第85話 襲われた者たち
「凛、起きて。交代の時間ですわ。」
「ん?サラ。僕、寝てたんだね。」
「そうですわ。凛の夜警の当番は、月があの窓から見えるようになるまでよ。中央の椅子に座って全部の窓から見える外の様子に気を配っておいてね。私は、今から寝ますわ。宜しくね。」
中央のテーブルには小さな明かりがともっていた。その灯りは窓から漏れないように囲みがある。テーブルがある場所をほんの少し照らしている。」
「わかった。僕の次は、リニだったよね。リニとリンジーの交代は何時なのかな?」
「テーブルの上に交代の時間が書いてありますわ。それを読むように言って下さいですわ。」
「ああ、あの灯りの所に交代時間が書いてあるんだね。分かった。」
僕は、サラと交代してテーブルの所に向かった。外からは、風が草原を渡る音と獣の遠吠えが聞こえた。狼かな。森の方かもしれない。オオカミの魔物は、ダンジョンでも何回か会敵した。集団で襲ってくる魔物。草原まで出てくることは少ないはずだけど、夜の間は草原除け者を襲うために出てくるのかもしれない。
今何時くらいなんだろう。草原から沢山の音が聞こえてきている。風の音、狼の遠吠え、キェーンという悲し気な鳴き声。大きな音と言えばその位だけど、ビックリするくらい近くで聞こえることが度々あった。慌てて、音がした方の窓に駆けよって行ったけど、コテージの
何度も、窓の外を見ては、中央の椅子に戻ること繰り返して、サーチで魔物の位置を確認すれば良いことにいづいた。そっちの方が窓から目で確認するよりも確実だ。ただ、サーチは頻繁にかけすぎると高ランクの魔物には術者の位置を悟られることがあるって言われたから、近くで音が聞こえた時だけにしておく。
『ガシャガシャガラガラガラガラ…』
『ウォン、ギャン、ガウ、ワンワンガウ』
けたたましく吠える狼と車輪のきしむ音。馬のいななきが近づいてくる。こんな夜遅く、草原を移動する馬車?
月が見える方とは逆、月とロジャー達のコテージの間くらいの方向から馬車がこちらに近づいてくるようだ。魔物に襲われて逃亡しているのか…。
(まずは、テラとリニを起こした方がいいかな…。)
「テラ、起きてくれない。」
「…ん?どうしたの?」
「リニ、起きて。」
「…、時間か…?」
「時間になったわけじゃないんだ。ちょっと外の様子がおかしいからどうしたら良いかと思って起こしたんだよ。」
「外の様子が…。あっ…、馬車?こんなに夜遅く…。」
「なんか変でしょう。それに、魔物に追われているみたい。さっきは、狼の魔物に襲われているような音が聞こえていたんだ。」
「今は、その狼の魔物の気配はないわね。」
「馬車の人たちが追い払ったのかな…。」
「そうかもしれないけど、馬車で走っても町までは1時間以上はかかるわ。それに、いま聞こえる音のスピードじゃ馬が持たないんじゃないかしら。」
「狼を追い払ったのなら、どうしてあんなに急いているんだ?」
「凜、危ないかもしれないけどサーチをかけて見てくれない。強力な魔物の気配がないか確認しておいて。」
「分かった。魔力の網をできる限り薄く広くしてサーチをかけてみる。」
「いる。森の方に大きな魔力が感じられる。馬車は、その魔物から距離を取ろうとしているのかもしれない。」
「その魔物はこちらに移動してきているの?」
「今は、まだ、移動していないと思う。でも、その辺りから、かなりたくさんの多分フォレストウルフがこちらに向かってきている。」
「フォレストウルフの群れ…。それってかなり厄介かもしれないわね。」
「そうだな。このコテージの中に入ってくることはないかもしれないけど、俺たちが残している臭いには気付かれる可能性が高いな。」
「それってどう言うこと?」
「ここから出られなくなるってことよ。ロジャー様たちも同じことだから、対処してくださるとは思うけどね。」
「じゃあ、今からどうしたら良いの?」
「多分もうすぐあちらから来て下さると思うわ。ロジャー様が出てきたら、一度結界を切りましょう。」
「分かった。でも、そんなにすぐ出てくるかな…。」
「出てくるわよ。ロジャー様だもの。」
窓の外を見ると、小型のコテージが草原の中に現れて、ロジャー達が出てきた。
「ねっ、出てきたでしょう。」
テラが、外に出て結界を消した。ロジャー達が僕たのコテージに入ってくる。
「お主らも気が付いたか?」
「はい。凜がサーチで確認しました。狼、多分フォレストウルフの群れがこちらの方に向かってきているようです。その前に馬車が逃亡している気配が近づいて来ていました。まだこの近くにいるのではないかと思います。その馬車が引き連れてきているのだと思われます。」
「儂が掴んでいること以上のことを掴んでおるな。しかし、それでほぼ間違いないであろう。馬車の音が少し前に聞こえていたしな。」
「えっ、そうなの。音や狼の気配だけでそれが分かるんだ。」
「あんたがつかんだ情報があれば、そう思うのが普通じゃない?」
「でも、どうして馬車は、魔物に追われることになったんだろう。」
「多分だけど、魔物の気配に気が付かずに森の
「私もそんなことだと思う。」
「じゃあ、どうする?」
「まず、その逃げている馬車だけど。このままじゃ町まで行きつく前に狼の群れに襲われることになる。」
「みんなどうして、起きてるんだぞ。」
そんな話をしているとフロルたちが起きてきた。
「まずは、全員起こして、現状を確認するぞ。この後、馬車まで誰か偵察に行かねばなるまいな。こちらに逃げて来ている連中がまともな人間かどうかは分かっておらぬからな。」
「それは、ロジャーが持っているあの自転車で行くの?」
「自転車?ああ、マウンテンバイクだな。あれに乗れるのは儂だけだからな。馬車の確認は儂が行くことにする。お主らは、ここで待っておるのだ。ただ、油断をするのではないぞ。」
『はい。』
「儂が、偵察に行っている間は、二人一組でコテージの外で見張りをしていてくれぬか。儂は、その気配を頼りにここに戻ってくる。コテージの中だと気配を探れぬからな。」
「分かりました。」
直ぐにロジャーは出かけた。一番最初の当番は、リニとリンジー、次はフロルとシモン、それからはもう良いそうだ。偵察にそんなに時間がかかるはずはない。
暫く待っているとロジャーが帰ってきた。そして、コテージに入って来る難しい顔をして口を開かなかった。
「どうだったの?」
「護衛の冒険者はついていた。CランクかDランクであろうな。」
「Cランク冒険者なら次の群れは厳しいかもしれない。馬車は、町まで行きつきそうでしたか?」
「馬は、倒れていた。」
「それなら、何故気配は動いていないのですか?馬が倒れたなら、馬車を捨てて移動するはずだよ。」
「移動できない訳があるのだよ。それを見てきた。だから困っておるのだ。」
「移動できない訳があるの?」
「そうだ。訳が馬車の中にあるのだ。頭が痛い理由だ。」
「全然わからない。それで、どうするの?」
「馬車を避難させる。冒険者と雇い主は、排除する。という流れが一番やりやすいと思うのだが、シモンはどう思う。」
「突然、俺に聞くんですかい。…、分かりません。でも、ロジャー様がそうしろと仰るなら全力を尽くします。」
「シモン、済まぬ。聞き方が悪かった。馬車には、本当に儂たちが助けないといけない者たちが居る。」
「それって誰ですか?俺は、ロジャー様のことを信じます。馬車の中の人たちを助けます。」
「孤児院で育った卒院生だ。王都に向かっている卒院生。神父の思惑通りになっていれば、明日、テラとリニを乗せて行くはずだった馬車であろうよ。」
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