第80話 風刃のスクロール

「この階層で、スクロールを使えなかったらかなり厳しいです。」


「そうであろうな。では、一度上の階層に戻ってみるか。そこで風刃のスクロールを使ってみてはどうかな。粘着網や酸攻撃のスクロールよりも使用には魔力を使わないと思うのだがな。」


「でも、スクロールはまだ、一枚も錬金していないよ。かなり大きな錬金術式だから、何枚くらい錬金できるか分からない。」


「まず、10枚程錬金してみよ。一枚ずつ錬金する必要はないだろう。」


「分かった。材料は、さっきの魔石でいいみたい。その他に必要な物は、紙とインクの材料だけ。」


「では、魔石を渡すだけで良いな。木材も収納しておくか?」


「この階層で木材を収納出来たら色々便利かもしれないね。家の材料にできるんじゃないかな。」


「フロル、投げ斧を貸してやるから、木材を収納してきてくれぬか?」


「分かったぞ。すぐそばの木を切ってみる。師匠のさっきの斧の使い方は沢山練習したから同じようにできるぞ。」


 フロルは投げ斧の一投で1本の木を倒していく。10本の木を倒して収納するのに5分もかからなかった。投げた斧が手元に戻っているのが不思議だ。


「フロル、どうして何度投げても手元に斧があるの。」


「細いチェーンで繋がっているの見えない?チェーンを通してストレージに収納しているんだぞ。凜もできるぞ。投げて、木を倒したら、チェーンに魔力を流して収納するんだぞ。」


「無理だね。まず、フロル程の勢いで斧を投げることができない。きっと斧は木に刺さったままになる。」


「じゃあ、身体強化と投擲の練習が必要だぞ。その練習をしたらできるようになるはずだぞ。」


「とっても練習したらできるかもしれないけど、その前に色々やらないといけないことがあるみたい。できることから頑張るよ。」


 剣の訓練もだけど武術の訓練もしないといけない。それ以上に攻撃用スクロールを探しに行かないと回復用のポーションだけではパーティーの維持支援しかできない。


「そうだったな。凜は、投擲訓練よりも先にしないといけない訓練があるぞ。その方が、うちのパーティーが強くなるはずなんだぞ。」


「そのしないといけないってことって何なんだフロル?」


「そんなことは決まっているぞ。お前も分かっているだろう。」


「リンジーは、分かっていないのですわ。だから聞いているのですわ。」


「しょうがないな。俺が教えてやるからしっかり聞いているのだぞ。」


「俺は、分かっているさ。凛にはポーションの開発をしてもらわないといけないだろう。」


「ポーションは、今の物でも十分ですわ。凛には、凜にしかできないことをしてもらわないとを私たちのパーティーは楽しく活動できないのですわ。」


「楽しく?ちょっと待って、凛がしないといけないことは、スクロールの術式を見つけることでしょう?」


「そうですわ。凜には、美味しいお菓子の術式を見つけて作ってもらわないとパーティーの士気が上がらないのですわ。」


「そ、そうだな。それも必要かもしれないが、凛に作ってもらうのは、攻撃スクロールだな。」


「攻撃用スクロールなら、風刃のスクロールの術式があるからね。まずは、作ってみるね。」


 僕たちは、階層を戻して2階層の草原階層に場所を移した。ここは僕たちの実力には見合った階層だと言える。たとえサーペントが現れても僕たちだけで何とかできる。そんな階層だ。


「凛、ここでなら私たちだけでも警護ができる。風刃のスクロールを錬金しても大丈夫よ。」


「分かった。アルケミー・風刃のスクロール・20」


 魔力が吸われるのが分かる。でも、大した量じゃない。この位の減り方なら100枚同時錬金をしても大丈夫だろう。


 5分もかからず錬金は終った。ここの階層での試用実験の為、フロルに4枚のスクロールを渡し僕が10枚を持つ。テラとリニ、リンジーに2枚ずつ持ってもらい、サラには無しだ。


「凛、近くに魔物はいる?」


「多分、あっちの方向。ボアがいる。」


「了解。フロル、リニ向こうにボアがいるみたい。二人でスクロールの使い勝手を確認してもらって良い?ロジャーさん、バックアップを頼んで良いですか?」


「テラは、年寄使いが荒いのう。まあ、任せておけ。行くぞ。リニ、フロル。」


「はい。了解。」


「僕も着いて行って良いかな。ロジャーと一緒なら安心でしょう。」


「うむ。凜が作ったスクロールの実験だからな…。着いて参れ。儂が側にいるからと言って油断するなよ。」


「分かってるって。じゃあ、行こう。」


 前衛がリニ、前を歩いている。すぐ後ろにフロルがいる。その後ろいるのがロジャーと僕だ。僕たちは並んで歩いている。サーチは切っていないから近くの魔物の気配は確認している。


「近くに他の魔物は居ないよ。フロル、ボアに向かって風刃を撃って!」


「リニ、盾を構えておけ。フロル、スクロールを構えておけよ。」


「はい。」


「ボアが近づいて来てるよ。気を付けて。」


「確認している。スクロールに魔力を流すよ。」


『シュッ、シュシュッ』


「スクロールが消えた!」


「フロル、次のスクロールを出してっ!」


「もう出してるよ!」


『シュシュシュシュシュシュシュ…』


 ボアは、フロルが撃ち出した風刃に切り裂かれて肉と魔石だけを残してダンジョンに吸収されていった。


「なかなかの威力のウィンドカッターだぞ。サラの魔術より強力みたいだ。」


「でも、一度魔力を流すのを止めたら消えちゃうんだよね。」


「そうみたいだぞ。必要な魔力は少ないけど、気を抜くとスクロールが消えるんだぞ。俺ならストレージに多めに入れておけば良いけど、ストレージがないとあまりたくさん持てないぞ。」


「何かいい方法はないかな。」


「アイテムバッグかアイテムポーチを持っていれば、魔術操作の熟練度さへ上がれば、バッグから直接取り出して使用できるようになるやもしれぬが、魔道具は高い上にめったに売りに出されぬからな。」


「ロジャーは持っていないの?」


「どうだったかな…。持っていた分はお前たちに貸し出したからな。」


「リニ、お主に貸しておらんかったかな。」


「僕たちが借りていたアイテムバッグは、パーティハウスに置いてきたよ。落としたりしたら大変だから。」


「お主ら、ダンジョンに潜るのにアイテムバッグを置いて来たらダメだろう。何に使うと思っている。ダンジョンでは沢山のドロップ品を手に入れたら、アイテムバッグがなかったら困るであろう。」


「でも、あれってロジャーさんに借りている物だし、ダンジョンは、何があるか分からないから…。失くしたら返せないと思って、置いてきたんだよ。多分、シモンさんたちも持ってきていないと思う。」


「昔、新しいダンジョンに入った時、わざと色々な魔道具を吸収させたことがあってな。そうしたらどうなったと思う?」


「もしかして、吸収させた魔道具がドロップしたとか?」


「その通り、ただし、その魔道具を作ることができる素材がその階層に揃っている時だけだがな。この階層は、魔石も魔物の皮もドロップするからな、マジックポーチを吸収させたらドロップするようになるかもしれないな。」


「本当?それなら、町でマジックポーチを探してこようかな。」


「待て…。ストレージに入っているかもしれない。」


 ロジャーがしばらくストレージをゴソゴソ調べていたけど、結局、何もなかったようだ。


「この階層では吸収させても無駄な物しかなかった。しもし、町でアイテムポーチがあれば購入して吸収させてもいいかもしれぬな。」


「でも、アイテムポーチって高いんじゃないの?」


「ここに吸収させたらドロップ品になるような物なら高くても金貨1~2枚で販売しているであろう。」


「そのくらいの値段だったら、買うことができるね。」


「今ものお主たちは、資金的には潤沢だからな。しかし、この町全体を探しても1個あれば良いほどの貴重品ではあるのだぞ。」


「本当に、それをダンジョンに吸収させたらドロップするようになるの?」


「運が良ければな。」


「凛。次の魔物の討伐は、俺がしてみる。次の魔物を探してくれるか?」


「この近くにいるのは、ホーンラビットだけだよ。でも、群れだよ。かなり大きな群れ。大丈夫かな?」


「魔力を流すのを止めたら消えるんなら群れでも個体でも同じだろう。」


「それなら、行ってみようか。あっちだよ。」


 その方向にしばらく歩いて行くとホーンラビットが群れが見えてきた。この魔物は1匹ずつなら特に心配するほどの危険性はない。でも、群れとなると話は違う。途端に危険な魔物になる。


「リニ、準備は良いの?あの数は危険だよ。」


「大丈夫だ。心配ない。でも、もしもの時は、粘着網のスクロールを使ってくれないか。一斉に来るタイミングが悪かったら風刃のスクロールでは間に合わないかもしれない。」


「分かった。もしもの時は、粘着網のスクロールで、動きを止めてだなね。」


「そう言うことだ。じゃあ行く。」


 ホーンラビットの数は多かった。50匹以上いたと思う。その魔物が次々にリニに向かってきた。リニはついていたんだと思う。一斉に襲ってくることがなくて、一つのスクロールで群れを片付けることができたのだから。」


「凄いぞ。このスクロール。見てただろう。」


 リニの側には、ホーンラビットの毛皮と魔石が沢山落ちていた。使い方さえ間違わなければ、このスクロールは使えそうだ。







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