそろ全員起こして町に戻るとするか。」


「みんなを起こす前に話があるんだ。」


「ん?なんだ。」


「レミと連絡が取れるようになったんだ。それで、僕があまり覚えていない騎士のことを聞いたら、老騎士の名前はマティアスでレミを守ってくれていた人だって。お墓を作って欲しいって言うことだけど、お墓に花をたむけたいってさ。」


「それは分かったが、皆が起きてくる前に話したいこととはなんだ。そのことならそんなに急ぐことではあるまい。」



「お墓を作るなら、レミに来てもらった方が良いかなって思うのと、この街に作るなら、王都に行く前がいいかなと思ってさ。」


「レミに来てもらうとはどう言うことだ?」


「言ってなかったけど、レミと入れ替わる方法が分かったんだ。」


「ふーん。それは、わかった。して、レミと入れ替われるようになったことと早急に騎士殿の墓を作ることにどのような関係があるのだ?」


「あれ?ロジャーのストレージって、騎士様の遺体ってどんどん傷んでいくんじゃないの?」


「その心配はいらぬ。少しずつだが、魔力を回しておるからな。それに、一度は、洗浄のスクロールできれいになってもおらっておる。だだ、ずっとストレージの中にいてもらう訳にはいかぬとは思うがな。」


「そうなんだ。それならそんなに慌てる必要はないのかな。でも、一度は、ロジャーとレミは話していた方がいいんじゃないかな。」


「うむ。そうだな。しかし、この町の墓地を冒険者ギルドが持って居れば話は早いのだが、教会が持っているのなら、少しややこしくなるかもしれぬな。」


「墓地って冒険者ギルドが持っていることもあるの?」


「墓地は、死霊やゾンビなどにならぬように結界が貼ってある場所だからな。教会や冒険者ギルドが管理・維持しておるのじゃ。」


「それって直ぐに確認できるかな?」


「ギルドに戻って聞けばすぐに済むことではあるな。それで、どうやって入れ替わると言うのだ?」


「それで、僕が魔力を使いきって気を失ったら、僕は向こうの世界に行って直ぐに活動できる。でも、こっちに来たレミは、魔力が復活するまで何もできないんだよ。」


「うむ。そうなのか。では、お主が、寝る前に魔力を使い切れば、起きる時には、レミがこちらで目を覚ますということだな。」


「そう。それで、レミが良ければ、明日か明後日にでもと思っているんだ。明日と明後日で王都へ行く準備をするでしょう。それをテラたちに任せて、レミとロジャーで埋葬ができたらと思うんだけどどうかな?もちろん、墓地が冒険者ギルドの管理だったらだけどね。」


「そうだな。テラたちに話しておけば、大丈夫であろう。しかし、凜とレミのことをメンバーに話すのか?」


「う…うん。みんな僕のことを変だって思わないかな。」


「変か…。確かに、側に凜ような特別な者はおらぬだろうな。しかし、特別すぎて変だとは思わぬだろう。不思議だとは思うだろうがな。良く分からぬのではないか。凛とレミの区別がつくかも分からぬな。」


「じゃあ、僕とレミのことを話して、王都行きの準備をお願いしてからレミと入れ替わることにする。」


「うむ。そうしてくれ。パーティーには、秘密は少ない方が良い。」


「でも、その前に、レミに手紙を書いて返事を貰ってからにする。」


「では、その返事が来たら教えてくれ。ただし、墓地が、冒険者ギルドの管理だった時だけだということを伝え忘れるな。そう言うことにして、皆を起こすぞ。」


「うん。あっ、手紙を書いてからでいい。」


「直ぐに書き終えるのか?」


「うん。直ぐに書き終わるよ。」


 僕は、レミに準備ができたら、マティアスさんとのお別れに来て欲しいと手紙を書いた。墓地が冒険者ギルドの管理ではない時は延期しないといけないことも書いた。書き終えると手紙をページコピーしてレミが読むことができるようにする。暫くは、頻繁に手紙をチェックしないといけない。


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