第84話 野営訓練の始まり

 地下室にはトイレ、台所には魔石コンロがある。で…、料理するのはテラとリニ…?やっぱり早く錬金できる料理を増やさないといけない。


「ボア肉のシチューとオーク肉のステーキ。それにパンが今晩のメニューよ。シチューは、シモンさんのお父さんに作ってもらったのを温めた物だから間違いないわよ。」


「シモンさんのお父さんは、護衛任務に連れて行けないから、自分たちで朝ご飯と晩御飯のメニューを作れるようになっておかないといけないね。」


「それとも、料理担当のメンバーを募集してみるか?」


「リンジー、それは、無理だと思うよ。後4日後には出発するのに新メンバーは来てくれないし選べない。まあ、当てもないのに募集はできないよ。」


「もう、そんな馬鹿な話は終わりにして、今日の夜警の順番を確認するわよ。一番最初の夜警はサラで良いわね。その次が凜よ。凛の次がリニ、その次がリンジーその次がフロルよ。朝方の1番が私で朝食の準備まで担当するわ。それで良い?」


「分かった。じゃあ、夕食を食べてしばらくしたらみんな寝るんだね。」


「そうね。外もだんだん暗くなってきたし、灯りをともしたままだと草原では目立つからね。」


「ロジャーたちは、全然見えないけど、真っ暗にしているのかな。」


「あら、本当ね。結界の効果なのかもしれないわね。」


「こっちを暗くしても見えないかな。早く、夕食を終わって試さないといけないね。」


「そうですわ。私の夜警の初めがあまり遅くなったら困りますわ。」


「夕食の準備は終っているのよ。さあ、早く食べましょう。」


「何か、野営じゃないみたいだぞ。でも、外を見ると草原だし、変な感じだぞ。」


「そうだね。何か楽しいかもしれない。」


「はいはい。無駄話ばかりしていないで、早く食べて、片づけをしましょう。食器はそれぞれ自分できれいにしておくのよ。」


「了解。」


「余ったシチューは、凜がアイテムボックスの中で保管してくれる。そうすれば明日になっても暖かいままなんでしょう。」


「確認したことはないけど、そうみたいだよ。前、残った料理を収納した時、暖かいままだったからね。でも、いつもは作った分ほどんど全部食べちゃうから、絶対だとは言えないけどね。」


「今回、暖かいままだったら、凜のアイテムボックスは、それができるってことだぞ。もしも、それができるなら、護衛任務中の食事は全部凜のアイテムボックスに入れておけば良いぞ。」


「どのくらいかかるか分からない護衛任務のための食事を前もって全部作っておくことはできないかもしれないけど、10日分くらいの食事は準備しておくことができるかもしれないな。」


「そうだね。それに、いくつかのメニューは、錬金術で作れるようになるかもしれないよ。お菓子なんかは作れたからさ。」


「お菓子は作ったけど、料理は作ったことないでしょう。沢山の材料が必要だし、材料を切ったり、煮込んだり、工程も手順も色々もあるから、錬金術には向かないかもしれないわよ。」


「うーん。それならやっぱりできるだけたくさんの料理を持って行こう。明日から作ってもらうようにお願いしようよ。」


「私も作れるから、大丈夫。でも、できるだけたくさんの料理を作ってもらっておきましょう。それは、私も賛成よ。」


 夕食を食べながら、護衛任務の時に必要な物を話し合った。食事の材料だけでも準備が大変かもしれない。僕たちみたいに大容量のストレージやアイテムボックスを持っていない冒険者のパーティーはどうしているんだろう。


 夕食を終えて、食器をきれいにしたら、暫くは、休憩タイムだ。


「凛、外の様子と結界内から攻撃できるかの確認をしておこう。それと、ロジャーさんたちのコテージの場所も確認しておかないと、魔物を攻撃する時に間違ってコテージを攻撃したりしたら大変だぜ。」


「そうだね。どの向きにコテージがあるのかは確認したけどその方向に印か何か付けておかないといけないね。外に出るから、窓から見てどのへんだったかを教えてくれるかい。」


「分かった。あの窓から見えた方向は覚えているから、凜たちが外に出るなら伝えるわ。結界内なら聞こえるでしょう。」


 僕たちは外に出て、窓の前に立ち、テラが指さす方向を地面に矢印で示した。間違ってもその方向に攻撃しないように気を付けないといけない。


 外に出ると夜風はとても冷たくて冬が近づいてきていることをひしひしと感じた。


「リンジー、中に入ろう。」


「おっ…。おう。外に出ると野営してるって感じがするな。コテージの中だと温かいし、みんなとワイワイ話していても気にならないけど、テントならあんなに大きな声で話していたらいけないのかな。」


「テントでも結界の魔道具を使っていたら大丈夫なんじゃない。」


「う…っ。そんなこと分かっているよ。でも、普通の冒険者はそんなもん持ってないだろう。」


「まあ、そうかもね。でも、大人数だったら、ワイワイ話していた方が魔物が近づいてこなくていいかもしれないね。」


「ああっ、そうかもしれない。どっちがいいのかロジャーさんに聞いておかないといけないな。あんまり、ワイワイ話しながら移動していたら他の冒険者の皆さんに叱られるかもしれないからな。」


「まあ、そうだね。護衛だから、周りに気を配って歩かないといけないのかな。でも、サーチで魔物の気配を探ったり、人の気配を探ったりしながら歩けば、急に襲われることはないかもしれなね。」


「凜には、サーチのスキルがあるからな。俺も、気配察知のスキルがえてくればいいんだけどな。」


「スキルってえてくるの?」


「さあ…、分からない。でも身体強化ができるんだから聴覚強化や視覚強化で気配が察知できるようになるかもしれなだろう。それがスキルになったら魔力を沢山使わなくてもできるようになるのかなって思ってさ。」


「なるほど。そうなると良いね。リンジー、聴覚強化ってできるの?」


「やったことない。出来たら良いなって言う話さ。」


 僕は、何となく周りをサーチしてみた。今の所強い魔力を感じるような魔物は近くにいないようだ。一晩、このまま何事もなく過ごすことができたらいいな。


「さあ、中に入ろう。」


 リンジーと一緒にコテージの中に入って行った。中では、それぞれ思い思いに過ごしていた。そう言えば、ベッドはない。自分たちで用意した寝袋みたいなものをそれぞれ出して自分の寝る場所を確保していた。窓の側はあけている。夜警当番がそれぞれの窓から外を見ることができるようにだ。


「明かりを消しましょうね。」


 テラがそう言って明かりを消した。外では、欠けた月が草原を照らしている。


 そう言えば、レミから返事は届いているかな…。寝る前に確認してみよう。アイテムボックスを開いて、手紙でサーチしてみると、僕が出した手紙の他にもう一つ情報だけの手紙が見つかった。


『佐伯 凛 様

 魔術回路を活性化してくれてありがとう。

 そして、この連絡方法を考えついてくれたことも感謝しています。

 僕は、こっちの世界で父さんや母さんに合えたことにも感謝しているし、こっちの世界で魔力病を治すことができたことにも驚いているんだ。

 僕のことなんだけど、実は、ほとんど覚えていない。僕のことを守って命を落としたのは、老騎士マティアスだと思う。でも、それしか覚えていないんだ。できれば、お墓を作ってあげて欲しい。僕がそちらに戻れた時に花を手向けに行きたい。


佐伯 レミ


 ロジャーに話たいけど、明日になってだ。よかった。レミと連絡が取れて。レミも魔力回路が活性化したんだ。錬金はできるようになったかな…。これで、知りたいことがあれば、調べてもらうことができるかもしれない。でも、レミが、手紙をアイテムボックスでコピーしても全く気付かなかった。時々、手紙を確認しないといけないのかな。


 それにしても、レミは、佐伯なんだ。なんか面白い。

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