第82話 野営の魔道具

「お早う。」


「うむ。お早う。」


「ロジャーは、今からギルドに行くの?」


「もう少ししてからだ。朝4の鐘の頃に領主様が下水処理場後にいらっしゃるそうだ。儂は、3の鐘の前にギルドに行くといっている。」


「朝3の鐘って言ったらあと少しじゃない。出なくていいの?」


「大丈夫だ。しかし、そろそろ出ようかのう。」


「いってらっしゃい。」


「うむ。行ってくる。凜も朝食を食べたら倉庫に行くのか?」


「リニと一緒に行ってくる。でも、直ぐに終わらせるよ。」


 リニは、もう朝ご飯は食べ終わって外で朝の訓練をしている。素振りからリンジーとの打ち込み稽古、武術などいつもの訓練。僕も、朝ご飯の前にちゃんと参加している。


「リニ、倉庫に行って燃料作りをしようか。」


「そうだな。お金は持っているか?」


「昨日、パーティー資金をギルドから卸してきたから持ってるけど、この後、野営用の道具を買いに行くでしょう。伝票で済ませてもらおうよ。」


「じゃあ、計算が面倒にならないようにホンザさん所とギルドに卸す分の魔石炭もどきはまとめて計算してもらうか。」


「そうだね。そしてギルドに卸す分で清算してもらうと計算が簡単になるね。」


「今日は、ギルドには何束卸すんだ?」


「うん…。1万束で良いかな。ロジャーが帰って来たら野営訓練に行くんでしょう。」


 リニと今日の燃料の量を決めて、ギルドの仮倉庫にやってきた。後5日後には、薪型燃料を20万束は輸送するはずだ。今までもいくつかの商隊が王都に薪を販売に行っている。薪型燃料のことは既に王都では評判になっていて、普通の薪の20倍とは言わない金額で取引されていると聞いている。


「「おようございます。」」


「おう、来たか。5日後には王都へ大規模な輸送があるからな。できるだけたくさん作っておいてくれよ。」


「でも、王都へ運ぶ予定だった10万束はすでに収めていて、もうすぐ20万束も超えるんじゃないですか?」


「当初の予定では、王都の一冬分の燃料は10万束あれば十分と思っていたのだが、王都経由で他の町にも売られるようになってな。薪型燃料はいくらあっても足りないような状態ということだ。錬金術師ギルドにも要請しているのだが、一日に5000束も製造できないような状況らしいのだ。」


「分かりました。でも、僕たちも、今日この後に野営訓練を行わないといけないので、ギルドに卸す分は、1万束でお願いします。それから、ホンザさんの所に1000束卸ますので、1万1千束分の魔石炭もどきを頂いて良いですか?」


「1万1千束分の材料なら、金貨1枚と銀貨1枚だ。伝票清算にするか?」


「はい。それでお願いします。」


 僕が、1万束分の魔石炭もどきを収納し、リニは、1000束分をマジックバッグに収納した。リニは、いつもの作業場所に移動して、僕もその横で錬金を始める。40分位で僕が担当していた薪型燃料は完成した。


「おじさん。燃料が完成したから、収めたいんだけど、査定をお願いしてもらって良いですか?」


「おう。ちょっと待ってな。直ぐに行く。」


 おじさんと一緒しに燃料倉庫に移動して、薪型燃料1万束を指定された場所に出した。おじさんは、出された燃料の方に手をかざしている。多分鑑定か何かの魔術を使っているだろう。


「確かに、いつもの品質の燃料、1万束だ。伝票を渡すからちょっと待ってな。材料費を引いて、金貨98枚と銀貨9枚だな。ほらよ。」


「うん。毎度ありがとうございます。」


「こちらこそ、ありがとうな。明日は、3万束ほど頼むぞ。人気商品の輸送って言うんでたくさんの商隊が応募してきてるんだ。どの商隊にも1万束以上は卸したいからな。」


「明日は、いつくらいに街に帰ってくるかわからないけど、できるだけたくさんの燃料を卸せるように頑張るよ。」


「凛、俺も作業が終わったぞ。ホンザさんの所に燃料を卸して、ギルドに伝票を渡したらパーティハウスに戻るぞ。午後から買い物だ。」



 リニと一緒にホンザさんの店に行った。ここ2ヶ月ほどでホンザさんの店が大きくなっている。


「リニ、凛。待っていたぞ。燃料は、倉庫に入れてくれるか。それから、消火壺を1000個頼む。出来たら今日中に収めてくれると嬉しいのだが…。粘土は準備してるぞ。どうだ凜。今から作れぬか?」


「今からですか…。明日は、野営訓練からいつ戻るか分からないから…、分かりました。粘土の準備をお願いします。」


「おお、助かる。お~い。今すぐ、粘土を4袋持ってきてくれ。」


 店の奥から若い店員さんが粘土を運んできた。僕は、その粘度を収納して消火壺を錬金する。


「アルケミー・錬金壺・1000」


 15分もかからず、消火壺は出来上がった。僕が、消火壺を錬金している間、リニは店の中の商品を見ていた。


「凛!見つけたぞ!」


 消火壺を錬金し終わって、店先に出来上がった壺を並べているとリニが走ってやってきた。


「何を見つけたの?」


「小さな、マジックポーチだ。」


「いくらだった?」


「金貨5枚って書いてあったと思う。」


 その値段なら十分に購入可能だ。でも、容量がどの位なのかも確認しないといけない。マジックポーチと言っても、その容量は様々だからだ。


「ホンザさんに容量のことなんかを聞いてみよう。」


 僕たちは忙しそうに店の中を走り回っているハンザさんを捕まえてマジックポーチのことを聞いてみた。


 このマジックポーチは、旅の冒険者から買ったもので、鑑定すると容量は、1m四方程。魔石は取り換えないといけないけど、ポーチの表面などの痛みはなくて、冒険者から買った物にしては良い品だということだった。僕たちになら金貨3枚で良いって言ってくれたから即買いした。この後、錬金できるか試してみよう。


「ついでだから、野営用の道具も探してみようか。」


「そうだな。フロルも凜もストレージ系のスキルを持っているからそこそこの大きさの物なら持ち歩けるものな。」


「そうだね。今回は、燃料を運ばないといけないから、そんなにたくさんは持って行けないかもしれないけど、それでも、馬車なんかで移動するのに比べたら荷物の持ち運びは、楽だからね。」


「シモンさんたちは、燃料輸送にマジックバッグを使わせてもらうって言ってたから、シモンさんたちも一緒に使えるような道具があれば良いね。」


「そうだね。今日の野営訓練もシモンさんたちは来るのかな?」


「どうかな。今日は、薬草採集の常時依頼を受けてみるって言ってたよ。シモンさんたちなら、午前中で終わるだろうから、来るかもね。」


 話をしながら店の中を見て回る。


「ホンザさん。安全に野営ができる魔道具なんか置いてないですか?」


 自分たちだけで分からない時は、店の人に聞くのが一番だ。


「はい。安全に野営ができる魔道具ですか…。うーん。ちょっとお高いですが、これなんかどうですか?」


 ホンザさんが持って来たのは、結界の魔道具。


「魔力は、かなり食いますが、上等な魔石に隠ぺい、物理、防臭、消音の結界の魔法陣が書き込まれた魔道具です。テントの上などに設置すれば、中で火を焚いていても外から見つかることはないという代物ですよ。」


「魔石に魔法陣が書き込まれた魔道具なら錬金することはできないのかな…。」


「それは、どうでしょうか…。しかし、このような魔道具の錬金術式なんて見たことないですね。大抵、ダンジョンのドロップ品です。」


「もしも、その結界の外に出た時は、どうやって戻ったら良いの?」


「魔力登録をしておけば、少しぐらいなら離れた場所からでも、結界を消すことはできます。その時は、周りから見えるようになっちまいますがね。それをしたくなかったら中から手を取ってもらえばいいとか何とか言っていたと思いますよ。」


「それ、良いね。どの位の大きさの結界を作ることができの?」


「魔力の込め方と設定によりますね。最大で20m範囲の結界を一晩維持したことはあるそうですが、その時、一人分の魔力では足りなかったって言うことでしたよ。」


「リニ、それ買おうよ。絶対必要だと思う。ねえ、ホンザさん。それいくらなの?」


「これですか。高いですよ。金貨50枚までしか、値下げできないです。」


 金貨50枚って言えば、僕たちのパーティーハウスの2年分以上だ。でも、今の僕たちには払えない額ではない。今日だけの売り上げで金貨40枚なのだから…。これから先の野営時の仲間の安全を考えれば安い物だと思う。


「買います。それと…、野営用のテントなんかもないですか?」


「テントですか…。皆さん、アイテムボックス持ちですよね。でしたら、コテージを購入なさいませんか?地下室ありで金貨10枚。台所施設と地下にトイレもついています。地下室を設置するために穴を掘らないといけないですが、このコテージとその結界の魔石を購入なさったら、野営はこれ以上ないほど安全になりますよ。」


「そのコテージって言うのを見せて下さい。」


「組み立てないといけないものですからね。慣れたら数十分で組み上げられるらしいですが、今からうちの庭で組み立ててみますか?」


 正午までもう暫く時間がある。


「はい。お願いします。」


 僕とリニは、説明書を読みながらコテージの組み立てを始めた。まず、穴を掘らないといけない。これは、リニにお願いする。7m四方深さは1.2mの穴。基準は、コテージの材木で測れるようになっていた。基準の木材を並べて、その大きさに合わせて穴を掘ってもらう。枠からまっすぐ下に柱を垂らしていく。指定の深さになると枠から下がっていた柱が丁度垂直になって、指定された深さになったことを知られてくれた。


 穴の底にまた枠をはめて地下室の壁を作る。壁の部分には強化用の柱が取り付けられるようになっているが枠にはめるだけだから直ぐに骨組みが完成した。骨組みにはめこむように地下室の壁を入れ込んでいく。リニと二人で板を運んで溝の中に板を入れたらすぐに地下室の壁が出来上がった。


 同じように地上の建物の部分ひを組み立てた。慣れないせいもあるのかもしれないけど、正午を過ぎても組み立ては終らなかった。それでも、リニと二人で正午を過ぎで2時間位でコテージの組み立てが終わった。


「どうですか?地下室用のトイレは、このトイレ用のマジックボックスをセットすれば、中に溜めていて、まとめて捨てることができます。」


「このコテージは、凜様だったら、組み立てたまま収納できるのではないですか?お試しいただいてもよろしいですよ。」


 ホンザさんに進められて出来上がったコテージをそのまま収納してみた。


「できました。」


「では、穴掘り用の枠だけ取り出すとかできますか?」


「うっ…。やってみます。」


 自分たちで組み立てたから、ホンザさんが言っている部品はイメージできる。どのように組み上がっていたかも分かる。一番最初に穴を掘るためにセットした枠をイメージしてアイテムボックスから取り出そうとしてみた。


「凜様。さっきとは違う場所に置いてみて下さい。そうですね。この辺で良いでしょう。」


「でも、そんなところに置いたら、お店の裏庭に二つも穴が開いちゃいますよ。」


「リニ様、この穴、埋めることがお出来になるでしょう。まず、こちらの穴を埋めて頂けますか?」


「えっ。おっ、おう。インフィルトレイト。」


 リニの魔術でさっき掘った穴が埋まった。


「リニ、魔力は大丈夫?」


「大丈夫だ。エクスカペート。」


 さっきと同じように枠に沿って穴ができていく。1分程で穴ができた。


「では、凜様。一度枠を元に戻して。今、リニ様が掘られた穴の所にコテージを出してみて下さい。」


「分かった。元の場所。組み上がったコテージの所に収納してみる。」


 枠の方に手を伸ばして組み上がったコテージの枠の場所に手の先にある枠を収納する。枠はふっと消えてコテージに納まった…ような気がする。


「では、穴の中にぴったりはまるように設置してみて下さい。」


「分かった。」


 魔力を細かく調節しながら、コテージを穴にぴったりとはまるように置く。


「うまくいったみたい。」


「凜様、素晴らしい。このコテージは、凜様たちの為にあるような物です。是非ご購入なさることをお勧めいたします。凜様たちにはいつもお世話になっておりますし、今日は沢山の商品をお買い上げ頂いておりますから、トイレの魔道具も込み。結界の魔道具と合わせて、金貨60枚丁度で如何でしょうか。」


「金貨60枚。冒険者ギルドから今回の野営訓練のための道具台として下ろしてきたのは、金貨10枚だ。予算に余裕はある。今回の依頼だけだったら赤字だけど、これから先の野営の装備としては申し分ない。


「多分、買います。でも、ロジャーやテラたちと相談してくるので、少し待っていてもらえませんか。昼からみんなで買い物に来る予定だったので、一度パーティーハウスに帰って必ず来ます。」


「分かりました。では、コテージはこのままにしてお待ちしております。では、後ほど。」

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