第86話 会敵

「私が乗るはずだった馬車…。」


「そう。王都へ働きに出るお主を乗せて行くはずだった馬車だ。一度町を出た馬車に予定の変更の連絡などできようはずもないからな。」


「もしかしたら、日程を調整してリニも乗せて行く予定だったのかもしれぬな。だから、こんな森の側の草原などでゆっくりと野営などしていたのであろう。」


「そんなに長く草原にいたのですか?」


「うむ。かれこれ3日程この辺りをウロウロしていたようだ。」


「どうしてでしょう。真っ直ぐ町にくれば、宿泊施設もあるでしょうに。」


「町に入れば金がかかる。それ以上に人目に付くことを嫌っているようだのう。そんなことより、このコテージの場所に目印を付けて置いたまま、馬車が立ち往生している場所に行くぞ。」


 ロジャーの指示で、僕たちは馬車が立ち往生している場所に向かった。全員、身体強化で、かなりのスピードで走っている。風の音で会話がしにくい。


「そこには何人位人が居るんですか?」


「冒険者が5人ほど、成人になってすぐ位の少年が3名と少女が2名だったな。それに御者と雇い主であろうと思える男が一人ずつの11名だ。」


「それで、その集団は、町に寄って王都に向かう予定だったの。」


「そのようだ。それでだ。冒険者も含めて助けない訳にはなるまいな。」


「でも、町に入らないような後ろ暗い連中のようですから私たちの救援を受け入れるでしょうか?」


「うむ。背に腹は代えられぬからな。自らの命が危うくなっておるのだ。救援を受け入れぬなどと言うことはないであろう。」


「ロジャー、もうすぐ魔物が馬車があったあたり着くみたいだよ。」


「凛、粘着網のスクロールを多めに作って皆に配っておいてくれ。多分、役に立つ。それから、サラ、シモンは特になのだが、毛皮を痛めることになるから魔術はできるだけ使うな。フロルと儂で仕留める。できるだけ急所を一撃で仕留めるからな。良いな、フロル。それが難しかったら、首を落とせ。投げ斧は貸しておく。」


「はい。師匠。頑張ります。」


 僕たちが馬車の場所に到着した時には、冒険者とフォレストウルフの戦いは始まっていた。


「救援に来ました。私たちはDランクの冒険者です。」


「かたじけない。我々は、この商隊の護衛を行っている。Eランク冒険者、希望の光だ。」


「希望の光の皆さんは、非戦闘員の警護をお願いして良いでしょうか?私たちでフォレストウルフを始末させてもらいます。」


「あれだけ数のフォレストウルフを片付けることができるのか?それに、ぐずぐずしていたら、数が増えるばかりだぞ。」」


「はい。大丈夫です。お任せください。前衛は、リニとマルコ、フースとリンジーね。中衛がフロルとロジャー、凜とシモンさんも。クーンとルカスは非戦闘員の護衛に回って。私とサラが後衛を担当する。凛、サラに回復ポーションを多めに渡しておいて。」


 既にフォレストウルフは直前まで来ていた。


「マッドウォール!」


 マルコが防衛用の土壁を作った。それにリンジーがウォールで壁をつないだ。その上に前衛と僕たち中衛が乗った。


「前衛は、壁の前に前線を作るのだ。凛とシモンで粘着網で狼たちの足止めをしろ。それを越えてくる狼は、儂とフロルで仕留める。前線を越えそうなフォレストウルフは魔術攻撃をしてもかまわない。いいな。絶対塀にたどり着かせるな。」


『分かりました。』


「来たぞ。」


 近づいてくるフォレストウルフを魔力網で絡めて行く。シモンさんとの連携もしっかりと取れていて、今の所撃ち漏らしたフォレストウルフはいない。


「フロル、シモンと凜に余裕があるうちに、鉄球かクナイで仕留める練習をしておくのだ。クナイは何本くらい蓄えておるのだ?」


「凜にたくさん作ってもらったから200本は持っているぞ。」


「それだけあれば、クナイを使っても良いだろう。一番近くにからめとられている狼を仕留めて見よ。」


「分かったぞ。」


 フロルはクナイを出して一番近くにいる狼めがけて投擲した。クナイは、狼の眉間を貫き、フォレストウルフは絶命した。


「この距離だと簡単たぞ。狙う場所はあそこで間違いないのか。」


「うむ。クナイであれば、あの場所で良い。では、粘着網で絡めとられる前のフォレストウルフをしてめて見よ。」


「分かったぞ。」


 フロルは、塀の上を少し前の方に歩み出すと走り込んできているフォレストウルフの眉間を打ち抜き始めた。そのクナイをすり抜けたフォレストウルフを僕とシモンさんがからめとっていく。今の所、壁の所までは狼はたどり着いていない。


「フロル、凜、シモン、少しはこっちまで通してくれ。俺たちはただボーっと見ているだけになっているぜ。」


「リンジー!油断すでないっ。」


 ロジャーからの声にリンジーたちがビクッと反応してその顔を引き締めた。


「はい。」


 今の所中衛の僕たちが前線を作って維持している。


「凜、サーチで大きな魔力の動きを確認してくれ。まだ森の中にいるか?」


「確認してみる。中衛の維持を任せて良い?」


「シモンと儂、フロルで大丈夫だ。サーチしてくれ。」


「了解。」


 魔力の網を薄く広げて行く。今、僕たちを襲っている狼の後ろにと同じくらいの数の狼が近づいてきている。その一番後ろに大きな魔力の魔物が近づいてきている。


「ロジャー。大きな魔力の魔物との会敵まで後20分はない。」


「うむ。分かった。皆、気合いを入れて目の前のフォレストウルフを片付けて行くのだ。後ろの魔物も恐れる必要はない。多分お主たちが倒したことがある魔物だ。」


「「「「「「はい!」」」」」」

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