第83話 結界の効果

「リニ、凛、遅い!」


「昼から野営用の道具を買いに行くから帰ってくるようにと言っていたでしょう。」


 僕たちがパーティーハウスに戻ると、他のメンバーは出かける準備を終えて待っていた。


「ごめん。ホンザさんの所で野営用の魔道具をいくつか見つけてさ。性能や組み立て方を教わっていたら遅くなってしまったんだ。」


「ホンザさんの所に何か置いてあったのですかですわ?」


「あったよ。便利そうな道具が。」


「じゃあ、私たちも一緒に見せてもてもらいましょう。買うかどうかは、実際に見てから決めるって言うことで良いかしら。」


「でも、お金が足りなくて…。冒険者ギルドに行って下ろしてこないといけないんだ。」


「いくら足りないの?」


「手持ちには金貨55枚で、必要なのは、金貨60枚。」


「金貨5だけ…。それくらいなら、私のアイテムバッグの中に入っているわ。食料品も含めても金貨10枚はいらないだろうから大丈夫よ。行きましょう。」


「分かった。じゃあ、ホンザさんの所からだね。」


「そうね。じゃあ、行きましょう。」



 テラたちもコテージと結界の魔道具が気に入った。大きな買い物だったけど、野営を安全に快適にできるなら無駄な買い物ではない。


 その他、着火のスクロールや洗浄のスクロールの材料、鉄のブロックや魔鉄鋼ブロックも少しだけ買い込んだ。最後に市場に行って食料を買い込み、パーティーハウスに戻っると、ロジャーが家の前でシモンさんたちと話をしていた。


今日こんにちは。」


「今日は、凜さん。」


「シモンさんたちも一緒に野営訓練に来てくれるの?」


「はい。あっしらも一緒にお願いできたらって思ています。それで、ロジャー様に持っていた方が良い物を聞いていた所です。」


「凛。お主らは、何か準備してきたのか?」


「うん。僕たちが準備してきた物は、地下室付きのコテージでしょう。隠ぺい・物理・防臭・消音の効果の結界魔道具だよ。これだけあれば、安全に野営ができるでしょう。」


「うむ。確かに、お主たちには必要な魔道具であろうな。それであれば、シモンたちは、儂と一緒に野営することにしようかのう。シルバーダウンスターは、自分たちだけで野営してみよ。メティスの福音は、儂のコテージを使うと良い。地下はないからトイレは、パーテーションの中になるがな。」


「俺たちもコテージを使わせてくださるのですか?俺たちは、テントか何かを購入しようかと思っていたのですが…。」


「勿論、お主らには、必要とだと思うし、購入した方が良いだろうな。しかし、儂が持っている小型のコテージを凜が錬金できるなら、素材を集めて来て製造してもらうって言うのはどうだ?」


「凜さん、錬金できるか試してもらえますか?できそうなら頑張って素材を探してきます。」


 ロジャーのコテージを出してもらって収納、アナライズしてみた。


「できた。アナライズができたから、作ることできると思う。でも、素材が多い。鉄、木材。魔石。魔石はインク用みたい。魔鉄鋼もいるかな…。どこに使われているか分からないけど。一番の高級素材は魔鉄鋼のようだね。」


「魔鉄鋼は、町の鍛冶師工房で譲ってもらえるから、行ってみればよい。鉄もだな。魔石は持っているならそれを使え。残りは木材だけだ。今日の野営訓練の時にでも採集すれば素材をそろえられると思うぞ。」


「凜さん、作れるかどうか錬金術式まで作ってみてもらえますか。」


「分かった。コンストラクション。…、できた。素材さえそろえたら作ることできるよ。」


「では、今日の野営訓練では、儂と一緒にこのコテージで過ごしてみようかのう。いくらこの中が安全でも見張りはきちんとせねばならぬからな。」


「でも、ロジャーさん。そのコテージどうやって持ち歩けばいいんですか?」


「お主らに貸しているアイテムバッグには入れることができるぞ。ある程度開けた場所であれば設置できる。ただ、そんな場所は魔物も近づきやすいから、気を付けて設置しないといけないがな。」


「分かりました。でも、アイテムバッグはいつまでお借りしておくことができるんでしょうか?」


「アイテムバッグも凜に錬金してもらえるか確認してみよ。できないなら、アイテムバッグがドロップするダンジョンを教えてやるからな。力を付けてそこに行けばよい。拾うまで貸してやるよ。」


「ありがとうございます。凛さん、まずアナライズをお願いします。」


頼まれてアナライズしてみたけど、できなかった。残念だ。


 そんな話をしながら、町を出て草原に移動していった。町から3時間程歩いた場所で薬草採集を行い、野営場所を決めた。僕が出した地下室設置用の穴を掘るための枠に合わせてリニが穴を作った。その穴に合わせて僕がコテージを立てる。ほんの5分位でコテージが出来上がった。


 結界の魔石には、僕が魔力を注いだ。他のみんなも魔力登録をしているから、もしも、コテージの場所が分からなくなっても入れなくなることはない。


 魔石をコテージの屋根の入り口の上にセットして結界を発動させた。


「あっ。」


 目の前にあったはずのコテージがどこに行ったのか分からなくなった。


「凛。みんな外にいる時に結界を発動させたら、誰も入れないぞ。」


「魔力操作で結界を消してみる。」


 先ほどコテージがあったと思える辺りに手をかざして結界を消すように念じてみる。コテージは現れない。


「結界、消えろ!」


 先ほど手を伸ばしていた所とは全然違う場所にコテージが現れた。隠ぺいの結界。凄い。


 みんな、中に入ったの確認して、結界を発動した。


「みんないるよね。」


「いるぞ。今度は、俺が外に出るから、中に入れてみてくれだぞ。」


「分かった。フロル出てみて。」


 フロルがドアを開けて出て行った。窓の方を見るとグルグルコテージの周りを回っているフロルが見えた。結界内にいるようでドアから出てもこちらを見失っていないようだ。


「ドアを出ただけだったら全然大丈夫だぞ。」


 そう言うとコテージを離れて行ったと思ったら、急にきょろきょろと変な動きをしている。


「ロジャー、ここから出て行ったフロルも見失ったみたいだけどどうやったら、フロルを中に入れることができるの。」


「結界から完全に出ない位置で体の一部だけをフロルから見える場所に移動してそこから呼び寄せればよい。不用意に結界を出てしまうと見失うからな。気を付けるのだぞ。では、フロルを呼び入れてみるのだ。」


「分かった。やってみる。」


「凛、一人で大丈夫か?一緒に行ってやろうか?」


「うーん。一緒に行ってもらった方がいいかな。僕が、このコテージを見失うようなことがあったら、地面に印をつけるからそこから出ないようにしてね。」


 そう言えば、どうしたら結界の範囲を変えられるのかな。ホンザさんは、結界の大きさを変えられるって言っていたと思うんだけど…。


「フロルー!こっちだよ。」


 フロルは、全然こっちを向いてくれない。消音の結界が効いている。


 もう一歩フロルの方に近づいて…。振り返ると、まだコテージが見える。もう半歩、フロルの方に近づく。


「フロルーっ!こっちだよ。」


 フロルが僕の声に気が付いた。身体を少し戻して振り返る。コテージはある。


 顔だけをフロルの方に動かして、もう一度呼んでみた。


「フロルっ!こっちだよ。見える?」


「何となく見えるけど…。」


 僕は、フロルの方に手を伸ばした。


「僕の手を取って。こっちに来て。」


「うん。分かった。そこなんだね。」


 フロルが僕の手を取るとフロルが結界の中に入ってくることができた。


「不用意に結界の外に出ちゃ危ないって言うことが良く分かった。本当にどこにあるのかが分からなくなる。このコテージの地下にはトイレがあるから夜外に出る必要はないぞ。なっ。」


「結界内から攻撃しても通るのかな。通るなら、ますます結界の外に出る必要はなくなるんだけど。」


 結界の効果は良く分かった。結界の外に出ない。決めた。


 シモンさんたちは、ロジャーと一緒に僕たちのコテージを出て、草原の開けた場所に自分たちのコテージを設置していた。窓からその様子は見ていたのだけど、6人がコテージの中に入ったかと思うと、コテージもロジャー達も見えなくなってしまった。


魔道具のコテージ、恐るべし。

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